重なる月

志生帆 海

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14章

追憶の由比ヶ浜 28

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 翠とは……何度も角度を変え、唇を重ねた。

 おっと流石にそろそろまずいか。恋人同士のキスは終わらせないとな。

 名残惜しさが込み上げる中、離れようとした時、翠の手がグイッと俺の作務衣の袖を引っぱった。

「……もっと」
「もっと?」

 いくら個室とはいえ入院中の病室でキスをするなんて、普段の翠なら絶対に許してくれない行為なのに、今日はおねだりまで? 最高だな!

「もちろん、いいぜ!」

 だから調子に乗って翠をベッドに押し倒し、キスを深めた。舌を差し込んで口腔内も蹂躙し、薄くて淡い桜貝のような唇をきつく吸い上げてやった。

「ん……」

 翠も抵抗せず仰向けのまま目を閉じて……身を委ねてくれる。

 可愛い……従順な翠もいい。

 パジャマの裾から手を入れ小さな突起を見つけ出し、指先でしつこい程丁寧に撫でてやる。

「ふっ……うっ……ん」

 色っぽい声が、脳天を直撃してくる。

 参ったな……キスだけのつもりが止まらない。

 夢中になって唇を吸いながら乳首を攻めていると、翠に背中をドンドンっと叩かれた。

「なんだ? もっとか」
「ば、馬鹿……も……う駄目だ」
 
  はっと我に返れば、目元を赤く染めた翠が、唇を濡らして震えていた。パジャマは胸までまくれ上がり、白い肌に充血したような乳首が丸見えで、なんともエロい。

「悪い。忘れられないキスにしようと頑張ったんだ」
「馬鹿……が、頑張りすぎだ!」

 明らかに動揺し照れまくる翠に悶絶していると、扉をノックされた。

「張矢翠さん? あのぉ~入りますよ」
「あ……っ、は……い!」

 俺はすぐさま翠の唇を作務衣の袖で拭って、パジャマを整えてやった。

 その次のタイミングで、クリームイエローのカーテンがシャッと開いたので間一髪だった。

「あら? 面会中でしたか」
「あ……弟が来ていたので」
「まぁ、弟さん? タイプが違いますね」
「ははっ、よく言われます。兄のことをよろしくお願いします」
「はい! モチロンお任せ下さい♡」

 ♡~♡~♪

 ん? 今♡がふわふわと飛んだ気がしたが、目の錯覚だよな? 

「あら? 顔が熱いですね。熱でも? 体温計で測ってみましょう」
「あ……はい」

 先ほどまでのキスの雨で濡れそぼっていた翠の唇は乾いていても、色気を孕んだままだった。おまけに目元が赤く染まって艶めいていた。

 翠、おいっ、早くクールダウンしろよ。

 翠は恨みがましく俺を見ていたが、翠が言い出したことだぜと素知らぬふりをした。

「あら? さっきより血圧も高いですね。それに心拍数も随分あがって」

 それはそうだ! さっきまでかなり興奮していたからな。

「何か直前まで激しい運動していたのですか」

 お! 鋭いな、それ図星だぜ!

 俺が窓辺でニヤリと笑うと、翠に目で制された。

 目元を手で覆い、もう片方の手で外に出て行くよう促している。

 ハイハイ、兄さんモード発動ですな。

「と、特にしていません。入院になれなくて検査前で緊張しているだけです」

 翠が気を取り直してそう言えば、看護師はキラキラと目を輝かす。

「大丈夫ですよ、そんなに緊張されなくても。全部私達が手取り足取りサポートしますから♡」

 ♡~♡♪

 ハートはいらんだろ! と突っ込みたくなったが、グッと我慢した。

 それにしても翠は、どうして布団の中で膝を立てている?

「では、あと15分後にまた来ますね。それまで検査のため採尿をお願いします。個室のトイレを使って、紙コップは中の棚に置いておいて下さいね」
「は……はい」

 もぞもぞと気まずそうに目元を染めて身動ぐ翠。

 もしかして、もしかして……

 先ほどのキスで勃ったのか‼

 看護師が出て行ったので、窓辺に立っていた俺はワクワクした顔で翠に近づいた。

「翠、なぁ手伝ってやろうか。採尿のついでにさ」
「ば、馬鹿‼ りゅ、流、自分のも見て見ろ!」
「へ? おおぉ~」


 作務衣の上衣に隠れて目立たんが……

 翠が勃てば、俺も勃つ。

 当たり前の法則だったな。
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