重なる月

志生帆 海

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14章

追憶の由比ヶ浜 47

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 病院で翠兄さんと流兄さんに散々あてられたので、洋の人肌が恋しくなってしまった。

 今宵は暖めて欲しい。
 私自身を――

 だからわざと拗ねるように「なぁ駄目か」と連呼して彼の退路を防ぐと、意外にも素直にワンピースを着てくれた。

  淡いベージュのふんわりとしたワンピースに、着替えた可憐な洋を再び見られるのだ。そう脳内で妖しく想像すれば、そのままベッドに押し倒したくなっていた。

 そんな情欲に塗れていたはずなのに……何故だ?
 
 私の口から出たのは、驚いたことに洋の亡き母への改まった挨拶だった。

 以前、洋が住んでいた家で、夕さんの写真を見た。

 あの日の洋は、私を写真の中の母親に紹介してくれたのだ。

『母さん、丈を連れてきた。俺の恋人だよ』
『洋、私を紹介してくれるのか』
『ん、墓の前では紹介したけれども、こっちの方が母さんに近い気がするよ』
 
 洋の実家の鏡台には、一枚の写真が飾ってあった。

 古びてセピア色になっていたが、幼い洋とワンピース姿の母親が並んで写っていた。洋の幼い頃の写真を見るのは初めてで、私も感極まってしまった。

  そして……今、目の前にいる洋はまるで写真の中から抜け出してきた母親のようだ。

 ベージュ色のワンピースが、セピア色に変色した写真と重なった。

 洋の母親だ……。
 きちんと挨拶したい。
 洋は……私と生涯の愛を誓った人だから。

 私が挨拶すのは、洋も予期していなかったようで、目を大きく見開いて、そのままはらりと涙を流した。

「泣かせるつもりはなかったのだが」
「丈は、ずるい!」

 洋は泣きながら笑っていた。

 心の中の母が喜んでいると、涙にまみれて笑っていた。

 そんな洋を横抱きにして、ベッドに落とした。

「お母さんに挨拶した……だから、いいか」

 抱いてもいいか。君の中に私を迎えてくれるか。

「いいよ、丈……俺もお前に早く抱かれたい」

 洋がワンピースを脱ごうとしたので優しく制止し……私の指で背中のファスナーをスッと一直線に下げた。

 割れ目から……洋のきめ細かい白い背中が見えてくる。

 美しい肩甲骨、続いて細い腰が徐々に現れる。

 両手を脇下から差し入れて私の胸元に深く抱き寄せる。

 両胸の小さな尖りに指先を絡めて……器用に動かしては、熱心に平らな胸を揉み込んでやる。

「ああ、あ……っ」
「気持ちいいか」
「や……丈……変になる」
「可愛いよ」

 未だワンピースは完全に脱げておらす、腰に引っかかったままだ。

 母を彷彿させる姿のまま抱くのは忍びなく、私はワンピースを引き降ろし、洋を裸に剥いた。

 洋の方は、ワンピース姿のまま抱かれると覚悟していたようで、意外そうだった。

「丈、脱いで……いいのか」
「あぁ……私が好きなのは男性の洋だから問題ない」

 平らな胸、私と同じ性器を持つ男の洋を抱く。

 それが私を奮い立たせる喜びだから。

 そのまま布団に押し倒し、ツンと立ち上がる乳首をゴッドハンドと今日も呼ばれた指先で丹念に弄っていく。強弱をつけて、引っぱったり捩ったり……リズミカルに揉み込んだりしてやると、洋は真っ赤な顔で涙を浮かべ……艶めき、喘いだ。

 そのまま顔をずらして、緩やかに立ち上がる股間の小ぶりなものを口に咥えると、洋は逃げを打つように身を捩り悶えた。

「あ……あ、うっ」
「いつもより感じているな」
「……白衣の丈を見たからかな……お前の働く姿が凜々しくて、眩しくて……こうしてもらうの……待ち遠しかった」
「洋……」

 こんなに美しい恋人から最上の言葉を受け取り、私は俄然やる気になった。

 ひとつにつながり貫いたまま腰を揺らせば、洋の腰も同じように揺れる。
 
  洋が既に放った白濁のぬめりが、私たちの腹で透明の膜となり広がっていく。

 細い腰を掴み、細い足首を掴み、大きく左右に開かせる。

 全部私のものだという征服心を抱くのに、洋の中に入れば……その温もりに幼子のように泣きたくなった。

 強弱をつけて、抱いて抱かれる。

 月は、その形を夜な夜な変えていく。
 私たちは一晩の情事で、体位を幾度も変えていく。

 深く強く熱く繋がっていく。

 いつになく激しい夜だった。

 洋の母の面影に触れ、洋を一層愛おしく抱いた夜だった。

 追憶のあとに溢れるのは、生きている喜びだから。
 
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