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14章
よく晴れた日に 10
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「瑠衣さん……」
何だろう?
瑠衣さんの言葉が、深く深く、染み入る。
そしてアーサーさんの青い瞳に、心が青空のように澄んで凪いでいく。
「まぁ、ふたりともいつ帰国を?」
「白江さん! お元気でしたか」
「もちろんよ。孫が見つかったんですもの、元気にもなるわ」
「くすっ、本当にイキイキされて、お若い頃を彷彿しますね」
「まぁ、瑠衣さんってば、口が悪くなったんじゃない?」
「ふっ、瑠衣は変わらず清らかなままさ!」
「アーサーさんは、また惚気て~! ようちゃん、この二人はいつもこんな調子でタッグを組んでいるのよ。でも私にはようちゃんがいるから、これからは寂しくないわ!」
祖母が俺の腕を引き寄せて、腕を組んでくれた。
恥ずかしいが、そのまま身を委ねた。
祖母の温もりが、心地良いから……
少女のように頬を膨らませた白江さんの様子を、アーサーさんと瑠衣さんは、肩を寄せ合って笑っていた。
「白江さんはハンサムなお孫さんに上機嫌だな」
「それはもう、当たり前でしょ」
不思議だ。
俺を中心に人が集まっているなんて……賑やかになっていくなんて。
今まで、こんなことがあっただろうか。
大好きな人は皆、消えた。
その後は俺だけが世界に取り残された心地で生きてきたのに。
闇に怯え、闇に捲き込まれ、闇と共に生きて来た俺にとって、この世界は明るすぎる。月だけが俺の慰めだったのに……太陽は明るすぎるはずだったのに。
更に人が集まる。
「あら素敵! かつてのイケメンさんが集まっているのね、私も入れて」
「おーい、春子さん。かつてって、その言い方はないよ」
「ふふっ、アーサーさんも瑠衣さんも、ようこそ」
いつの間にか……幸せなそうな人達に包まれても、目を開けていられるようになった……目が慣れて来たのか。
「洋くん、愛しい人のお迎えが来るまで、今日も一緒に楽しく過ごしましょうよ」
「洋くん、注意しろ。白江さんと春子さんに遊ばれるぞ」
「え?」
「洋くん、ねぇ、一足早いHalloweenはどう?」
「は……早すぎます! まだ春ですよ」
春子さんは明るく前向きな人のようだ。
彼女を中心に吹く春風が、今の俺には心地良かった。
****
「丈先生、お疲れさまです。せっかく銀座も近いんですから、一杯飲んで行きませんか」
「いや、すまないね。今日は約束があって」
「もしかして奥様とデートですか」
「……まぁ」
「まぁ! 随分、素直ですね。じゃあ、いいことを教えてあげましょう」
同僚の女性が嬉々として教えてくれたのは、『女性はロマンチックなことが好きだから、たまには奥様に花束を贈ってみてはいかが』という言葉だった。
花か……あまり縁がないな。
そう思ったが、駅に向かう道の左手に色鮮やかな花が並んでいたので、吸い寄せられるように足を止めてしまった。
確かに、洋には花が似合う。
白金のお屋敷で王子様のような一日を過ごしたであろう彼の元へは、花を持って迎えに行きたい。そんな気持ちが自然と満ちてきた。だが何を選んでいいのか、無骨な私にはさっぱり分からない。
店頭で顎に手をあてて右往左往していると、中から黒いエプロンをした男性が軽やかに飛び出してきた。
「いらっしゃいませ! あ……あれ、丈さん?」
何だろう?
瑠衣さんの言葉が、深く深く、染み入る。
そしてアーサーさんの青い瞳に、心が青空のように澄んで凪いでいく。
「まぁ、ふたりともいつ帰国を?」
「白江さん! お元気でしたか」
「もちろんよ。孫が見つかったんですもの、元気にもなるわ」
「くすっ、本当にイキイキされて、お若い頃を彷彿しますね」
「まぁ、瑠衣さんってば、口が悪くなったんじゃない?」
「ふっ、瑠衣は変わらず清らかなままさ!」
「アーサーさんは、また惚気て~! ようちゃん、この二人はいつもこんな調子でタッグを組んでいるのよ。でも私にはようちゃんがいるから、これからは寂しくないわ!」
祖母が俺の腕を引き寄せて、腕を組んでくれた。
恥ずかしいが、そのまま身を委ねた。
祖母の温もりが、心地良いから……
少女のように頬を膨らませた白江さんの様子を、アーサーさんと瑠衣さんは、肩を寄せ合って笑っていた。
「白江さんはハンサムなお孫さんに上機嫌だな」
「それはもう、当たり前でしょ」
不思議だ。
俺を中心に人が集まっているなんて……賑やかになっていくなんて。
今まで、こんなことがあっただろうか。
大好きな人は皆、消えた。
その後は俺だけが世界に取り残された心地で生きてきたのに。
闇に怯え、闇に捲き込まれ、闇と共に生きて来た俺にとって、この世界は明るすぎる。月だけが俺の慰めだったのに……太陽は明るすぎるはずだったのに。
更に人が集まる。
「あら素敵! かつてのイケメンさんが集まっているのね、私も入れて」
「おーい、春子さん。かつてって、その言い方はないよ」
「ふふっ、アーサーさんも瑠衣さんも、ようこそ」
いつの間にか……幸せなそうな人達に包まれても、目を開けていられるようになった……目が慣れて来たのか。
「洋くん、愛しい人のお迎えが来るまで、今日も一緒に楽しく過ごしましょうよ」
「洋くん、注意しろ。白江さんと春子さんに遊ばれるぞ」
「え?」
「洋くん、ねぇ、一足早いHalloweenはどう?」
「は……早すぎます! まだ春ですよ」
春子さんは明るく前向きな人のようだ。
彼女を中心に吹く春風が、今の俺には心地良かった。
****
「丈先生、お疲れさまです。せっかく銀座も近いんですから、一杯飲んで行きませんか」
「いや、すまないね。今日は約束があって」
「もしかして奥様とデートですか」
「……まぁ」
「まぁ! 随分、素直ですね。じゃあ、いいことを教えてあげましょう」
同僚の女性が嬉々として教えてくれたのは、『女性はロマンチックなことが好きだから、たまには奥様に花束を贈ってみてはいかが』という言葉だった。
花か……あまり縁がないな。
そう思ったが、駅に向かう道の左手に色鮮やかな花が並んでいたので、吸い寄せられるように足を止めてしまった。
確かに、洋には花が似合う。
白金のお屋敷で王子様のような一日を過ごしたであろう彼の元へは、花を持って迎えに行きたい。そんな気持ちが自然と満ちてきた。だが何を選んでいいのか、無骨な私にはさっぱり分からない。
店頭で顎に手をあてて右往左往していると、中から黒いエプロンをした男性が軽やかに飛び出してきた。
「いらっしゃいませ! あ……あれ、丈さん?」
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