1,312 / 1,657
14章
託す想い、集う人 19
しおりを挟む
白金の屋敷から帰り道、上質なワインをご馳走になり、翠は睡魔に襲われてしまったようだ。
助手席でだんだん無口になり、そのまま寝息を立ててしまった。
ふっ……相変わらず、可愛い人だ。
窓に船を漕ぐ頭がぶつかりそうになっているぞ。
心配なので、一旦路肩に止めて体勢を整えてやった。
そこで、後部座席から強い視線を感じた。
「なんだい? 丈ちゃん、洋くんがいなくて寂しいのか」
「な、何を言って……」
「……お前も寝ていていいぞ。結構飲んでいただろう?」
「……私はあの程度では酔いませんよ」
「そうだな。お前が悪酔いしている所は、見たことがない」
きっと洋くんを守るのに必死で、酔うに酔えなかったのだろう。
今までは……
「月影寺に戻ったら、俺に付き合えよ。独り寝は寂しいから、すぐ眠れる程度に酔わしてやるよ」
「それは、いいですね」
「今日は素直だな」
「……私は、ずっと素直になれなかった人間でした」
丈が端正な顔を少しだけ歪ませた。
人間にはもともと持って生まれた性格もあるからなぁ。お前たちの過去も輪廻転生を繰り返したと聞いている。きっとどの世界でも前世の洋くんを守り切れなかった後悔が、募り募って堅苦しい性質を作ってしまったのでは?
丈も……もっと変われるはずだ。
張り付いてしまった鉄の仮面、その下の素顔を見せろよ。
そう思うのは、洋くんの目映い変化を目の当たりにしたからだ。
あんな風に気を許して酔っ払える相手は月影寺の俺たち以外いなかったのになぁ。あぁそうか……丈の気持ちは掴めそうだ。
「丈、お前……やっぱり少し寂しいのだろう? こんな風に思うのは不謹慎だと伏せてねじ込んでいるが……」
「何を言って……身内のいなかった洋の……あんなに寛いだ顔を見ることが出来て嬉しいのです」
「ふっ」
やはりな。嬉しい反面、ずっと庇護していた洋くんの旅立ちが眩しいのだろう。
「丈、大丈夫さ。洋くんの居場所はお前の横だよ。必ず戻ってくるし、これからは一緒に飛翔してみろよ。お前もまだまだ伸びしろがあるはずだ」
「兄さん……」
丈が車窓から、じっと夜空を見上げた。
そうだ、月に届く位、伸びやかに生きろ。
「丈、お前はもう……自分に素直になっていい。肩の力を抜け」
****
車中で流兄さんに指摘されたことは、図星だった。
参ったな。
白金の屋敷を出る時は、こんな気持ちではなかったのに。
月影寺が近づくにつれて、いつも必ず傍にいる洋がいないのが寂しくなってしまったのだ。
私がこんな気持ちを抱く資格などないのは……理解している。
洋が今までどんなに苦労して両親亡き後生き延びてきたのか、丈、お前が一番よく知っているだろう。ようやく出逢えた祖母……その祖母との水入らずの時間を尊重してやりたいのだろう。
何を怯む? あのように立派な人達に囲まれたからか。海里先生の気高さに圧倒されたのか。
「丈、肩の力を抜け……」
流兄さんに言われて、ハッとした。
ふぅと深呼吸して見上げた夜空には、美しい月がいてくれた。
月のような、洋。
月は姿を変えても、必ず居てくれる。
だから恐れるな。
この変化を――
助手席でだんだん無口になり、そのまま寝息を立ててしまった。
ふっ……相変わらず、可愛い人だ。
窓に船を漕ぐ頭がぶつかりそうになっているぞ。
心配なので、一旦路肩に止めて体勢を整えてやった。
そこで、後部座席から強い視線を感じた。
「なんだい? 丈ちゃん、洋くんがいなくて寂しいのか」
「な、何を言って……」
「……お前も寝ていていいぞ。結構飲んでいただろう?」
「……私はあの程度では酔いませんよ」
「そうだな。お前が悪酔いしている所は、見たことがない」
きっと洋くんを守るのに必死で、酔うに酔えなかったのだろう。
今までは……
「月影寺に戻ったら、俺に付き合えよ。独り寝は寂しいから、すぐ眠れる程度に酔わしてやるよ」
「それは、いいですね」
「今日は素直だな」
「……私は、ずっと素直になれなかった人間でした」
丈が端正な顔を少しだけ歪ませた。
人間にはもともと持って生まれた性格もあるからなぁ。お前たちの過去も輪廻転生を繰り返したと聞いている。きっとどの世界でも前世の洋くんを守り切れなかった後悔が、募り募って堅苦しい性質を作ってしまったのでは?
丈も……もっと変われるはずだ。
張り付いてしまった鉄の仮面、その下の素顔を見せろよ。
そう思うのは、洋くんの目映い変化を目の当たりにしたからだ。
あんな風に気を許して酔っ払える相手は月影寺の俺たち以外いなかったのになぁ。あぁそうか……丈の気持ちは掴めそうだ。
「丈、お前……やっぱり少し寂しいのだろう? こんな風に思うのは不謹慎だと伏せてねじ込んでいるが……」
「何を言って……身内のいなかった洋の……あんなに寛いだ顔を見ることが出来て嬉しいのです」
「ふっ」
やはりな。嬉しい反面、ずっと庇護していた洋くんの旅立ちが眩しいのだろう。
「丈、大丈夫さ。洋くんの居場所はお前の横だよ。必ず戻ってくるし、これからは一緒に飛翔してみろよ。お前もまだまだ伸びしろがあるはずだ」
「兄さん……」
丈が車窓から、じっと夜空を見上げた。
そうだ、月に届く位、伸びやかに生きろ。
「丈、お前はもう……自分に素直になっていい。肩の力を抜け」
****
車中で流兄さんに指摘されたことは、図星だった。
参ったな。
白金の屋敷を出る時は、こんな気持ちではなかったのに。
月影寺が近づくにつれて、いつも必ず傍にいる洋がいないのが寂しくなってしまったのだ。
私がこんな気持ちを抱く資格などないのは……理解している。
洋が今までどんなに苦労して両親亡き後生き延びてきたのか、丈、お前が一番よく知っているだろう。ようやく出逢えた祖母……その祖母との水入らずの時間を尊重してやりたいのだろう。
何を怯む? あのように立派な人達に囲まれたからか。海里先生の気高さに圧倒されたのか。
「丈、肩の力を抜け……」
流兄さんに言われて、ハッとした。
ふぅと深呼吸して見上げた夜空には、美しい月がいてくれた。
月のような、洋。
月は姿を変えても、必ず居てくれる。
だから恐れるな。
この変化を――
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる