重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
1,329 / 1,657
14章

特別番外編『Happy Halloween 流&翠Ver.』

しおりを挟む
『重なる月』夜の部、お楽しみ下さい💕



****
 風呂上がりに腰にタオルを巻いた状態で浴衣を探すが、どこにも見当たらない。すると流がワクワク顔でやってきた。

「兄さん。今日はHalloweenだぞ」
「……だから?」
「なぁ、俺たちも仮装しないか」
「ん?」
「……今日はこれを着て、先に眠っていてくれ」

 どんな仮装をさせられるのかと思ったら、流が風呂上がりの僕に着せたのは、ただの白いネグリジェだった。いや、でも女性用だからこれも仮装なのか。

「流、これは女性もので、足がスースーして心許ないよ」
「浴衣と大差ないって。んじゃ、後で襲いに行くから覚悟しておけよ」
「お、襲うって?」
「言葉通りさ」

   流の言葉にドキドキしてしまった。

 僕は流に襲われるのか。流はどんな姿で来るのだろう?

 そう思うと、妙に胸が高鳴って眠れない。

 やがてカタンと音がして、黒いマントが翻るのが視界の端に見えた。

「来た!」

 おどろおどろしい音楽まで、わざわざ鳴らして。

 ヴァンパイアの出で立ちの流に、僕はガブッと首筋を噛まれるのか。

 そう思うと心臓の鼓動が、一層早くなった。

「翠、約束通り襲いにきたぜ」

 はらりと掛け布団を捲られ、流の逞しい腕が僕を抱き上げた。

 そのまま顎を撫でられ、口づけされ……そのまま頭を下にずらし首筋に牙を立ててくる。

「翠……俺のものになれ! さぁ……命をいただくぞ」
「あ……っ、んん」

 もう片方の手でネグリジェの裾から手を差し込まれ、内股の際どい部分を撫でられている。

 感じてしまうよ、流……

 そんな風に触るなんて、そんな風に撫でるなんて。

「あ……噛んで……噛んでいいよ。僕を食べていいよ」

 ヴァンパイアの出で立ちの流が格好良すぎて、クラクラする。

 黒い瞳、長い黒髪……まるで中世の騎士のようにも見えて来て……彫りの深い顔立ちを手で撫でて、僕は目を閉じて、首筋を差し出した。

「噛むぞ」
「ん……っ」

 ぽたり……

 生暖かいものが皮膚に落ちてくる。

 あぁ、僕は本当に噛まれて……血を流しているのか。

 倒錯した気持ちに酔いしれていく。

 だが……

 
 あれ?

 いや、そうではないようだ。

 そもそも痛みが伴わなかったし……変だ。

 もしかして、この生暖かい血は僕のものではないのか。

 じゃあ……一体、どこから流れている?

「翠、悪いな。興奮して、えーっと、ティッシュはどこだ」
「りゅ、流……お前は……どうして、いつもそうなんだ~!」

 鼻血をティッシュで押さえた流が、悪びれずに豪快に快活に笑う。

「はははっ、だってさ、翠のネグリジェ姿が破壊的だった」
 
 流が僕の肩に手をかけ、一気にネグリジェを引き落とした。

 肩が露わになる。

 胸元まで露わになる。

「あ……よせって、汚れる」
「もう止まった」
 
   あとはもう……ただただ、甘く抱き潰されるだけ。

 僕を襲いに来た恐ろしいヴァンパイアはどこへ?

 今……僕は甘い砂糖菓子になった気分だ。

 流に全身を隈なく舐められて、大切な器官はぐずぐずになるまで吸われて。

「翠の身体……いつになく甘いな。甘くて……もっと欲しくなる」
「流は……狼男みたいだ……」
「ふっ、可愛い翠、まだハロウィンを引き摺って……」

 寺でハロウィン?

 上等だ。

 それを一番実践しているのが、僕たちなのだから。

 夜は長い。

 僕は流に組み敷かれて、喘ぐ。

 夜は深い。
 
 僕は流を抱きしめ……「流のものだ」と囁き続けるだろう。


                    Happy Halloween!

 


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

処理中です...