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14章
それぞれの想い 16
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「焼きたてパンのいい香りがするな」
「着いたら洋館で食べよう」
「ん……」
ところが!
ぐぅぅ……
助手席でパンの包みを抱きしめると、腹が鳴った。
「わっ! 今の……聞かなかった事にしてくれ!」
夜中の運動量が半端なく、腹がペコペコだった。でも腹が鳴るなんて……水分補給のみで、まだお腹に何も入れていなかったからだぞ。
うううっ、恥ずかしい……。
色気より食い気に走るなんて、せっかくいいムードの早朝ドライブが台無しじゃないか。
「ははっ、洋、珍しいな。予定変更だ。先に海辺で食べよう」
由比ヶ浜の手前で丈が車を停めた。
「ここまで来たら、もうすぐそこなのに?」
「こういうことをしてみたかった。ワクワクすると同時に少し緊張しているようだ。だから少し気持ちを落ち着かせよう」
「分かった! じゃあ、このブランケットを引いて砂浜で食べるか」
「そうしよう」
まだ犬の散歩の人がたまに通る早朝だ。男二人でモーニングピクニックをしても、そう目立たないよな。
「いただきます! 俺の好きなクリームパン、まだほんのり暖かいな」
「いただきます。ふぅん……結構甘いな」
「丈は甘い物が嫌いなのか」
「いや、過剰摂取になりそうで控えている」
「はぁ?」(意味が分からない)
「昨夜も洋のをたっぷり頂戴したしな」(げっ……それって)
クリームパンのクリームがポトッと膝に落ちた。
「じょ、丈ー!!」
思わず丈の胸をドンドン叩いてしまった。
恥ずかしくて卒倒しそうだよ!
「よせって、暴れるな!」
「朝から卑猥なことを言うな。普通な、あれは苦いんだー! ドロッとしてまずいだろ」
「よ、洋! よせっ」
大声で叫んで、ハッとした。
俺、こんな朝っぱらから……何を叫んだ?
「うう……消えたいよ」
「ふっ、可愛いな」
丈が項垂れる俺の頭をよしよしと撫でてくれる。
「丈……俺やっぱり変な感じがするよ」
「何故だ?」
「だってこんなの……こんな日常は……あまりに普通過ぎて」
「馬鹿だな、これが、これからの私達のスタイルなのに」
丈が手を繋いでくれる。
潮風を浴びながら、俺に笑いかけてくれる。
俺にはもう父さんも母さんもいないけれども、一番近い所に丈がいてくれる。
丈が新しい家族を、俺にも分けてくれる。
お父さんもお母さん、翠兄さんも流兄さんも……丈の家族が俺のことを、手を広げて迎え入れてくれた。だから俺も頑張って自分のルーツを探り、自分の祖母と巡り会えた。
その祖母が新しい『縁』と『絆』をくれた。
「丈……」
「洋……」
丈が顔を近づけてくる。
もしかして……キスされる?
そう思って目をギュッと閉じると、顎を舐められた。
「!?」
「お子様みたいだぞ、クリームなんてつけて」
「あ、もう! 丈が驚かしたからだ」
ひらり――
丈が走り出す。
「え? おい? 待てよ」
「走ると、気持ちいいな」
「あ……うん!」
そのまま俺たち馬鹿みたいに海岸線を走った。
オフホワイトのブランケットが風にはためき、翼のように広がっていく。
浮上していく。
「着いたら洋館で食べよう」
「ん……」
ところが!
ぐぅぅ……
助手席でパンの包みを抱きしめると、腹が鳴った。
「わっ! 今の……聞かなかった事にしてくれ!」
夜中の運動量が半端なく、腹がペコペコだった。でも腹が鳴るなんて……水分補給のみで、まだお腹に何も入れていなかったからだぞ。
うううっ、恥ずかしい……。
色気より食い気に走るなんて、せっかくいいムードの早朝ドライブが台無しじゃないか。
「ははっ、洋、珍しいな。予定変更だ。先に海辺で食べよう」
由比ヶ浜の手前で丈が車を停めた。
「ここまで来たら、もうすぐそこなのに?」
「こういうことをしてみたかった。ワクワクすると同時に少し緊張しているようだ。だから少し気持ちを落ち着かせよう」
「分かった! じゃあ、このブランケットを引いて砂浜で食べるか」
「そうしよう」
まだ犬の散歩の人がたまに通る早朝だ。男二人でモーニングピクニックをしても、そう目立たないよな。
「いただきます! 俺の好きなクリームパン、まだほんのり暖かいな」
「いただきます。ふぅん……結構甘いな」
「丈は甘い物が嫌いなのか」
「いや、過剰摂取になりそうで控えている」
「はぁ?」(意味が分からない)
「昨夜も洋のをたっぷり頂戴したしな」(げっ……それって)
クリームパンのクリームがポトッと膝に落ちた。
「じょ、丈ー!!」
思わず丈の胸をドンドン叩いてしまった。
恥ずかしくて卒倒しそうだよ!
「よせって、暴れるな!」
「朝から卑猥なことを言うな。普通な、あれは苦いんだー! ドロッとしてまずいだろ」
「よ、洋! よせっ」
大声で叫んで、ハッとした。
俺、こんな朝っぱらから……何を叫んだ?
「うう……消えたいよ」
「ふっ、可愛いな」
丈が項垂れる俺の頭をよしよしと撫でてくれる。
「丈……俺やっぱり変な感じがするよ」
「何故だ?」
「だってこんなの……こんな日常は……あまりに普通過ぎて」
「馬鹿だな、これが、これからの私達のスタイルなのに」
丈が手を繋いでくれる。
潮風を浴びながら、俺に笑いかけてくれる。
俺にはもう父さんも母さんもいないけれども、一番近い所に丈がいてくれる。
丈が新しい家族を、俺にも分けてくれる。
お父さんもお母さん、翠兄さんも流兄さんも……丈の家族が俺のことを、手を広げて迎え入れてくれた。だから俺も頑張って自分のルーツを探り、自分の祖母と巡り会えた。
その祖母が新しい『縁』と『絆』をくれた。
「丈……」
「洋……」
丈が顔を近づけてくる。
もしかして……キスされる?
そう思って目をギュッと閉じると、顎を舐められた。
「!?」
「お子様みたいだぞ、クリームなんてつけて」
「あ、もう! 丈が驚かしたからだ」
ひらり――
丈が走り出す。
「え? おい? 待てよ」
「走ると、気持ちいいな」
「あ……うん!」
そのまま俺たち馬鹿みたいに海岸線を走った。
オフホワイトのブランケットが風にはためき、翼のように広がっていく。
浮上していく。
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