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14章
追憶の由比ヶ浜 48
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21時か、そろそろ消灯時間だな。
「兄さん、そろそろ眠ろう」
「え……そう?」
自戒しながら兄さんと呼ぶと、翠は少しだけつまらなそうな顔をした。
そんな顔、すんなよ! 必死に我慢しているんだからさ!
窓際の付き添い用ベッドを組み立てていると、病室に若い看護師がやってきた。
「張矢さん、お休み前の検温です♡」
「はい」
「あら? 弟さんもやっぱりお泊まりですか」
「はい……その……僕が大の病院嫌いで……お恥ずかしいです」
「いいえ、人それぞれですもの、どうか無理のないようにお過ごしくださいね♡」
「はい」
「
ゴシゴシ……
やはり♡が語尾についてねーか!
「何かありましたら、このナースコールで、(我らが白衣の天使を)お呼び出しを♡」
「は……はい」
しかもヘンな心の言葉まで聞こえる始末だ!
しかも待て待て! ナースコールを握らせながら、さり気なく俺の翠に触れただろ~‼
「では消灯しますね」
俺のことなんてお構いなしに、電灯が消えて真っ暗になった。
「流……もう暗くなってしまったね。じゃあ、お休み」
「あ、あぁ」
そっけないな、翠……。
まぁ……今日、何も出来なかったわけではない。ここは大人しく寝るか。
兄さんはそのまま眠ってしまったようだ。
俺だけ浮かれて馬鹿みたいだ。一緒の部屋に泊まれるだけでも有り難いのに、もっと触たいなんて贅沢なことを考えていた。
しかしなぁ……夜の9時から健康な俺が寝付けるはずもなく、むくりと起きて白い壁にもたれた。
「兄さん……」
「すい……」
もう寝てしまったのか。
俺はこんな夜を知っている。中学、高校と、よく壁にもたれて兄を恋い慕っていた。
夜な夜な……兄を想っていた。
触れたい、触れたい。
抱きしめたい、抱きしめたい。
兄さんの素肌に触れてみたい。その温度を全身で感じてみたい!
どうして実の兄にこのような切ない感情を抱くのか分からなくて、それでも思春期の熱に冒され……幻で兄を抱いてしまった時には唖然とした。
想いに名前が付いた瞬間だった。
愛してる――ことを認めた。
翠は一向に起きる気配がないので、俺も諦めて眠りについた。
それから……どの位寝ただろう?
ふと気配がしたので、薄めを開けると翠が立っていた。
正確には、俺のベッドのカーテンを開いて空を見上げていた。
細面の優美な顔が月明かりに照らされて、ぞくりとする程美しかった。
そのまま天に還ってしまうような恐ろしさに、思わず翠の細い手首を掴んでしまった。
「翠、行くな!」
「ん? おかしなことを言うんだな。僕がどこへ行くと?」
「ああ、すまん」
「流……月が綺麗だね」
翠……真夜中に艶めいた表情で言う台詞は、それか! 参ったな!
「あぁ、もう死んでもいい」
「流……ありがとう。なぁ……一緒に眠りたい」
「え……ここで?」
緩やかに首を振る。
さらりと色素の薄い細い髪が泳ぐ。
左目の下の泣きほくろが、誘っている。
「僕のベッドにおいでよ。一人寝は寂しいから」
「だが……ここは病院で……ここは……」
「くすっ。流がそんなに慎重になるなんて……それじゃあ僕みたいだよ」
「う、五月蠅いな!」
翠は切れ長の麗しい目を細め、口元を綻ばせ……俺を誘う。
常套句で……
「なぁ、流……駄目か」
出た!
「兄さん、そろそろ眠ろう」
「え……そう?」
自戒しながら兄さんと呼ぶと、翠は少しだけつまらなそうな顔をした。
そんな顔、すんなよ! 必死に我慢しているんだからさ!
窓際の付き添い用ベッドを組み立てていると、病室に若い看護師がやってきた。
「張矢さん、お休み前の検温です♡」
「はい」
「あら? 弟さんもやっぱりお泊まりですか」
「はい……その……僕が大の病院嫌いで……お恥ずかしいです」
「いいえ、人それぞれですもの、どうか無理のないようにお過ごしくださいね♡」
「はい」
「
ゴシゴシ……
やはり♡が語尾についてねーか!
「何かありましたら、このナースコールで、(我らが白衣の天使を)お呼び出しを♡」
「は……はい」
しかもヘンな心の言葉まで聞こえる始末だ!
しかも待て待て! ナースコールを握らせながら、さり気なく俺の翠に触れただろ~‼
「では消灯しますね」
俺のことなんてお構いなしに、電灯が消えて真っ暗になった。
「流……もう暗くなってしまったね。じゃあ、お休み」
「あ、あぁ」
そっけないな、翠……。
まぁ……今日、何も出来なかったわけではない。ここは大人しく寝るか。
兄さんはそのまま眠ってしまったようだ。
俺だけ浮かれて馬鹿みたいだ。一緒の部屋に泊まれるだけでも有り難いのに、もっと触たいなんて贅沢なことを考えていた。
しかしなぁ……夜の9時から健康な俺が寝付けるはずもなく、むくりと起きて白い壁にもたれた。
「兄さん……」
「すい……」
もう寝てしまったのか。
俺はこんな夜を知っている。中学、高校と、よく壁にもたれて兄を恋い慕っていた。
夜な夜な……兄を想っていた。
触れたい、触れたい。
抱きしめたい、抱きしめたい。
兄さんの素肌に触れてみたい。その温度を全身で感じてみたい!
どうして実の兄にこのような切ない感情を抱くのか分からなくて、それでも思春期の熱に冒され……幻で兄を抱いてしまった時には唖然とした。
想いに名前が付いた瞬間だった。
愛してる――ことを認めた。
翠は一向に起きる気配がないので、俺も諦めて眠りについた。
それから……どの位寝ただろう?
ふと気配がしたので、薄めを開けると翠が立っていた。
正確には、俺のベッドのカーテンを開いて空を見上げていた。
細面の優美な顔が月明かりに照らされて、ぞくりとする程美しかった。
そのまま天に還ってしまうような恐ろしさに、思わず翠の細い手首を掴んでしまった。
「翠、行くな!」
「ん? おかしなことを言うんだな。僕がどこへ行くと?」
「ああ、すまん」
「流……月が綺麗だね」
翠……真夜中に艶めいた表情で言う台詞は、それか! 参ったな!
「あぁ、もう死んでもいい」
「流……ありがとう。なぁ……一緒に眠りたい」
「え……ここで?」
緩やかに首を振る。
さらりと色素の薄い細い髪が泳ぐ。
左目の下の泣きほくろが、誘っている。
「僕のベッドにおいでよ。一人寝は寂しいから」
「だが……ここは病院で……ここは……」
「くすっ。流がそんなに慎重になるなんて……それじゃあ僕みたいだよ」
「う、五月蠅いな!」
翠は切れ長の麗しい目を細め、口元を綻ばせ……俺を誘う。
常套句で……
「なぁ、流……駄目か」
出た!
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