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14章
それぞれの想い 21
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「君たちに会えてよかったです。実はもう僕たちはご覧の通りかなりの高齢なので……今回の帰省が最後になると覚悟していました。まさか……最後にこんなに素晴らしい贈り物《Gift》が届くなんて……」
瑠衣さんは静かに天を仰いだ。
「あの……洋くん、もう一度顔を見せてくれますか」
「はい」
「よく似ていますね。特に憂いのある瞳が……ね、アーサー、君もそう思わない?」
「あぁ、懐かしいな」
瑠衣さんとアーサーさんが、懐かしい瞳で俺を見つめている。
俺を通して母を見ているのが分かったが、少しも嫌な感じはしなかった。むしろ、母が幼い頃から駆け落ちする前まで……こんなに優しい眼差しを浴びて育ってきたのを知ることが出来て嬉しい。
まるで彼らは騎士だ。
「私たちは普段は英国に住んでいます。実は……ここが私の実家なので、頻繁に帰省していました。その度に白金の冬郷家に宿泊して、あなたのお母様ともよく遊びました。夕さんと出逢ったのはまだ彼女が2歳の時でした。あなたのおばあさまはもっと前から存じ上げています。夕さんは大人しいお嬢様で、私の膝がお気に入りで、よくおとぎ話のご本を読んであげました。まるで可憐な小公女のようでした」
俺の母さんは、本当に……とても裕福な家に生まれ育ったのだ。
瑠衣さんの話し方は、とても気品があった。それにアーサーさんという老紳士はとてつもないオーラを出している。セナさんのプラチナブロンドはまるで王子様のように目映い。
「あ、あの……お二人と冬郷家の関係が見えないんでけど……」
「すみません、説明不足で。私は元々は冬郷家の執事をしておりました」
「しっ、執事‼」
丈と顔を見合わせてしまう。
執事を雇える家って……小説やドラマのようだ。
「それで俺は英国貴族で、貿易商だよ」
「えっ……英国貴族‼」
貴族……って、生で初めて見た。
丈と俺は、そういう世界には疎かった。
「夕さんはとても可愛いお嬢様でしたが、朝さんと対照的に……お身体が弱かったのでよく寝込んでしまい、私の都合があえば看病もしました。白江さんはご主人の手伝いをしていてお忙しい方だったので。あ、あの…………夕さんは……今、どうしていますか」
「うん、俺も会いたいよ。夕さん……君のお母様は、お元気なのか」
戸惑いがちに聞かれた。
やはり、母の死を知らないのだ。
18歳で駆け落ちした母は一切の連絡を自ら断ってしまったので、おばあさまと同様、まだ生きていると皆……信じているのだ。
無理もない。
「母は……もう海里先生と柊一さんの元へ……旅立ちました」
俺には期待に満ちた二人に……そう告げるので精一杯だった。
瑠衣さんは一瞬目を見開いたが、やがて静かに穏やかに……俺に『希望』を与えて下さった。
「そうだったのですね。海里と柊一さまは子煩悩で、夕さんと朝さんを実の娘のように可愛がっていたので、天国でも安心ですね」
俺は海里さんと柊一さんに会ったことはないが、そんな穏やかな情景が見えるようだ。
母は、父が亡くなってから幼い俺を抱えて苦労した。だから天国では会いたかった人に会って楽しく過ごして欲しい。時には恨んだこともあった母の、天上での幸せを、素直に願うことが出来た。
「瑠衣さんとアーサーさんに会えて良かったです。母のこと教えて下さってありがとうございます。俺……知らないことばかりで」
涙ぐんでしまった。
そんな俺を、丈が逞しい腕でずっと支えてくれている。
「あの……君たちは……もしかして恋人同士ですか」
単刀直入に聞かれた。
素直に受け入れよう。この人たちは母と深い縁のある人だ。
「はい、そうです。あの……瑠衣さんとアーサーさんもですよね?」
「はい……生涯の愛を誓った仲です」
瑠衣さんが言い切ると、アーサーさんが目を細めた。
いいな、この歳になっても尚、二人の間には愛が満ち溢れている。
「うっ……うう」
母を思慕する気持ちや、不思議な巡り逢いに涙が溢れてしまう。
もう会えない母を近くに感じられて……
恨んだこともあった母の幸せを願えて……
感極まってしまった。
「あぁ泣かないで下さい。洋くんは、とても綺麗です。顔だけでなく全身から月の輝きのような光を感じます」
瑠衣さんの言葉が、心の襞を埋めていく。
琴線に触れる……
「あなたたちに、巡り逢えてよかったです」
「It feels like a fate」
瑠衣さんは静かに天を仰いだ。
「あの……洋くん、もう一度顔を見せてくれますか」
「はい」
「よく似ていますね。特に憂いのある瞳が……ね、アーサー、君もそう思わない?」
「あぁ、懐かしいな」
瑠衣さんとアーサーさんが、懐かしい瞳で俺を見つめている。
俺を通して母を見ているのが分かったが、少しも嫌な感じはしなかった。むしろ、母が幼い頃から駆け落ちする前まで……こんなに優しい眼差しを浴びて育ってきたのを知ることが出来て嬉しい。
まるで彼らは騎士だ。
「私たちは普段は英国に住んでいます。実は……ここが私の実家なので、頻繁に帰省していました。その度に白金の冬郷家に宿泊して、あなたのお母様ともよく遊びました。夕さんと出逢ったのはまだ彼女が2歳の時でした。あなたのおばあさまはもっと前から存じ上げています。夕さんは大人しいお嬢様で、私の膝がお気に入りで、よくおとぎ話のご本を読んであげました。まるで可憐な小公女のようでした」
俺の母さんは、本当に……とても裕福な家に生まれ育ったのだ。
瑠衣さんの話し方は、とても気品があった。それにアーサーさんという老紳士はとてつもないオーラを出している。セナさんのプラチナブロンドはまるで王子様のように目映い。
「あ、あの……お二人と冬郷家の関係が見えないんでけど……」
「すみません、説明不足で。私は元々は冬郷家の執事をしておりました」
「しっ、執事‼」
丈と顔を見合わせてしまう。
執事を雇える家って……小説やドラマのようだ。
「それで俺は英国貴族で、貿易商だよ」
「えっ……英国貴族‼」
貴族……って、生で初めて見た。
丈と俺は、そういう世界には疎かった。
「夕さんはとても可愛いお嬢様でしたが、朝さんと対照的に……お身体が弱かったのでよく寝込んでしまい、私の都合があえば看病もしました。白江さんはご主人の手伝いをしていてお忙しい方だったので。あ、あの…………夕さんは……今、どうしていますか」
「うん、俺も会いたいよ。夕さん……君のお母様は、お元気なのか」
戸惑いがちに聞かれた。
やはり、母の死を知らないのだ。
18歳で駆け落ちした母は一切の連絡を自ら断ってしまったので、おばあさまと同様、まだ生きていると皆……信じているのだ。
無理もない。
「母は……もう海里先生と柊一さんの元へ……旅立ちました」
俺には期待に満ちた二人に……そう告げるので精一杯だった。
瑠衣さんは一瞬目を見開いたが、やがて静かに穏やかに……俺に『希望』を与えて下さった。
「そうだったのですね。海里と柊一さまは子煩悩で、夕さんと朝さんを実の娘のように可愛がっていたので、天国でも安心ですね」
俺は海里さんと柊一さんに会ったことはないが、そんな穏やかな情景が見えるようだ。
母は、父が亡くなってから幼い俺を抱えて苦労した。だから天国では会いたかった人に会って楽しく過ごして欲しい。時には恨んだこともあった母の、天上での幸せを、素直に願うことが出来た。
「瑠衣さんとアーサーさんに会えて良かったです。母のこと教えて下さってありがとうございます。俺……知らないことばかりで」
涙ぐんでしまった。
そんな俺を、丈が逞しい腕でずっと支えてくれている。
「あの……君たちは……もしかして恋人同士ですか」
単刀直入に聞かれた。
素直に受け入れよう。この人たちは母と深い縁のある人だ。
「はい、そうです。あの……瑠衣さんとアーサーさんもですよね?」
「はい……生涯の愛を誓った仲です」
瑠衣さんが言い切ると、アーサーさんが目を細めた。
いいな、この歳になっても尚、二人の間には愛が満ち溢れている。
「うっ……うう」
母を思慕する気持ちや、不思議な巡り逢いに涙が溢れてしまう。
もう会えない母を近くに感じられて……
恨んだこともあった母の幸せを願えて……
感極まってしまった。
「あぁ泣かないで下さい。洋くんは、とても綺麗です。顔だけでなく全身から月の輝きのような光を感じます」
瑠衣さんの言葉が、心の襞を埋めていく。
琴線に触れる……
「あなたたちに、巡り逢えてよかったです」
「It feels like a fate」
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