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14章
追憶の由比ヶ浜 55
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「やぁ張矢!」
「あぁ、わざわざ来てくれてありがとう」
「珍しいな。お前から直々の頼みなんて」
私は医大の同級生で形成外科医として活躍している丹沢という男に、翠兄さんの治療の件で、声をかけていた。この男は何かと私に話しかけてくれた気さくな男で、かといって浮ついたこともなく、信頼できるから。
「なぁ、何か訳ありの患者なのか」
「……実の兄だ」
「なんだ? それなら……いや、まずは診てみよう。出来る限りのアドバイスをするよ、執刀はお前がしたいんだろう」
こちらから申し出る前に、察してもらえて驚いた。
「なんで分かる?」
「おいおい、オレたちいつからの付き合いだ」
「丹沢……ありがとう」
「その前に、これを見てくれ」
海里先生の示してくれた治療案を見せると、丹沢もその名を見て驚いていた。
「これって、あの森宮先生の直筆か! すごいな」
「やはり丹沢も知っているのか」
「伝説の海里先生だろ? 彼は晩年……手術痕や傷痕を消すスペシャリストだったからな。よし! この通りやってみよう」
「ありがとう。兄は検査入院をしているんだ。それで……できる限り早く手術したいと希望している」
「OK。今日事前検査を済ましておけよ。それで、手術はなるべく早く……暑くなる前に実行だ」
手術の前に、兄さんたちと洋と冬郷家を訪ねるつもりだ。
そこで手紙に書いてあった薬草使いに会いたいから。
綺麗に、出来る限り綺麗にするためには、術後のケアも大事なんだ。
****
「はい、上着を着ていいですよ」
「ありがとうございます」
どうしても私だけでは不安で、形成外科医の丹沢に翠兄さんの診察をしてもらった。海里先生の示した通り実行できるかの確認も込めて。
「大丈夫です。ここは手術で綺麗になります」
「……そうでしょうか」
「弟さんの手はゴッドハンドですからね。安心して委ねてください」
「分かりました」
ここでもまたそれか。
同期に手放して褒められて、こそばゆい。
「あ、あの……丹沢先生は、弟と大学の同級生なんですか」
ちょっ、翠兄さん? 一体何を聞くつもりですか!
「えぇ、医大時代からの友人ですよ」
「そうなんですね。あの、弟と仲良くしてくれて、ありがとうございます」
「はは、弟思いの優しいお兄さんなんですね」
「あ、すみません。弟の医大時代の話を殆ど聞いてなかったので、つい嬉しくなってしまいました」
翠兄さんが柔和に微笑めば、無骨な丹沢も何故か頬を赤らめる(おかしいからヤメロ! あとで流兄さんに私が殺される……!)
「丹沢、お前大丈夫か」
「い、いや……こんな優しいお兄さんなら、オレも欲しいなって」
場が和んだ所で、手術の方法や注意点などを分かりやすく説明した。
「では今日手術の予約をしますか」
「はい、お願いします」
「ご家族の同意は……って、張矢がするから問題ないのか」
「家族は、この件には同意してくれているので大丈夫です」
兄さんは手術と治療に、どこまでも前向きだった。
流兄さんと歩む道に……『迷い』はないようだ。
「あぁ、わざわざ来てくれてありがとう」
「珍しいな。お前から直々の頼みなんて」
私は医大の同級生で形成外科医として活躍している丹沢という男に、翠兄さんの治療の件で、声をかけていた。この男は何かと私に話しかけてくれた気さくな男で、かといって浮ついたこともなく、信頼できるから。
「なぁ、何か訳ありの患者なのか」
「……実の兄だ」
「なんだ? それなら……いや、まずは診てみよう。出来る限りのアドバイスをするよ、執刀はお前がしたいんだろう」
こちらから申し出る前に、察してもらえて驚いた。
「なんで分かる?」
「おいおい、オレたちいつからの付き合いだ」
「丹沢……ありがとう」
「その前に、これを見てくれ」
海里先生の示してくれた治療案を見せると、丹沢もその名を見て驚いていた。
「これって、あの森宮先生の直筆か! すごいな」
「やはり丹沢も知っているのか」
「伝説の海里先生だろ? 彼は晩年……手術痕や傷痕を消すスペシャリストだったからな。よし! この通りやってみよう」
「ありがとう。兄は検査入院をしているんだ。それで……できる限り早く手術したいと希望している」
「OK。今日事前検査を済ましておけよ。それで、手術はなるべく早く……暑くなる前に実行だ」
手術の前に、兄さんたちと洋と冬郷家を訪ねるつもりだ。
そこで手紙に書いてあった薬草使いに会いたいから。
綺麗に、出来る限り綺麗にするためには、術後のケアも大事なんだ。
****
「はい、上着を着ていいですよ」
「ありがとうございます」
どうしても私だけでは不安で、形成外科医の丹沢に翠兄さんの診察をしてもらった。海里先生の示した通り実行できるかの確認も込めて。
「大丈夫です。ここは手術で綺麗になります」
「……そうでしょうか」
「弟さんの手はゴッドハンドですからね。安心して委ねてください」
「分かりました」
ここでもまたそれか。
同期に手放して褒められて、こそばゆい。
「あ、あの……丹沢先生は、弟と大学の同級生なんですか」
ちょっ、翠兄さん? 一体何を聞くつもりですか!
「えぇ、医大時代からの友人ですよ」
「そうなんですね。あの、弟と仲良くしてくれて、ありがとうございます」
「はは、弟思いの優しいお兄さんなんですね」
「あ、すみません。弟の医大時代の話を殆ど聞いてなかったので、つい嬉しくなってしまいました」
翠兄さんが柔和に微笑めば、無骨な丹沢も何故か頬を赤らめる(おかしいからヤメロ! あとで流兄さんに私が殺される……!)
「丹沢、お前大丈夫か」
「い、いや……こんな優しいお兄さんなら、オレも欲しいなって」
場が和んだ所で、手術の方法や注意点などを分かりやすく説明した。
「では今日手術の予約をしますか」
「はい、お願いします」
「ご家族の同意は……って、張矢がするから問題ないのか」
「家族は、この件には同意してくれているので大丈夫です」
兄さんは手術と治療に、どこまでも前向きだった。
流兄さんと歩む道に……『迷い』はないようだ。
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