重なる月

志生帆 海

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14章

託す想い、集う人 5

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 白金台、冬郷家中庭。

「白江さんがここにいることを、えっと、お孫さんに知らせておいた方がいいんじゃないですか」
「あら、そうよね。春子ちゃんの言うとおりね。じゃあ連絡してみるわ」

 白江さんが突然バックから最新のスマートフォンを取り出したので、驚いてしまった。

「え! いつの間に? そんな技まで」
「ふふふ。前から春子ちゃんが勧めてくれたじゃない。これはね、若くてとってもハンサムな孫とその仲間たちと仲良くするための魔法のアイテムよ」

 まぁ! 驚いたわ。流石、好奇心旺盛な白江さんらしいわね。
 
 白江さんが若い頃を思い出すわ。

 いろいろあって逃げるように田舎から出てきた私の初めての勤めは、白江さんのお宅でのベビーシッターだった。

 まだ都会に出てきたばかりで垢抜けない私に、いろいろなことを教えてくれたのよね。お洒落をすること、自分らしく生きること、自分を大切にすること。全部白江さんが教えてくれたのよ。

 兄の周りは男性ばかりだったので、白江さんとの女性同士のお喋りも貴重だった。私の師匠のような方なの。もしも白江さんがいなかったら、今の私もいなかったかも。

「春子ちゃん、送信はここでいいのかしら?」
「わぁ、こんな長文を打てたのですね」
「うふふ」
「スタンプも押しましょう」
「スタンプって?」
「気持ちを伝えるスタンプですよ。このワクワク顔のうさぎのなんてぴったりですよ」
「可愛いわ! 便利な世の中ね」

 私と白江さんとの会話を、雪くんが嬉しそうに見つめてくれている。

 私は雪くんの眼差しが好き。

 初めは可愛い弟みたいな存在だったから、恋慕われてもすぐに御返事できなかったの。それから白江さんの紹介で、私はピアノ講師のおばあちゃまの家に居候するため家を出たので、五年間も会わない期間があったのよね。

 五年後に再会して、驚いたわ。

 格好良く逞しくなって……私の前に雪くんが突然現れた時は、息が止まるかと思ったわ。
 
  雪くんはロンドン留学を経て日本に帰国したばかりだった。

 まるで騎士のように、私をエスコートしてくれたのを忘れない。

 恋に堕ちるのは早かったわ。

 最初から好意を抱いていた相手が、見事な騎士になって手を差し出してくれたら、その手を取らずにはいられないでしょう。
 
  あら……私達の話はこれ位にしないと。

 今日やってくる洋さんは、あの夕さんの忘れ形見なのよ。早く逢いたいわ。

 ゆうちゃんは……小さい頃、私と沢山一緒に過ごしたのよ。そして雪くんのお兄さんと海里先生が娘のように可愛がっていた存在よ。駆け落ちしてしまった後、海里先生も柊一さんも暫く落ち込んでいたけれども、最後はゆうちゃんの決断を尊重して探すのをやめてしまったのよね。それが吉と出たのか凶と出たのかは分からない……

 でも……もう過ぎ去った過去よりも、今日という日に感謝したいわ。

 寂しい別れが続いた私達だから、新しい出会いを喜びたいの。

「春子ちゃん、ほら、車が入ってきたわ。あの後部座席に座っているのが私の孫の洋よ」

 すぐに後部座席から降りてきた青年を見た途端、私の涙腺は崩壊した。

「ゆ……ゆうちゃん……」







あとがき(不要な方はスルーです)





****

『まるでおとぎ話』の世界と『重なる月』が重なり始めました。

ややっこしいので、もう一度年表の一部を掲載します。

左の赤字の年齢 82歳というのは、アーサーと瑠衣の年齢です。
現在雪也62歳。春子は少し年上ですね。
白江さんは72歳。
そして洋が29歳。翠39歳、流、37歳、丈35歳。
こんなイメージで書いています。
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