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14章
それぞれの想い 7
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「さぁ、綺麗に着付けたわよ。流の所に行ってらっしゃい。あの子……きっと心配しているわよ」
「はい……あの……母さん」
「なぁに?」
「あ……ありがとうございます」
母が抱きしめてくれた。
母が僕の背中を撫でてくれた。
母に甘えたのは一体いつぶりだろう。
10年前、彩乃さんに離婚してくれと突然宣告され、ショックでひとりBARに行き、衝撃を受け事故にあった。
あの時、真っ先に病院に駆けつけてくれた母さんに甘えることは出来なかった。ただ謝ることしか出来なかった。だから最後に……今日みたいに縋って甘えたのはいつだったのか……記憶にない。
廊下に出て歩き出すと、母さんが僕を呼び止めた。
「あっ、待って」
「はい?」
「あのね……翠……母さんはあなたたちの味方よ」
『あなたたち』と?
今、確かにそう聞こえた。やはり流とのことを察知しているのだ。そう思うと動揺し心が震えた。
「あぁ大丈夫よ、怯えないで……翠、そのままでいい……恥じることはないわ」
大丈夫と? このままでいいと?
流石……我が母だ。
僕と流の生みの母だ。
いにしえの声がする。
(君のお母さんもまた僕らの子孫だ。僕らの願いを見守ってくれる)
ならば進もう。流との道を恥じることなく、僕の人生の全てをかけて。
「流? 流、どこだ?」
庭先に出て、流を探すが姿が見えない。先ほど話かけられた檀家さんの姿もなかった。もう帰られたのかと山門を覗くと、驚いたことに白衣姿の丈が勢いよく階段を駆け上がってきた。
「じょ……丈、どうしたんだ? まだ勤務時間じゃ」
「あぁ兄さん。午後の手術がキャンセルになり、思いがけない空き時間が出来たので……少しだけ休みを取りました。また病院に戻りますが」
「わざわざそれで戻ってきたのか、あ……そうか」
少しでも洋くんに会いたいんだな。分かるよ、その気持ち。
「離れにいなかったので探しているんです。洋を知りませんか」
「あ……もしかして……茶室かも」
「行って見ましょう」
「そうだね」
丈と完成したばかりの茶室に向かうと、今度は竹藪から薙が飛び出してきた。
「わ! 出たあぁぁぁあー!」
腰を抜かす程驚くのだから、丈と顔を見合わせて苦笑してしまった。
「薙、酷いな、父さんをお化けみたいに」
「あぁぁ、びっくりした。だってさ、まさか丈さんがこの時間にいるなんて思わないだろ! 白衣が風に揺れて、マジ雪女とかそういうお化けかと思ったんだよぉ!」
薙の若い物言いが微笑ましかった。
「薙、もしかして洋くんと一緒だったの?」
「うん、茶室でおやつ食べてたんだ。そしたら流さんが突然現れたから、ふたりで悲鳴をあげたところ!」
「流が……そうだったんだね。まだ茶室にいる?」
「あぁ、お抹茶を飲んでるよ。オレ、まだ腹が減ってるから、おにぎりでも作ってもらおうかな」
「あぁ、母さんがよく流に作っていたよ。爆弾おにぎり、食べておいで」
「そうする!」
丈と一緒に茶室に向かうと、小窓から流と洋くんのリラックスした話し声が聞こえた。
「りゅ……」
話かけようとしたら、丈に止められた。
「翠兄さん、少し待って下さい。もしかしたら、洋……今日なら言えるかも……だから、少しだけ二人きりにさせてあげてください」
何を言えるのか。
その時には分からなかったが、洋くんの明るい声が珍しく、二人で暫くその会話に耳を傾けた。
「はい……あの……母さん」
「なぁに?」
「あ……ありがとうございます」
母が抱きしめてくれた。
母が僕の背中を撫でてくれた。
母に甘えたのは一体いつぶりだろう。
10年前、彩乃さんに離婚してくれと突然宣告され、ショックでひとりBARに行き、衝撃を受け事故にあった。
あの時、真っ先に病院に駆けつけてくれた母さんに甘えることは出来なかった。ただ謝ることしか出来なかった。だから最後に……今日みたいに縋って甘えたのはいつだったのか……記憶にない。
廊下に出て歩き出すと、母さんが僕を呼び止めた。
「あっ、待って」
「はい?」
「あのね……翠……母さんはあなたたちの味方よ」
『あなたたち』と?
今、確かにそう聞こえた。やはり流とのことを察知しているのだ。そう思うと動揺し心が震えた。
「あぁ大丈夫よ、怯えないで……翠、そのままでいい……恥じることはないわ」
大丈夫と? このままでいいと?
流石……我が母だ。
僕と流の生みの母だ。
いにしえの声がする。
(君のお母さんもまた僕らの子孫だ。僕らの願いを見守ってくれる)
ならば進もう。流との道を恥じることなく、僕の人生の全てをかけて。
「流? 流、どこだ?」
庭先に出て、流を探すが姿が見えない。先ほど話かけられた檀家さんの姿もなかった。もう帰られたのかと山門を覗くと、驚いたことに白衣姿の丈が勢いよく階段を駆け上がってきた。
「じょ……丈、どうしたんだ? まだ勤務時間じゃ」
「あぁ兄さん。午後の手術がキャンセルになり、思いがけない空き時間が出来たので……少しだけ休みを取りました。また病院に戻りますが」
「わざわざそれで戻ってきたのか、あ……そうか」
少しでも洋くんに会いたいんだな。分かるよ、その気持ち。
「離れにいなかったので探しているんです。洋を知りませんか」
「あ……もしかして……茶室かも」
「行って見ましょう」
「そうだね」
丈と完成したばかりの茶室に向かうと、今度は竹藪から薙が飛び出してきた。
「わ! 出たあぁぁぁあー!」
腰を抜かす程驚くのだから、丈と顔を見合わせて苦笑してしまった。
「薙、酷いな、父さんをお化けみたいに」
「あぁぁ、びっくりした。だってさ、まさか丈さんがこの時間にいるなんて思わないだろ! 白衣が風に揺れて、マジ雪女とかそういうお化けかと思ったんだよぉ!」
薙の若い物言いが微笑ましかった。
「薙、もしかして洋くんと一緒だったの?」
「うん、茶室でおやつ食べてたんだ。そしたら流さんが突然現れたから、ふたりで悲鳴をあげたところ!」
「流が……そうだったんだね。まだ茶室にいる?」
「あぁ、お抹茶を飲んでるよ。オレ、まだ腹が減ってるから、おにぎりでも作ってもらおうかな」
「あぁ、母さんがよく流に作っていたよ。爆弾おにぎり、食べておいで」
「そうする!」
丈と一緒に茶室に向かうと、小窓から流と洋くんのリラックスした話し声が聞こえた。
「りゅ……」
話かけようとしたら、丈に止められた。
「翠兄さん、少し待って下さい。もしかしたら、洋……今日なら言えるかも……だから、少しだけ二人きりにさせてあげてください」
何を言えるのか。
その時には分からなかったが、洋くんの明るい声が珍しく、二人で暫くその会話に耳を傾けた。
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