重なる月

志生帆 海

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14章

託す想い、集う人 18

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 孤独だったのは、私だけではなかったのね。

 私には夕を失っても、主人と娘がいた。海里先生、柊一さん、テツさん、桂人さん、雪也さん、春子ちゃんも傍にいてくれて……皆、励ましてくれた。

 なのに……ひとり意固地になって、どんどん凝り固まった老人になってしまったの。だから洋と初めて対面した時も、あのような冷たい態度しか取れず、本当に申し訳ないことをしたわ。 
 
 この子は……どんなに心細い思いで生きてきたの? 夕が亡くなった時は、まだ中学生だったのよね。それから今まで、どんな想いで生きてきたの?

「ようちゃん……あなた……怖かったでしょう。寂しかったでしょう。もっと早くあなたを見つけてあげたかったわ。本当に……ごめんなさい」

 はらはらと後悔の涙が流れ落ちる。取り戻せないと分かっていても、洋の泣き顔があまりに切なく辛そうで……溜まらなかった。

「おばあ様……謝らないで下さい。それでも俺は今……幸せです。丈と出逢い、月影寺の息子にしてもらい。ついにおばあ様にも会えて、こんなに優しく温かく抱きしめてもらえ……俺はもう大丈夫です。だから……」

 『それでも今、幸せだ』という洋の言葉に心を打たれた。

 そうよ、過去には戻れない。でも今から先は変えられる。

 私の残された人生に、彩りを取り戻したい。

「そうね、そうよね。洋……私も今とても幸せ……だってようちゃんに会えたんですもの。さぁ、綺麗なお顔をもっと見せて」

 洋の頬を両手で包んで顔を上げさせた。ぞくりとする程の美しい顔が、涙で滲んでいた。

「ようちゃんは私の大切な孫よ。ずっとこんな風に孫が泊まりに来てくれることに憧れていたのよ」

 ふわりと抱きしめる。

 もう立派な青年なのに、どこか儚げな印象を受ける洋の身体を。

『ママ、ママ、ありがとう。洋をもっともっと……癒やしてあげて。ここまでの道程、辛かったの、険しかったの。だから……ママの抱っこは最高の癒やしだったから効果があるはずよ』

 何故か……天国にいる夕もギュッと私に抱きついているような心地になった。

 その時、洋が持って来た御朱印帳が床に落ちて、頁が自然に捲れた。

『花朝月夕《かちょうげっせき》』
 
 それは春秋の盛りの気候のよい時、花の咲く春の朝と名月の照る秋の夕べを愛しているという意味よ。二人の娘の名前の由来となった四字熟語が書かれていた。

「これは……夕の筆跡だわ……何故?」
「おばあ様、それは俺が書きました。俺の筆跡、そんなに母に似ていますか」
「似てるもなにも……そのものよ。病気がちで家にいることが多かった夕に手解きしたのよ」


・・・・
 
『ママ、私とお姉ちゃまの名前の由来を教えて』
『それはね【花朝月夕】という四字熟語からいただいたのよ。あなたたち双子の姉妹には美しい人生を歩んで欲しくてね』
『ふぅん……お姉ちゃまは花のようで、私は月のようになのね。素敵……私は静かに人々を照らす月が好きよ』


 
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