重なる月

志生帆 海

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14章

身も心も 3

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「流……待って、どこへ」
「納戸だ」
「納戸?」

 一階に下りると、また手をグイッと引っ張られた。

 こういう所は、小さい時と変わらないな。

『にに~、こっち、こっちぃ、おいでー』

   歩けるようになると、すぐに僕の手をグイグイ引っ張った弟。

 僕にはない行動力、活発な性格。

 悪戯っ子で無謀で、よく祖父や両親に叱られては、びえんと泣いて僕の膝に泣きついた可愛い弟。

 恋人同士になり、身体を重ね合うようになっても、見え隠れする本来の気質に安堵しているよ。

 流は、そのままでいい。

 それが僕の好きな姿だ。

「しかし、何をしていたんだ? あーあぁ、まるで納戸に泥棒が入ったようじゃないか」
「とにかく、これを見てくれ。お宝発見って言っただろう。ほら、これなんてどうだ?」

 突然胸にあてられたのは……


「これって僕が高校の時、着ていたジャージ?」
「そっ、まだ着られるだろ!」
「えぇ?」
「他にもスクールバッグなどいろいろ出てきたぞ! お宝がザクザク出来てて興奮してたよ」
「そ、そうか……母さん、よく取っていたな」

 そのま納戸の鏡の前に立たされた。

 体操着の上……つまり濃紺のジャージを羽織れと?

「こんなの小さいよ、もう……っ」
「いや、翠のサイズは、高校時代から大差ない」
「なんで知って……? あっ」

 しまった! 墓穴を掘った。

「それを俺に聞くのか、翠」

 耳もとで、低い声で囁かれてゾクゾクとした。

「翠の身体のサイズなら全て知っている、手の大きさも」

 手を恋人繋ぎで絡めとられる。

「手首の細さも、腰の細さも、全部記憶しているよ」

 流の手が僕の身体を撫でて、蠢く。

「んっ……だめだ、よせ」
「翠、静かに出来るか」
「無理だっ」

 母の部屋に近いので声を殺すのに必死だ。

 手が更に……下半身へと降りてくる。

 その時、廊下の向こうから流を呼ぶ声がした。
 
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