重なる月

志生帆 海

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14章

それぞれの想い 19

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 するすると木登りし、翠の部屋の高さで木の幹に腰掛けた。

(翠……)

 心の中で念仏を唱えるように、呼びかけてみた。

 隣は薙の部屋だ、早朝だし……大きな声は出せないな。

 しかし何故だか翠に気付いてもらえるような気がした。

(流……)

 お? ほらな、翠の返事が聞こえる。

「流、危ないよ」

 ん? 声は何故か下から聞こえるぞ?

 慌てて地上を見下ろすと、袈裟を着込んだ翠が立っていた。

 涼しげな澄ました表情を浮かべている。

「なんで!?」
「あ、危ないよ!」

 おっと! 驚きのあまりバランスを崩すところだったぜ。

 ザザッと滑るように木から下り、翠の前に立ち深呼吸する。

「来いよ」
「えっ?」

 翠の細い手首を掴んで引っ張った。

「りゅ、流? どこへ」

もう完成した茶室を通り越し、俺の工房《アトリエ》に、翠を連れ込んだ。
こちらももう完成したので、先日から入り浸って作業をしていた。


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