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14章
託す想い、集う人 24
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『僕は幸せな時も困難な時も、流と心をひとつにし、支えあい、乗り越えて……この先の未来、笑顔が溢れるあたたかい時間を築いていくことを誓います』
翠の凜とした声と厳かな宣言が、春風に乗って届いた。
信じられない!
翠の口から、そんな言葉が発せられるなんて。
これは夢か幻か――
「す……翠……どうして?」
「ずっと用意していたんだ」
「くっ」
あぁ、駄目だ、駄目だ。
視界が滲んでいく。
ずっと幼い頃から、翠は『俺の光』だった。
一方的に憧れを抱き、やましい心を持て余した時期もあった。
突き放した時期も、すれ違った日々もあった。
まさか……成就する日なんて。
そんな日は来ないと悲観し、冷たい視線を浴びさせたこともあった。
翠はどんな時も俺を守ろうと必死だったのに、それに気付いてやれず、酷いことをしたのに……翠はそれでも俺の元に戻って来てくれた!
泣くな、流。もう充分泣いただろう。
土砂降りの中、打ちのめされた日々を思い出せ。
明るい未来を共有出来ることに感謝しろ!
涙は消して、笑顔を届けたい。
この先は明るい世界にしたい。
『俺は翠を生涯の伴侶として、どんな時も笑顔を忘れずに、どんな時も感謝の気持ちを忘れないことを誓う。生涯、愛し抜くぞ! 翠――』
ありがとう、翠。
翠の覚悟は、俺の覚悟とぴたりと重なった。
この先、どんなことがあっても愛し抜く! 翠は俺の全てだ。
「愛している」
翠しかいない。翠としか未来は描けない。
「流……愛してる」
「翠……愛している」
俺と翠は額をコツンと鳴らして、明るい顔で向き合った。
するとずっと俺たちを見守ってくれていた丈が、静かに拍手をしてくれた。
「翠兄さん、流兄さん、本日はおめでとうございます。私が証人になります」
「丈……ありがとう。赦してくれて」
「赦すだなんて……そんな風に考えないで下さい。どうか夜空を見上げて下さい」
翠を抱きしまたまま空を見上げれば、白い月光が俺たちを包み込むように降り注いできた。
まるで……月が浄化してくれているようだ。
兄と弟という禁忌は、ここでは無効になる!
こんなにも魂と魂が呼び合い、求め合っている恋なのだから、世界に恥じることはない。
「翠……誓いの接吻をさせてくれ」
「だ、だが……丈が」
「構いません。私に証しを見せて下さい」
丈の声はどこまでも冷静だった。
だから……翠の戦慄く唇を優しく湿らせて、包み込んでやる。
翠……震えているのか。
怖くない。
恐れるな。
丈は俺たちの味方だ。
丈は全てを受け入れられる広く深い大きな器を持って生まれた男だ。
洋くんを受け入れるように、俺と翠を受け止めてくれる。
もう……涙はいらない。
安心しろ。
安心してくれ。
俺に預けてくれ、翠の背負うものはふたりで担っていこう。
ずっと傍にいる。
もう置いて行かない、もう突き放さない。
角度を変えて、翠の唇を貪った。
「りゅ……流……」
翠の力が抜けていく。
「ふぅ……参ったな。目を逸らせない。とても美しい光景です……兄さんたちはどこまでも浄化されている」
丈が感嘆の溜め息を漏らした。
俺たち三兄弟が……月影寺に集う意味を知る夜だった。
夜は更けていく。
俺たち月影寺の三兄弟を連れて……
さぁ、幕開けだ。
新しい朝を迎えよう。
『託す想い、集う人』了
翠の凜とした声と厳かな宣言が、春風に乗って届いた。
信じられない!
翠の口から、そんな言葉が発せられるなんて。
これは夢か幻か――
「す……翠……どうして?」
「ずっと用意していたんだ」
「くっ」
あぁ、駄目だ、駄目だ。
視界が滲んでいく。
ずっと幼い頃から、翠は『俺の光』だった。
一方的に憧れを抱き、やましい心を持て余した時期もあった。
突き放した時期も、すれ違った日々もあった。
まさか……成就する日なんて。
そんな日は来ないと悲観し、冷たい視線を浴びさせたこともあった。
翠はどんな時も俺を守ろうと必死だったのに、それに気付いてやれず、酷いことをしたのに……翠はそれでも俺の元に戻って来てくれた!
泣くな、流。もう充分泣いただろう。
土砂降りの中、打ちのめされた日々を思い出せ。
明るい未来を共有出来ることに感謝しろ!
涙は消して、笑顔を届けたい。
この先は明るい世界にしたい。
『俺は翠を生涯の伴侶として、どんな時も笑顔を忘れずに、どんな時も感謝の気持ちを忘れないことを誓う。生涯、愛し抜くぞ! 翠――』
ありがとう、翠。
翠の覚悟は、俺の覚悟とぴたりと重なった。
この先、どんなことがあっても愛し抜く! 翠は俺の全てだ。
「愛している」
翠しかいない。翠としか未来は描けない。
「流……愛してる」
「翠……愛している」
俺と翠は額をコツンと鳴らして、明るい顔で向き合った。
するとずっと俺たちを見守ってくれていた丈が、静かに拍手をしてくれた。
「翠兄さん、流兄さん、本日はおめでとうございます。私が証人になります」
「丈……ありがとう。赦してくれて」
「赦すだなんて……そんな風に考えないで下さい。どうか夜空を見上げて下さい」
翠を抱きしまたまま空を見上げれば、白い月光が俺たちを包み込むように降り注いできた。
まるで……月が浄化してくれているようだ。
兄と弟という禁忌は、ここでは無効になる!
こんなにも魂と魂が呼び合い、求め合っている恋なのだから、世界に恥じることはない。
「翠……誓いの接吻をさせてくれ」
「だ、だが……丈が」
「構いません。私に証しを見せて下さい」
丈の声はどこまでも冷静だった。
だから……翠の戦慄く唇を優しく湿らせて、包み込んでやる。
翠……震えているのか。
怖くない。
恐れるな。
丈は俺たちの味方だ。
丈は全てを受け入れられる広く深い大きな器を持って生まれた男だ。
洋くんを受け入れるように、俺と翠を受け止めてくれる。
もう……涙はいらない。
安心しろ。
安心してくれ。
俺に預けてくれ、翠の背負うものはふたりで担っていこう。
ずっと傍にいる。
もう置いて行かない、もう突き放さない。
角度を変えて、翠の唇を貪った。
「りゅ……流……」
翠の力が抜けていく。
「ふぅ……参ったな。目を逸らせない。とても美しい光景です……兄さんたちはどこまでも浄化されている」
丈が感嘆の溜め息を漏らした。
俺たち三兄弟が……月影寺に集う意味を知る夜だった。
夜は更けていく。
俺たち月影寺の三兄弟を連れて……
さぁ、幕開けだ。
新しい朝を迎えよう。
『託す想い、集う人』了
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