重なる月

志生帆 海

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14章

追憶の由比ヶ浜 53

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 紹介状の宛先を見て、驚愕した。

 これは一体どういう事だ? 

 私は……夢を見ているのか。





『張矢 丈先生 御侍史』



 
 いつもの光景だったので見落としていた。

 何も違和感がなかったから。

「兄さん……兄さんは海里先生に、私のことを話したのですか」
「え……うん、家族のことを聞かれたから……丈のことも話したと思うよ」
「紹介状の宛先は、私になっています。何故……?」

 そう告げると、流石の翠兄さんも目を見開いて、手紙を奪い取った。

 その時、何かメモが落ちた。

「どうして……海里先生が丈に? この頃の丈は……まだ研修医だったのに」
「まるでこの日が来るのを知っていたかのようで、不思議です」

 そうか……海里先生の名字は『森宮』だったのか。

『森宮海里』どこかで聞いたことがあると思ったが、火傷(熱傷)・ケロイド治療の名医だ。 国内外で再建手術を執刀し臨床経験を積んだエキスパートだ。

 兄さんの傷を治せるのは、海里先生自身だったのか。

 しかし……もう先生この世にいらっしゃらない。

 先生の腕には誰も敵わない。

 がっかりと肩を落とし、拾い上げたメモを手にして……再び驚愕した。

 ……

 翠くん、君の根の深い火傷痕を治してあげたかったが、すまない。時間切れだ。心残りなので、君の弟がいずれ立派な外科医になると見込んで、君のパターンの、火傷痕治療方法を極秘に伝授する。私もとても親しい人に手術痕や古傷に悩む人がいて、どうしても目立たなくしてあげたくて勉強したのだよ。ただ西洋以外だけでは、残念ながら最後まで皮膚を綺麗に出来なかった。これは西洋医学を学んだ医師が言うべきことではないが、私の身内の扱いに薬草の扱いに秀でた特殊な者がいる。彼らの寿命が尽きていないといいが、間に合うか分からないが……この手紙を見つけたら縁があったと思い、ぜひ訪ねて欲しい。術後のクリームを調合してくれるだろう。

 ……

「にっ、兄さん、この手紙を見て下さい!」
「何と?」
「この住所を」
「え……」

 東京都港区白金台……

「これって……洋くんのおばあさまの家と近い?」
「真向かいの洋を助けてくれた雪也さんの家です。ここに海里先生の言う薬草使いが?手術方法はだいたい掴めます。私が執刀します。兄さんの苦しみを手術で消し去るのは、私にさせて下さい」

 信じられない世界。
 信じられない繋がりだ。

 縁が縁を呼び、繋がっていく――

「僕も……丈……丈に頼みたい。海里先生はこうなると分かっていたのかな? 頼むよ……僕の大切な弟」

 
 

 
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