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14章
それぞれの想い 20
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「俺を夕と呼ぶあなたは……?」
老紳士は明らかに動揺していた。
「ゆ……夕さんは白江さんの愛娘です。あなたの顔は……驚く程……夕さんにそっくりです」
上擦った声、涙を浮かべながら俺を見つめる黒い穢れなき瞳。
「俺の母が、夕です」
「じゃあ……君は……夕さんの息子なんですか。あぁ、なんてことだ」
老紳士は驚きのあまりよろめいた。
「丈っ、来てくれ!」
「大丈夫ですか」
「す……すまない。か、海里……ぃ」
老紳士は皺だらけの手で、丈の白衣をキュッと掴んだ。
親しい人を強く思慕する……切なる想いが届く。
「もしかして、あなたは海里先生の……」
「ぼ……僕は……海里の弟……瑠衣です」
「弟さん! あ……しっかり!」
丈の手に支えられ、ルイさんという人は意識を失うように目を閉じてしまった。
「丈、どうしよう? どこから来たのかな? もしかして……」
俺と丈は瑠衣さんを支えながら、背後を振り返った。
白い洋館が双子のように、兄弟のように並んでいる。
そこからアッシュブロンドに碧い瞳の見目麗しい青年が駆け寄ってきた。その後ろから同じアッシュブロンドの老紳士が血相を変えてやってくる。
やはり……隣の家と関係がありそうだ。
「ルイー!」
「瑠衣どうしたんだ……えっ、君は?」
異国の老紳士が、同じように俺の顔を見て驚愕した。
「ゆ……夕さん? 月乃夕さんなのか」
流暢な日本語だ。
「いえ、夕は俺の母です。俺は夕の息子、洋です。あのルイさんは大丈夫でしょうか」
「セオ、すまないが瑠衣を部屋に運んでもらえるか」
「了解。アーサー大叔父さん」
若い青年は、セオという名前なのか。
セオは……神からの贈り物、「Theodora」の愛称と聞いたことがある。
大叔父さんか……なるほど、二人の関係が見えた。老紳士はアーサーという名前で、若い青年は彼の甥っ子の子供だろう。
そのまま丈と一緒に、隣の家に通された。
内装は和洋折衷で洋風と和風の良いところが混ざり合っていた。応接間には、ゆったりとしたソファが置いてあった。
「セオ、そのソファに瑠衣を寝かせてくれ」
「はい。大叔父さん」
「すまないが、セオ……紅茶をいれてもらえるか」
すると瑠衣さんが目を覚ましたようで、返事をした。
「アーサー、紅茶なら……僕がいれるよ」
「瑠衣、大丈夫なのか。どうか無理だけはしないでくれ」
「ぜひ、夕さんの息子さんと……海里に似た青年に飲んで欲しいんだ。僕のいれた紅茶を」
瑠衣さんが近寄ってくる。今度はしっかりとした足取りだ。
「あの……瑠衣さん、大丈夫ですか」
「もう大丈夫ですよ。驚き過ぎたようです。驚かせてすみません」
「丈、大丈夫かな。診察を……」
丈が白衣に聴診器姿なので、医者だと分かるだろう。
「君は……丈さんと言うんだね? さっきはすまない。背格好が海里によく似ていたので間違えてしまったんだ。僕の兄の……幻かと。兄の臨終に立ち会えなかった心残りがあってね」
「そうだったのですね。私は……張矢丈です。海里先生と同じ外科医で、今度ここに医院を開業しようと思っています」
丈がもう決定したことのように言うので、益々驚いてしまった。不確かなことなんて信じられない男だったのに、今は俺と一緒に夢を見てくれるのか。
「え……本当なのか。嬉しいよ。あそこを復活させてくれるなんて」
瑠衣さんは、気品溢れる笑みを浮かべた。
その横でアーサーさんがそっとその肩を抱き寄せる
セオさんは、その様子を嬉しそうに見つめていた。
アーサーさんと瑠衣さんは、俺達と同じ空気を纏っていた。
母さん……母さんが呼び寄せてくれる人が、皆……俺と丈の関係をすんなり受け入れてくれるのですね。
これは虹の向こうにいる……母さんからの贈り物なんですか。
老紳士は明らかに動揺していた。
「ゆ……夕さんは白江さんの愛娘です。あなたの顔は……驚く程……夕さんにそっくりです」
上擦った声、涙を浮かべながら俺を見つめる黒い穢れなき瞳。
「俺の母が、夕です」
「じゃあ……君は……夕さんの息子なんですか。あぁ、なんてことだ」
老紳士は驚きのあまりよろめいた。
「丈っ、来てくれ!」
「大丈夫ですか」
「す……すまない。か、海里……ぃ」
老紳士は皺だらけの手で、丈の白衣をキュッと掴んだ。
親しい人を強く思慕する……切なる想いが届く。
「もしかして、あなたは海里先生の……」
「ぼ……僕は……海里の弟……瑠衣です」
「弟さん! あ……しっかり!」
丈の手に支えられ、ルイさんという人は意識を失うように目を閉じてしまった。
「丈、どうしよう? どこから来たのかな? もしかして……」
俺と丈は瑠衣さんを支えながら、背後を振り返った。
白い洋館が双子のように、兄弟のように並んでいる。
そこからアッシュブロンドに碧い瞳の見目麗しい青年が駆け寄ってきた。その後ろから同じアッシュブロンドの老紳士が血相を変えてやってくる。
やはり……隣の家と関係がありそうだ。
「ルイー!」
「瑠衣どうしたんだ……えっ、君は?」
異国の老紳士が、同じように俺の顔を見て驚愕した。
「ゆ……夕さん? 月乃夕さんなのか」
流暢な日本語だ。
「いえ、夕は俺の母です。俺は夕の息子、洋です。あのルイさんは大丈夫でしょうか」
「セオ、すまないが瑠衣を部屋に運んでもらえるか」
「了解。アーサー大叔父さん」
若い青年は、セオという名前なのか。
セオは……神からの贈り物、「Theodora」の愛称と聞いたことがある。
大叔父さんか……なるほど、二人の関係が見えた。老紳士はアーサーという名前で、若い青年は彼の甥っ子の子供だろう。
そのまま丈と一緒に、隣の家に通された。
内装は和洋折衷で洋風と和風の良いところが混ざり合っていた。応接間には、ゆったりとしたソファが置いてあった。
「セオ、そのソファに瑠衣を寝かせてくれ」
「はい。大叔父さん」
「すまないが、セオ……紅茶をいれてもらえるか」
すると瑠衣さんが目を覚ましたようで、返事をした。
「アーサー、紅茶なら……僕がいれるよ」
「瑠衣、大丈夫なのか。どうか無理だけはしないでくれ」
「ぜひ、夕さんの息子さんと……海里に似た青年に飲んで欲しいんだ。僕のいれた紅茶を」
瑠衣さんが近寄ってくる。今度はしっかりとした足取りだ。
「あの……瑠衣さん、大丈夫ですか」
「もう大丈夫ですよ。驚き過ぎたようです。驚かせてすみません」
「丈、大丈夫かな。診察を……」
丈が白衣に聴診器姿なので、医者だと分かるだろう。
「君は……丈さんと言うんだね? さっきはすまない。背格好が海里によく似ていたので間違えてしまったんだ。僕の兄の……幻かと。兄の臨終に立ち会えなかった心残りがあってね」
「そうだったのですね。私は……張矢丈です。海里先生と同じ外科医で、今度ここに医院を開業しようと思っています」
丈がもう決定したことのように言うので、益々驚いてしまった。不確かなことなんて信じられない男だったのに、今は俺と一緒に夢を見てくれるのか。
「え……本当なのか。嬉しいよ。あそこを復活させてくれるなんて」
瑠衣さんは、気品溢れる笑みを浮かべた。
その横でアーサーさんがそっとその肩を抱き寄せる
セオさんは、その様子を嬉しそうに見つめていた。
アーサーさんと瑠衣さんは、俺達と同じ空気を纏っていた。
母さん……母さんが呼び寄せてくれる人が、皆……俺と丈の関係をすんなり受け入れてくれるのですね。
これは虹の向こうにいる……母さんからの贈り物なんですか。
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