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14章
それぞれの想い 32
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「流、寄ってくれるか」
「もちろんさ!」
建海寺からの帰り道、月下庵茶屋に立ち寄った。
翠は留守番をしてくれている小森、初めての御朱印受付を頑張っている洋、そして久しぶりに月影寺に戻ってきてくれた両親と薙のために、最中を買うつもりだ。おっと丈の分もあるから安心しろよ!
「いらっしゃいませ~、きゃあ~ 翠さまぁ♡」
「こんにちは、いつもの最中をいいかな?」
「畏まりました。あ、流さんもいらっしゃいませ」
相変わらず店の看板娘の黄色い悲鳴を浴びる翠は、もう慣れっこなのか、柔和な営業スマイルを浮かべている。
「あらまぁ~ すいちゃんとりゅうちゃんじゃないか」
「おばあさん!」
出た! 俺らを「ちゃん」づけする、この店のかつての看板娘。
「ねぇねぇ、あの子は、すいちゃんの息子さんかい?」
「えっ?」
「ほら、喫茶の窓際を見てご覧。あの焼きうどんを頬張っている子、中学生の時のすいちゃんにそっくりだよ。懐かしいねぇ」
翠と一緒に奥を覗くと、本当に薙が座っていた。
「おデートかねぇ。可愛いねぇ」
なぬ? デート?
「しっ、流、そっとしておこう」
「アイツ、やるなぁ」
「何だか変な感じがするよ」
どういう経緯か分からないが、薙が女の子と向かいあって座っていた。
女の子は背を向けているので顔は見えないが、長い黒髪が艶やかで可愛らしい感じだった。しかし薙よ、このシチュで焼きうどんはないぞ。
そんな所が……叔父である俺に似たんか!
俺たちは見つからないように、そっと店を出た。
ところが薙がすぐに追いかけて来た。気付いていたのか。
「父さん、流さん!」
「お、お前。デートじゃないのかよ?」
「えっ! そんなんじゃないよ。ノートを写させてもらったらお礼にご馳走してくれって言われてさ、オレも腹が減っていたから寄り道してた。ごめんなさい」
「それはいいけど、ノートって?」
「拓人が昨日から学校を休んでいるから、心配で……でも俺のノートじゃアレだからさ」
拓人くんのためか!
翠と顔を見合わせて口元を綻ばせてしまった。
「父さん、今から拓人の家に届けに行ってもいい?」
「うん、きっと喜ぶよ」
「ん? 何で知って?」
「いいから、ほら行っておいで。気をつけて」
「了解!」
「あ、待って、これ手土産に持って行きなさい」
「和菓子か。サンキュ! 父さん」
ちょうど小分けに包んでもらった最中があったので、翠がもたせてやった。
「お顔はすいちゃんなのに、焼きうどんの豪快な食いっぷりはりゅうちゃんそっくりだったね」
「おばあさん、あの子は息子の薙です。よろしくお願いします」
「あぁ、いいね。次の世代も見られるなんて、長生きしてよかったよ」
「おばあさん、僕は……もっともっと長生きしてもらいたいです」
キラーン! (でた翠のばーさんキラー!)
「あぁぁ……すいちゃんは優しくてきれいで可愛いねぇ♡」
流石年の功、特大♡じゃねーか!
「流? 何を暴れている? さぁ帰るよ」
****
ひぃー!
この長蛇の列はなんだなんだ?
みんな洋さん目当てなのか。いつの間に、一体……どこからこんなに人がやってきたんかーい!
「はい。次の方、お並び下さい~」
「あ、あの……」
「ん? なんですか」
「あの、オレは君に書いてもらいたいんですが」
ええええ、まさかの僕、指名!!
小森風太をお呼びですか。
相手は同性……男子高校生だけれど、嬉しくて思わず頬をつねってしまった。
「イタタ……初めてのご指名ありがとうございます。えっとぉ、何をサービスしたら」
支離滅裂のセンスの欠片もない会話をすると、彼はニコニコ笑ってくれた。
「じゃあ、彰《あきら》って書いてください」
「へ? へい!」
「くくっ、やっぱり可愛い人ですね」
どうしよう?
僕、明らかに年下男の子の笑顔にドキドキしている。
まさかの、まさかだよぉ~!
「もちろんさ!」
建海寺からの帰り道、月下庵茶屋に立ち寄った。
翠は留守番をしてくれている小森、初めての御朱印受付を頑張っている洋、そして久しぶりに月影寺に戻ってきてくれた両親と薙のために、最中を買うつもりだ。おっと丈の分もあるから安心しろよ!
「いらっしゃいませ~、きゃあ~ 翠さまぁ♡」
「こんにちは、いつもの最中をいいかな?」
「畏まりました。あ、流さんもいらっしゃいませ」
相変わらず店の看板娘の黄色い悲鳴を浴びる翠は、もう慣れっこなのか、柔和な営業スマイルを浮かべている。
「あらまぁ~ すいちゃんとりゅうちゃんじゃないか」
「おばあさん!」
出た! 俺らを「ちゃん」づけする、この店のかつての看板娘。
「ねぇねぇ、あの子は、すいちゃんの息子さんかい?」
「えっ?」
「ほら、喫茶の窓際を見てご覧。あの焼きうどんを頬張っている子、中学生の時のすいちゃんにそっくりだよ。懐かしいねぇ」
翠と一緒に奥を覗くと、本当に薙が座っていた。
「おデートかねぇ。可愛いねぇ」
なぬ? デート?
「しっ、流、そっとしておこう」
「アイツ、やるなぁ」
「何だか変な感じがするよ」
どういう経緯か分からないが、薙が女の子と向かいあって座っていた。
女の子は背を向けているので顔は見えないが、長い黒髪が艶やかで可愛らしい感じだった。しかし薙よ、このシチュで焼きうどんはないぞ。
そんな所が……叔父である俺に似たんか!
俺たちは見つからないように、そっと店を出た。
ところが薙がすぐに追いかけて来た。気付いていたのか。
「父さん、流さん!」
「お、お前。デートじゃないのかよ?」
「えっ! そんなんじゃないよ。ノートを写させてもらったらお礼にご馳走してくれって言われてさ、オレも腹が減っていたから寄り道してた。ごめんなさい」
「それはいいけど、ノートって?」
「拓人が昨日から学校を休んでいるから、心配で……でも俺のノートじゃアレだからさ」
拓人くんのためか!
翠と顔を見合わせて口元を綻ばせてしまった。
「父さん、今から拓人の家に届けに行ってもいい?」
「うん、きっと喜ぶよ」
「ん? 何で知って?」
「いいから、ほら行っておいで。気をつけて」
「了解!」
「あ、待って、これ手土産に持って行きなさい」
「和菓子か。サンキュ! 父さん」
ちょうど小分けに包んでもらった最中があったので、翠がもたせてやった。
「お顔はすいちゃんなのに、焼きうどんの豪快な食いっぷりはりゅうちゃんそっくりだったね」
「おばあさん、あの子は息子の薙です。よろしくお願いします」
「あぁ、いいね。次の世代も見られるなんて、長生きしてよかったよ」
「おばあさん、僕は……もっともっと長生きしてもらいたいです」
キラーン! (でた翠のばーさんキラー!)
「あぁぁ……すいちゃんは優しくてきれいで可愛いねぇ♡」
流石年の功、特大♡じゃねーか!
「流? 何を暴れている? さぁ帰るよ」
****
ひぃー!
この長蛇の列はなんだなんだ?
みんな洋さん目当てなのか。いつの間に、一体……どこからこんなに人がやってきたんかーい!
「はい。次の方、お並び下さい~」
「あ、あの……」
「ん? なんですか」
「あの、オレは君に書いてもらいたいんですが」
ええええ、まさかの僕、指名!!
小森風太をお呼びですか。
相手は同性……男子高校生だけれど、嬉しくて思わず頬をつねってしまった。
「イタタ……初めてのご指名ありがとうございます。えっとぉ、何をサービスしたら」
支離滅裂のセンスの欠片もない会話をすると、彼はニコニコ笑ってくれた。
「じゃあ、彰《あきら》って書いてください」
「へ? へい!」
「くくっ、やっぱり可愛い人ですね」
どうしよう?
僕、明らかに年下男の子の笑顔にドキドキしている。
まさかの、まさかだよぉ~!
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