1,285 / 1,657
14章
それぞれの想い 27
しおりを挟む
「少し車の窓を開けてもいいか」
「もちろんだ」
舞い込む春風が、優しい想い出を運んでくれる。
ついさっきの出来事だ。
『青年僧侶の会』に行く翠を山門まで見送るために背後を歩いていると、翠が突然道端にしゃがみ込んだ。
「翠、どうした? 具合でも悪いのか」
「違うよ。ほらここにクローバーが群生している」
「へぇ? 竹林だけかと思ったら、ここだけいつの間にか原っぱになっているな」
「ここ、芽生くんの……楽しい遊び場になりそうだね」
「そうだな。確か白詰草って指輪や王冠を作れるんだよな」
俺も翠の横にしゃがんでみた。
「翠に指輪をつくってやるよ」
「え? どうやるんだ。僕が作りたい」
「分かったよ。じゃあ教えてやるよ」
翠が子供のように目を輝かせた。
「こう? このあとは?」
「そうそう、あとはここを丸め茎をまとめれば、指輪の完成だ」
「わ……出来た。僕にも出来た」
不器用な翠にしては素早い飲み込みで、上出来だった。
「なぁ、流……目を閉じて」
「ん?」
ここはプライベート・ガーデンのようなものだ。キスでもくれるのかと期待すると、指に何か通された。
「いいよ。目を開けて」
翠が作ったシロツメクサの指輪が、俺の人差し指に通されていた。
「どう?」
「なんで左手に?」
「何となく……ここが落ち着くなって」
「そうか、いい場所だ」
俺は知っている。人差し指は英語ではIndex finger《インデックスフィンガー》なので、人差し指につける指輪はインデックス・リングと呼ばれている。
人差し指は、物事を指すために使う指なので夢や願望を象徴し、集中力を高め幸運へと導いてくれる意味が強いそうだ。
「あの……ごめん。えっと……薬指にするべきだった?」
翠が照れ臭そうに謝るので、『違う』と首を横に振った。
「ここがいい。ここが俺たちの場所だ」
右手は「現実」左手は「精神」と結び付きがある。だから左手人差し指は、己の気持ちを導く指なのだ。つまりここに指輪をつけると前向きな気持ちになれる!
翠との関係にもっと自信を持ちたい。
翠と歩む人生にいつまでも積極的な気持ちでいたい。
そんな気持ちの後押ししてくれる場所だった。
「翠、ありがとうな。俺に清らかな指輪を贈ってくれて」
「な……そんな……シロツメクサで作った指輪でそんなに喜ばれたら……困るよ」
「だが、最高の贈り物だよ」
「も、もう――そんな顔するな」
「どんな顔だ?」
「カッコイイよ。豪快な流が繊細な白詰草を指につけているのが溜らないんだ」
翠は真っ赤になりながら教えてくれた。
「なんだ? ギャップ萌えかよ?」
「も、もうっ、言わないでくれ」
「ははっ、翠の百面相が見られて嬉しいよ」
「くすっ、そうだね。僕……朝から笑ってばかりだ」
「俺たち……幸せだな」
「あぁ」
今日みたいな一時も、至福の時。
小さな幸せは、確かに俺たちの周りにも転がっている。
見つけられるかどうかは、俺たち次第。
「もちろんだ」
舞い込む春風が、優しい想い出を運んでくれる。
ついさっきの出来事だ。
『青年僧侶の会』に行く翠を山門まで見送るために背後を歩いていると、翠が突然道端にしゃがみ込んだ。
「翠、どうした? 具合でも悪いのか」
「違うよ。ほらここにクローバーが群生している」
「へぇ? 竹林だけかと思ったら、ここだけいつの間にか原っぱになっているな」
「ここ、芽生くんの……楽しい遊び場になりそうだね」
「そうだな。確か白詰草って指輪や王冠を作れるんだよな」
俺も翠の横にしゃがんでみた。
「翠に指輪をつくってやるよ」
「え? どうやるんだ。僕が作りたい」
「分かったよ。じゃあ教えてやるよ」
翠が子供のように目を輝かせた。
「こう? このあとは?」
「そうそう、あとはここを丸め茎をまとめれば、指輪の完成だ」
「わ……出来た。僕にも出来た」
不器用な翠にしては素早い飲み込みで、上出来だった。
「なぁ、流……目を閉じて」
「ん?」
ここはプライベート・ガーデンのようなものだ。キスでもくれるのかと期待すると、指に何か通された。
「いいよ。目を開けて」
翠が作ったシロツメクサの指輪が、俺の人差し指に通されていた。
「どう?」
「なんで左手に?」
「何となく……ここが落ち着くなって」
「そうか、いい場所だ」
俺は知っている。人差し指は英語ではIndex finger《インデックスフィンガー》なので、人差し指につける指輪はインデックス・リングと呼ばれている。
人差し指は、物事を指すために使う指なので夢や願望を象徴し、集中力を高め幸運へと導いてくれる意味が強いそうだ。
「あの……ごめん。えっと……薬指にするべきだった?」
翠が照れ臭そうに謝るので、『違う』と首を横に振った。
「ここがいい。ここが俺たちの場所だ」
右手は「現実」左手は「精神」と結び付きがある。だから左手人差し指は、己の気持ちを導く指なのだ。つまりここに指輪をつけると前向きな気持ちになれる!
翠との関係にもっと自信を持ちたい。
翠と歩む人生にいつまでも積極的な気持ちでいたい。
そんな気持ちの後押ししてくれる場所だった。
「翠、ありがとうな。俺に清らかな指輪を贈ってくれて」
「な……そんな……シロツメクサで作った指輪でそんなに喜ばれたら……困るよ」
「だが、最高の贈り物だよ」
「も、もう――そんな顔するな」
「どんな顔だ?」
「カッコイイよ。豪快な流が繊細な白詰草を指につけているのが溜らないんだ」
翠は真っ赤になりながら教えてくれた。
「なんだ? ギャップ萌えかよ?」
「も、もうっ、言わないでくれ」
「ははっ、翠の百面相が見られて嬉しいよ」
「くすっ、そうだね。僕……朝から笑ってばかりだ」
「俺たち……幸せだな」
「あぁ」
今日みたいな一時も、至福の時。
小さな幸せは、確かに俺たちの周りにも転がっている。
見つけられるかどうかは、俺たち次第。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる