重なる月

志生帆 海

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14章

身も心も 5

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「なんだよ、母さん」
「ふふふっ、あなたのもあったわよ、懐かしいわね」
「げっ!」

 母が衣装箱をひっくり返して笑っていた。

 畳に散乱していたのは、俺が高校時代に使っていたジャージで、裾や袖先が擦り切れて年季が入っていた。

 体育で使ったものだが、俺の扱いが雑だったのと成長が著しかったので、何度か買い替えてもらったんだよな。だから家での部屋着にもしていたんだ。懐かしいな。

 当然パジャマ代わりにもしていたので、ジャージの下にはやましい思い出もある。

 はぁぁ~ とっくに捨てたと思っていたのに、こんなのまで取っていたのかよ!

「これ、どうする?」
「俺がもらう!」

 それをまさか翠が羽織ってくれるなんて。

 当時このジャージを着ていたのは俺で、このジャージを着ながら何度も何度も翠を恋しがっていたので、気まずいぞ。

 翠はそんなこと知る由もないから、ぎゅっと抱きしめて、匂いまで嗅いでいる。

 ううう、これはかなり恥ずかしい!
 
 過去の秘めたる思いを暴露しているような心地で、落ち着かない。

「流、これをガウンがわりに持っていくよ」

 明らかに大きいジャージだぞ? 

 だが翠の華奢な体が、俺のジャージの中で泳いでるのもいいし、細い指先だけ出ている袖もヤバい、萌える!

 どうして俺の翠は、こんなに可愛らしいのか。これは堪らない。

 照れ臭いのと嬉しいので、俺の頬は、今、朱に染まっているだろう。

「流、僕にいろんな表情を見せてくれるようになったね」

 翠がそんな俺を見上げて甘く微笑む。

 俺は納戸の引き戸を閉めて、翠を抱きしめた。

「翠、このジャージを本当に持って行ってくれるのか」
「うん、流が近くにいるみたいで心地よいよ」
「嬉しいことばかり言うんだな」
「本心からそうしたいと」
「ならば翠のジャージを俺にくれよ」

 翠は腕の中でコクンと頷いてくれた。

「うん、離れている間、これを僕だと思って」
「翠……」

 過去のお宝すらも、もう一方的に募る思い出ではない。

 これからは、苦く辛い過去も、こんな風に二人で昇華していく。

 翠は俺を求めることを隠さなくなった。

 それが嬉しくて、想いの丈を込めて、熱く甘い口づけで包み込んでやった。


「翠、応援している」
「……怖い、怖いが、変わりたいから挑むよ、流、待っていてくれ」

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