重なる月

志生帆 海

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14章

身も心も 4

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「流、ちょっと来て~」
「なんだ? また母さんか。翠はここで待ってろ」
「う、うん」

 流の手が僕の身体から離れても、僕の心臓はドキドキしっぱなしだった。

 高校時代に着ていたジャージを羽織ってみると、当時まだ中学生だった流のことを思い出した。

 僕だけを真っ直ぐ見つめて、僕だけを慕ってくれた可愛い弟。

 どんなことがあっても守ってやりたいと思う大切な弟だったんだ。

 あの頃の僕は、流への愛おしさ溢れる気持ちが、まさか恋心だとは気づけず、兄として守ることで精一杯で、逆に流を追い詰めてしまった。

 そんな寂しい気持ちと、懐かしい気持ちに包まれていると、また流がドタバタと戻ってきた。

「全く母さんには、参ったよ」
「どうした?」
「こんな汚いのまで取っておくなんてさ」

 流がバサッと床に置いたものを拾い上げると、それは流が高校生の頃、よく着ていた緑色のジャージだった。

 あぁ、懐かしいな。

 大学生になった僕は、いつもさりげなく流の姿を目で追っていたから、覚えているよ。

「あっ、翠、よせよ、きっと臭いぞ」
「そんなことない、流の匂いだ」

 ジャージを抱き締めると、流の匂いに包まれているようだった。

 その横で、流が真っ赤になっていた。

「ううう、恥ずかしいぜ」
「どうして?」

 答えを予測出来るのに、つい聞いてしまう。

「……翠に抱きしめられているようで」
「ふっ、僕は流に包まれているようだ」

 そっと袖を通してみると、悔しいが……袖丈も身幅もぶかぶかだった。でも最高に心地良かった。

「決めたよ」
「何をだよ? あぁもう汚いから早く脱げよ~」
「嫌だ……これを病院に持っていくよ。大きいからガウンとして、ちょうど良いよ」
「えっ、えぇ?」
「流、これは僕にとってのお宝なんだ」

 甘く見つめ返すと、流はますます顔を赤らめた。

 豪快でいて、繊細な流の心を、病院に連れて行くよ。


 



 
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