重なる月

志生帆 海

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14章

よく晴れた日に 7

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昨日は流と丈と月見台で酒を酌み交わした。

酒が心を解き、月が僕たちの関係を引き上げてくれた。

もう凸凹じゃない。

僕たちは同じ場所で円となり、縁を大切に生きていく。

僕たちのために建てた離れを見上げた。

よく晴れた日だ。

茶室、アトリエ、衣装部屋……檜の風呂場。ここは全部……流が僕のために愛情を込めて設計してくれた。

一歩、また一歩。

流に会いたい気持ちが溢れてくるよ。

もう一人では、歩けない。

僕の人生には流が必要だ。

内から外から……僕をしっかり支えておくれ。

襖を開けると、大の字で豪快に眠る流がいた。

目を細めて、その姿を見守った。

それから……力強い胸の鼓動に耳をあて、安堵した。

平静を装って、僕は流を起こす。

これが僕らのいつもの朝だから――

「流、そろそろ起きないと」


****

 俺が眠っている間のことを、布団に捲き込んだ翠の口からゆっくりとじっくりと聞いた。

 喜びが隠せない。

 翠と迎えるいつもの朝が眩しくて。

「しかし、丈には負けられないな」
「何の話?」
「リンゴはまだあったか」
「うん?」
「じゃあ俺は翠のために、飾り切りをしてやるよ」
「ふっ」
「何を笑う?」
「いや、すごいのが出来そうだ。切磋琢磨して来たんだな。流と丈は……」
「余裕だな、翠」
 
 翠はいつになく上機嫌で、達成感のある表情を浮かべていた。

 そんな翠の肩を掴み、組み敷いて、濃厚なキスを落とした。

「ん……あっ……もう、戻らないと」
「小森に頼んできたんだろ? 翠もこうして欲しくて」

 翠の頬が上気する。

「そ、そんなこと……」
「何分だ?」
「……30分と」

 時計を見ると、あと20分は俺たちの時間だ。

「明るい場所で……翠の身体を見たい」
「え……っ」

 翠が自分で来た袈裟は、緩く乱れていた。
 いずれにせよこの後、一度脱がさないといけないのだ。

「あ……」

 翠が身体の力を抜くのが……返事だ。

「んっ」

 鼻にかかるような声を零す翠の身体を、忙しなく露わにしていく。

 滑らかな皮膚を吸い上げ、見えない部分に所有の痕をつけていく。

 手術前は無理だから、今のうちだ。

「んんっ」

 赤く色づく肌に生身の身体を抱いていることを実感し、興奮してくる。

 遠い昔、この世と分かれる寸前まで、湖翠さんを求め続けた流水さん。

 あの日、あなたの手が掴んだのは、未来への切符だったのかもしれないな。

 あなたの願いは、今、叶った。

 憧れ恋し続けた兄は、俺の中にいる。

 もう離れない、離さない場所にいる。

「流……流とこんな風に朝を迎えられて……本当に良かった」

 翠も同じことを考えていたようで、透明な雫を流しながら、俺の首筋に手を回し、ギュッと力を込めてしがみついてきた。

「翠、愛している」
「愛しているよ、流」
  
 美しい人生は、ここに在る。


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