1,244 / 1,657
14章
追憶の由比ヶ浜 46
しおりを挟む
「丈、実は由比ヶ浜の別荘で、これを見つけたんだ」
「なんだ?」
「うん、どうやら海里先生が翠さんに書いた手紙のようだ」
「何が書いてあるのだろう?」
「明日、朝一番に翠さん確かめて欲しい。封がしてあるので、俺たちが開封するわけにはいかないよな」
「そうだな。分かった、兄さんに読んでもらうよ。そうか、もしかしたら紹介状かもしれないな」
丈が手紙を見つめながら、呟いた。
火傷痕を治したいという翠さんの気持ちを、きっと海里先生は気付いていたのだと確信している。
もしかしたら、この手紙によって道が開けるかもしれない。
「洋、この手紙をありがとう。不思議だな、このタイミングで」
「あぁ、俺もそう思う。俺が丈と出逢い結ばれ、月影寺にやってきて、祖母を訪ね……パズルのピースがぴたりと当てはまった気分だ」
「私もそう思うよ。やはり私の家族に、洋は無くてはならない存在なのだ。ありがとう」
離れに戻り、手を洗っていると、丈に後から抱きしめられた。
「丈……俺、今日は潮まみれだ。シャワー浴びてからな」
「ん? 味見して欲しいのか。塩味かもな」
「そんなこと言ってない!」
「そうだ……洋、今日のワンピース……」
ギクリとした。あんな格好で病院に行ったこと怒られる?
目を合わせられなくて、顔を背けてしまった。
「どこにやった? あのワンピース」
「あれならカバンに入れたままだ」
「持っておいで。きちんと洗濯しないと駄目だろう」
「あ、そうだね。分かった」
なんだ……怒らないのか。
ほっと胸を撫で下ろした。
ベージュのふわふわなワンピースは、お母さんの物だから綺麗に洗って返さないとな。
「丈、これだよ。このまま洗濯機に入れていいか」
「いや、もう一度着て欲しい」
「へっ?」
また無理難題を!
「丈には、さっき着せて見せただろう?」
「病院だったからよく見てない」
「そんなぁ……」
恥ずかしいんだよ!
白江さんとお母さんに勢いで着せられたものの、今になって恥ずかしさが増してくる。
「可愛かったんだ」
「よせ」
「なぁ……洋、駄目か」
あぁぁ狡い。その台詞はよせ。
「何もしないよ。母さんのワンピースだろ。それ」
「そうだよ」
「だから洗う前に一度だけ、なぁ駄目か」
も、もう――その台詞は俺と翠さんのものなのに。
「仕方が無いな。い、一度だけだぞ。一瞬だけだぞ」
「洋、優しいな」
今日は病院で散々翠さんと流さんにあてられただろうし、俺も祖母と密な時間を過ごしていたので……丈にもご褒美が必要か。
「着替えは見られたくない。目を瞑っていてくれ」
「あぁ」
流石に女物のワンピースに着替えるのを見られるのは、恥ずかしい。
まさか一日に二度着ることになるとはな。
「ど、どうだ?」
「可愛いな。洋のお母さんって、そんな感じだったのか」
「あぁ似ていると思うよ。祖母もそう言っていたから」
「そうか。じゃあ……今度は洋が目を瞑れ」
「うん?」
静かな間。
やがて丈の声が響く。
その声は俺に向けられたものではなく……
「夕さん、改めまして。私が丈です。私が洋の生涯の伴侶です。あなたの心残りを全部救って彼を幸せにしますので、どうかご安心下さい。生前にお会い出来ず残念でしたが、洋を通して今日会えて、あなたに誓えて嬉しいです。洋を幸せにします。力を合わせて生きていきます」
力強い低い声に、ほろりと涙が溢れてしまった。
「丈、ずるい……そんな台詞……」
「嫌だったか」
「嫌なはずない! 俺の中の母が微笑んでいる! 喜んでいる!」
分かるんだ。
血潮が熱くなった。
(洋、よかったわ。あなたを愛してくれる人がいるのね。頼もしい彼……海里先生みたいにステキよ)
(お母さん……!)
溜らずに……俺の方から丈に駆け寄り、抱きついてしまった。
「丈……俺、お前が大好きだ!」
何度でも告白しよう。
初恋の君に――
「なんだ?」
「うん、どうやら海里先生が翠さんに書いた手紙のようだ」
「何が書いてあるのだろう?」
「明日、朝一番に翠さん確かめて欲しい。封がしてあるので、俺たちが開封するわけにはいかないよな」
「そうだな。分かった、兄さんに読んでもらうよ。そうか、もしかしたら紹介状かもしれないな」
丈が手紙を見つめながら、呟いた。
火傷痕を治したいという翠さんの気持ちを、きっと海里先生は気付いていたのだと確信している。
もしかしたら、この手紙によって道が開けるかもしれない。
「洋、この手紙をありがとう。不思議だな、このタイミングで」
「あぁ、俺もそう思う。俺が丈と出逢い結ばれ、月影寺にやってきて、祖母を訪ね……パズルのピースがぴたりと当てはまった気分だ」
「私もそう思うよ。やはり私の家族に、洋は無くてはならない存在なのだ。ありがとう」
離れに戻り、手を洗っていると、丈に後から抱きしめられた。
「丈……俺、今日は潮まみれだ。シャワー浴びてからな」
「ん? 味見して欲しいのか。塩味かもな」
「そんなこと言ってない!」
「そうだ……洋、今日のワンピース……」
ギクリとした。あんな格好で病院に行ったこと怒られる?
目を合わせられなくて、顔を背けてしまった。
「どこにやった? あのワンピース」
「あれならカバンに入れたままだ」
「持っておいで。きちんと洗濯しないと駄目だろう」
「あ、そうだね。分かった」
なんだ……怒らないのか。
ほっと胸を撫で下ろした。
ベージュのふわふわなワンピースは、お母さんの物だから綺麗に洗って返さないとな。
「丈、これだよ。このまま洗濯機に入れていいか」
「いや、もう一度着て欲しい」
「へっ?」
また無理難題を!
「丈には、さっき着せて見せただろう?」
「病院だったからよく見てない」
「そんなぁ……」
恥ずかしいんだよ!
白江さんとお母さんに勢いで着せられたものの、今になって恥ずかしさが増してくる。
「可愛かったんだ」
「よせ」
「なぁ……洋、駄目か」
あぁぁ狡い。その台詞はよせ。
「何もしないよ。母さんのワンピースだろ。それ」
「そうだよ」
「だから洗う前に一度だけ、なぁ駄目か」
も、もう――その台詞は俺と翠さんのものなのに。
「仕方が無いな。い、一度だけだぞ。一瞬だけだぞ」
「洋、優しいな」
今日は病院で散々翠さんと流さんにあてられただろうし、俺も祖母と密な時間を過ごしていたので……丈にもご褒美が必要か。
「着替えは見られたくない。目を瞑っていてくれ」
「あぁ」
流石に女物のワンピースに着替えるのを見られるのは、恥ずかしい。
まさか一日に二度着ることになるとはな。
「ど、どうだ?」
「可愛いな。洋のお母さんって、そんな感じだったのか」
「あぁ似ていると思うよ。祖母もそう言っていたから」
「そうか。じゃあ……今度は洋が目を瞑れ」
「うん?」
静かな間。
やがて丈の声が響く。
その声は俺に向けられたものではなく……
「夕さん、改めまして。私が丈です。私が洋の生涯の伴侶です。あなたの心残りを全部救って彼を幸せにしますので、どうかご安心下さい。生前にお会い出来ず残念でしたが、洋を通して今日会えて、あなたに誓えて嬉しいです。洋を幸せにします。力を合わせて生きていきます」
力強い低い声に、ほろりと涙が溢れてしまった。
「丈、ずるい……そんな台詞……」
「嫌だったか」
「嫌なはずない! 俺の中の母が微笑んでいる! 喜んでいる!」
分かるんだ。
血潮が熱くなった。
(洋、よかったわ。あなたを愛してくれる人がいるのね。頼もしい彼……海里先生みたいにステキよ)
(お母さん……!)
溜らずに……俺の方から丈に駆け寄り、抱きついてしまった。
「丈……俺、お前が大好きだ!」
何度でも告白しよう。
初恋の君に――
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説



好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる