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14章
それぞれの想い 35
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「ところで翠。さっき小森が言っていたことだが……」
「あぁ……まぁあれはあれで、良かったんじゃないかな」
御朱印受付の人が途切れたところで、翠に思い切って聞いてみた。
「じゃあやっぱり……小森にとっては幻のモテ期で、ぬか喜びだがな」
「でも本人も喜んでいるし、それに今頃、小森くんはきっと最中の虜だよ」
「ははっ! 翠は余裕だな」
「まぁここは寺だしたまにね。御朱印を取りに来た子……あの子もあれで浮かばれたんじゃないかな」
「やっぱり翠には見えたのか」
「まぁね……可愛い高校生だったし、もう成仏したので、害はないよ」
****
「小森くん、そんなに急いで食べたら、危ないよ」
「ゲホッ! あーん、洋さんも翠さんみたいに優しいんですね」
「そ、そうかな? でも良かった」
「何がです?」
洋さんが僕を見つめて胸を撫で下ろしているので、聞いてみた。
「いや、小森くんってば、誰もいないのに御朱印を頼まれたって……大丈夫かなって。さっきの話……彰さんって本当にいたんですか」
「え? だってちゃんと渡しましたよ」
「そうなんですね。じゃあ……まぁ良かったと思います」
「えっ、まさかのまさか? じゃ、ないですよねぇ~ あーんせっかくモテ期到来だと思ったのにぃ~」
「わ! 泣かないで下さい。あ、お饅頭も食べます?」
「ワン! 食べる!」
パクパクっ!
最中にお饅頭まで美味しいなぁ。今日の住職は大盤振る舞いだなぁ~ 何かいいことでもあったのかな。
****
「洋? どうした? 爪に墨がついているぞ」
「あれ、よく洗ったつもりなのに……落ちなかったのか」
「日中何をした?」
丈が俺を洗面所の連れて行き、爪にブラシを当ててくれた。
「寺の手伝いをしてみたんだ……その、御朱印を書く手伝いをね」
「洋が? あぁ、だからこんな所に墨を……で、どこに零したんだ。墨は厄介だぞ。落ちないかも……」
「え? なんで分かるの?」
「さぁ正直に言え」
「う……その、床とズボンに墨が飛んじゃって」
「やれやれ、洗ってやるから全部出してみろ」
小さな子供みたい、しょんぼりだ。
俺ってどうしてこんなに不器用なのだろう。
「これは……また派手に汚したな」
「ごめん、これでも洗ったんだよ」
「墨は洗剤だけじゃ無理だぞ」
丈が洗剤と石鹸をブレンドして洗ってくれると、完璧とは言えないが結構落ちたので感激してしまった。歯ミガキ粉とか白いご飯粒とか裏技があるらしい。
「丈、ありがとう」
嬉しくなってふわりと抱きつくと、丈も笑ってくれた。
「どれ? 爪をもう一度見せてみろ」
「もう綺麗に落ちたよ」
「そのようだな。洋が汚れているのは私が許せない」
「も、もう。照れるよ。丈……」
洗面所で、軽くキスをしあった。
「ん……そうだ。俺の書いた御朱印帳を見てくれないか」
「あぁそうだったな。しかし洋、あまり顔を見せるなよ。お前の美貌が漏れるのは心配だ」
「あ……あぁ」
とても長蛇の列になったとは言えないな。
「へぇ、洋は字が綺麗だと思っていたが毛筆も達筆だな。習っていたのか」
「あ、そういえば俺……習い事には行かせてもらえなかったが、母さん自ら手解きしてくれて」
「だからなのか。お母さん譲りなんだな。そうだ、今度白江さんにも贈ったらどうだ?」
「丈! 本当にそう思ってくれるのか」
「洋の得意分野発見だな」
「嬉しいよ。俺……不器用でアクセサリーも作れなくて流さんにお願いしてしまったし……少し自分に嫌悪感が」
丈が俺を抱きしめ、髪を撫でてくれる。気持ちいい……。
「馬鹿だな。洋自身が白江さんにとってかけがえのない贈りものだ。こんなに美しく品のある優しい孫はいないよ」
丈の言葉が、俺に自信を与えてくれる。
俺の存在意義を教えてくれる。
「丈先生は手術の腕前だけでなく、言葉も巧みだな。俺……すごくいい気分になってしまった」
「じゃあ、そのまま俺に抱かれてくれるか」
「あぁ……喜んで」
再びシーツに戻り、寝室の灯りを消す。
ベッド上のスポットライトを月光のように浴びながら、今宵も丈と身体を重ねよう。
週末は、皆で俺の母の実家に行こう。
それぞれの想いを抱いて……!
「それぞれの想い」了
「あぁ……まぁあれはあれで、良かったんじゃないかな」
御朱印受付の人が途切れたところで、翠に思い切って聞いてみた。
「じゃあやっぱり……小森にとっては幻のモテ期で、ぬか喜びだがな」
「でも本人も喜んでいるし、それに今頃、小森くんはきっと最中の虜だよ」
「ははっ! 翠は余裕だな」
「まぁここは寺だしたまにね。御朱印を取りに来た子……あの子もあれで浮かばれたんじゃないかな」
「やっぱり翠には見えたのか」
「まぁね……可愛い高校生だったし、もう成仏したので、害はないよ」
****
「小森くん、そんなに急いで食べたら、危ないよ」
「ゲホッ! あーん、洋さんも翠さんみたいに優しいんですね」
「そ、そうかな? でも良かった」
「何がです?」
洋さんが僕を見つめて胸を撫で下ろしているので、聞いてみた。
「いや、小森くんってば、誰もいないのに御朱印を頼まれたって……大丈夫かなって。さっきの話……彰さんって本当にいたんですか」
「え? だってちゃんと渡しましたよ」
「そうなんですね。じゃあ……まぁ良かったと思います」
「えっ、まさかのまさか? じゃ、ないですよねぇ~ あーんせっかくモテ期到来だと思ったのにぃ~」
「わ! 泣かないで下さい。あ、お饅頭も食べます?」
「ワン! 食べる!」
パクパクっ!
最中にお饅頭まで美味しいなぁ。今日の住職は大盤振る舞いだなぁ~ 何かいいことでもあったのかな。
****
「洋? どうした? 爪に墨がついているぞ」
「あれ、よく洗ったつもりなのに……落ちなかったのか」
「日中何をした?」
丈が俺を洗面所の連れて行き、爪にブラシを当ててくれた。
「寺の手伝いをしてみたんだ……その、御朱印を書く手伝いをね」
「洋が? あぁ、だからこんな所に墨を……で、どこに零したんだ。墨は厄介だぞ。落ちないかも……」
「え? なんで分かるの?」
「さぁ正直に言え」
「う……その、床とズボンに墨が飛んじゃって」
「やれやれ、洗ってやるから全部出してみろ」
小さな子供みたい、しょんぼりだ。
俺ってどうしてこんなに不器用なのだろう。
「これは……また派手に汚したな」
「ごめん、これでも洗ったんだよ」
「墨は洗剤だけじゃ無理だぞ」
丈が洗剤と石鹸をブレンドして洗ってくれると、完璧とは言えないが結構落ちたので感激してしまった。歯ミガキ粉とか白いご飯粒とか裏技があるらしい。
「丈、ありがとう」
嬉しくなってふわりと抱きつくと、丈も笑ってくれた。
「どれ? 爪をもう一度見せてみろ」
「もう綺麗に落ちたよ」
「そのようだな。洋が汚れているのは私が許せない」
「も、もう。照れるよ。丈……」
洗面所で、軽くキスをしあった。
「ん……そうだ。俺の書いた御朱印帳を見てくれないか」
「あぁそうだったな。しかし洋、あまり顔を見せるなよ。お前の美貌が漏れるのは心配だ」
「あ……あぁ」
とても長蛇の列になったとは言えないな。
「へぇ、洋は字が綺麗だと思っていたが毛筆も達筆だな。習っていたのか」
「あ、そういえば俺……習い事には行かせてもらえなかったが、母さん自ら手解きしてくれて」
「だからなのか。お母さん譲りなんだな。そうだ、今度白江さんにも贈ったらどうだ?」
「丈! 本当にそう思ってくれるのか」
「洋の得意分野発見だな」
「嬉しいよ。俺……不器用でアクセサリーも作れなくて流さんにお願いしてしまったし……少し自分に嫌悪感が」
丈が俺を抱きしめ、髪を撫でてくれる。気持ちいい……。
「馬鹿だな。洋自身が白江さんにとってかけがえのない贈りものだ。こんなに美しく品のある優しい孫はいないよ」
丈の言葉が、俺に自信を与えてくれる。
俺の存在意義を教えてくれる。
「丈先生は手術の腕前だけでなく、言葉も巧みだな。俺……すごくいい気分になってしまった」
「じゃあ、そのまま俺に抱かれてくれるか」
「あぁ……喜んで」
再びシーツに戻り、寝室の灯りを消す。
ベッド上のスポットライトを月光のように浴びながら、今宵も丈と身体を重ねよう。
週末は、皆で俺の母の実家に行こう。
それぞれの想いを抱いて……!
「それぞれの想い」了
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