重なる月

志生帆 海

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14章

託す想い、集う人 8

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 皆の視線は、どこまでも柔らかで暖かいものだった。

「怖がるな、大丈夫だ。洋……皆さん、私達の関係を受け入れてくれるようだ」
「あぁ、そうだな」
「あの……お……俺は事実婚をしています。隣にいる彼……張矢 丈さんと」

 震える声、蚊の鳴くような声だったかもしれない。
 それでも俺の口から、俺の言葉できちんと伝えたかった。

 パチパチ。

 え? 拍手……?

 パチパチ、パチパチ……

 拍手の音が、幾重にも重なって行く。

 「素敵! 素敵な話よ! まるでおとぎ話のような世界はここに受け継がれていたのね」

 声の主は春子さんだった。そして雪也さんと桂人さん、おばあ様も一緒に拍手してくれていた。

「あ、あの……」
「洋、紹介を続けてご覧なさい」
「あ、はい……翠さんと流さんは、丈のお兄さんで、俺は皆と一緒に北鎌倉にある月影寺で暮らしています。そこが……現在の……俺の家、俺の家族です」
 
  一気に言えた。

「やっぱり三兄弟と美しい男の子。あぁ、もう我慢出来ないわ。あなたたちは『月影寺縁起』をご存じ?」
 
 春子さんの目が光る。
 
「い……いえ」
「そうね。これは公には出回っていない縁起だものね。東北のとある農村の蔵から発見された巻物よ」
「な、なんと?」

 そんな縁起物語が?
 俺と翠さん、流さんと丈も身を乗り出していた。

「さわりを話すとね……昔々……北鎌倉の月影寺には二人の兄弟が仲良く暮らしていたそうよ。そんなある日、寺庭の竹藪に光が溢れ駆けつけると、美しい珠のような皇子が眠っていたそうなの。拾われた皇子は二人の兄弟に大切に育てられてスクスクと成長し、やがて年頃になり結婚相手を求めるの。でもね、この世では求める人と出逢えずに、皇子自ら探しに行ってしまうの。そのために月光が照らす道へと旅立ってしまうの。実は二人の兄弟には早くに亡くなった弟がいて、皇子が消えた後、弟の墓が涙に濡れたそう。そこではたと気付くの……出逢えなかった出逢いがここにあったのでは? と……再び月影寺に三兄弟が健やかに育った時こそ、消えた皇子の願いは成就すると」

 なんとも不思議な話だった。
 俺たちと当てはまるような、当てはまらないような……

「あなたたちは、伝説の中を生きてきたのね」
「えっ……」

 何も語っていないのに、俺たちの輪廻転生を知っているかのような発言に鳥肌が立った。

「あぁ、驚かないで。私と兄は、なんとなく先のことを見通せる能力があるのよ。あなたたちは今、伝説の中から抜け出して、自らの生を自分の足で歩んでいるのが伝わってくるからそう思うのよ」
「あ……」

 そこで丈がスッと立ち上がり、持って来た海里先生の白衣をマントのようにひらりと羽織った。

「え……海里先生……」
「あっ、海里さん……」

 皆の視線が、丈の一挙一動に集まる。
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