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14章
追憶の由比ヶ浜 25
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「洋、お兄さんに会えて良かったわね」
「はい」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
おいおい、今度はどこに行くのだ?
今日の洋は破天荒過ぎるぞ。
私の激しい動揺が伝わったのか、洋に憐れみの目で見つめられてしまった。
「あの、お祖母様、少し丈と話しても? この事情を説明しないと」
「もちろんよ。私は翠さんとお話しているから、どうぞいってらっしゃい」
白江さんは、こんな性格だったのか。
しかし翠兄さんのパワーは衰えを知らないようだ。まさか白江さんまで虜にしてしまうとは!
「すみません。ではお言葉に甘えて少し借ります。洋、いいか」
「あぁ」
私は病室からほど近い、患者さんに治療を説明するための面談室に洋を連れ込んだ。正確に言うと変な目で見られないように、丁重に中に入るように促した。
「どうぞ」
『使用中』の札をかけて、しっかり扉を閉める。
「洋……」
「丈、そう怒るなって、これには深いわけというか……事情があって」
気まずそうな洋の顔。女性物のワンピースを着て、つばの広い帽子を被っているとちゃんと女性に見えるのだから、洋の中性的な美貌は相変わらず凄いな。
「洋……そんなに刺激的な姿で現れるなんて驚いたぞ。かえって目立つだろうが」
「う……俺だって最初は丁重に断ったさ。だが白江さんと丈のお母さんが『目立つから行ってはいけないのなら、変装したらいいわ』と意気投合して盛り上がって、この有様だよ」
洋は開き直ったのか、ワンピースの裾を掴んで首を傾げて微笑む。
「なぁ丈、どうだ? さっき俺に見惚れてなかったか」
それは最高に可愛いさ。いつものクルービューティーな雰囲気とは打って変わって、可憐な雰囲気なんだ。
まずい……冷静になれ、丈。
お前は今、勤務中だろう。白衣を着ているのだ。
だが我慢できずに洋を抱きしめてしまった。
「あ……おい、よせ」
「洋、狡いな。何故そんなにワンピースが似合うんだ?」
「やっぱり? 俺も母さんみたいだと思ったよ。あぁ……本当に母親似なんだなって」
「そうだな。洋は洋だが、なんだか無性に可愛くて困っている」
「ふっ、丈にはすぐに見破られたけれどもな。あ、翠さんにもだ。皆……俺がどんな姿でも、ぶれずに俺自身を見てくれて嬉しいよ、月影寺の人は物事の本質を見てくれるから好きだ」
帽子を取っても少し長めの髪型の洋には、ワンピースがちゃんと似合っていた。
「この姿、また見せてくれないか」
「う……それは困る。そうだ、思いだしたけど、丈のお母さんの書いた本をもらったんだ。そしたら白江さんが妙に喜んでいたよ。あれは有名な……分野なのか。あとで読んでみるよ」
「だ、ダメだ!!」
洋がモデルになっていたらと、案じている。いや、もしかしたら俺たち、とっくに餌食になっているかも? ぞぞぞと寒気が!
「はは、そんなにまずいのか。あっ、もしかして18禁か」
「ご、ゴホッ、それで今からどこに行くのだ?」
「うん、翠さんのお見舞いも出来たし、お祖母様とドライブしようと思って……由比ヶ浜まで案内しようと思っている」
「そうか。それはいいな、白江さんも行ってみたいと思っていたのだろう。だからいらしたのだろうし、孝行しておいで」
「ん……丈とも行きたいよ。なぁ……せんせ、いつならお暇ですか」
甘い笑みで誘われて、目眩がしそうだ。
「コイツっ!」
明るくなったな洋。
ふざけたりおどけたり、本来の洋はもっとあどけないく子供っぽいのかもしれないと思わせる行動ばかり。
まだまだ私は新しい洋に振り回されていくだろう。それが楽しみだ。
「楽しんでおいで」
「はい、せんせ」
洋を抱きしめて、額にキスをした。
「え? なんでそこ?」
少し不満げに見上げる、黒曜石の瞳。
憂いのある涼しげな目元に魅了されている。
「ふっ、じゃあどこが良かったんだ?」
「丈は、意地悪だな」
「仕事中だから節操なくなったら困るだろう。お前の唇は甘すぎる」
洋の綺麗なカタチの唇を、意味深に指の腹で撫でてから、外に誘導した。
洋は少し耳を赤くして、慌ててさっきの帽子を目深に被った。
「うっ、やっぱり……ゴッドハンドだな」
「はい」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
おいおい、今度はどこに行くのだ?
今日の洋は破天荒過ぎるぞ。
私の激しい動揺が伝わったのか、洋に憐れみの目で見つめられてしまった。
「あの、お祖母様、少し丈と話しても? この事情を説明しないと」
「もちろんよ。私は翠さんとお話しているから、どうぞいってらっしゃい」
白江さんは、こんな性格だったのか。
しかし翠兄さんのパワーは衰えを知らないようだ。まさか白江さんまで虜にしてしまうとは!
「すみません。ではお言葉に甘えて少し借ります。洋、いいか」
「あぁ」
私は病室からほど近い、患者さんに治療を説明するための面談室に洋を連れ込んだ。正確に言うと変な目で見られないように、丁重に中に入るように促した。
「どうぞ」
『使用中』の札をかけて、しっかり扉を閉める。
「洋……」
「丈、そう怒るなって、これには深いわけというか……事情があって」
気まずそうな洋の顔。女性物のワンピースを着て、つばの広い帽子を被っているとちゃんと女性に見えるのだから、洋の中性的な美貌は相変わらず凄いな。
「洋……そんなに刺激的な姿で現れるなんて驚いたぞ。かえって目立つだろうが」
「う……俺だって最初は丁重に断ったさ。だが白江さんと丈のお母さんが『目立つから行ってはいけないのなら、変装したらいいわ』と意気投合して盛り上がって、この有様だよ」
洋は開き直ったのか、ワンピースの裾を掴んで首を傾げて微笑む。
「なぁ丈、どうだ? さっき俺に見惚れてなかったか」
それは最高に可愛いさ。いつものクルービューティーな雰囲気とは打って変わって、可憐な雰囲気なんだ。
まずい……冷静になれ、丈。
お前は今、勤務中だろう。白衣を着ているのだ。
だが我慢できずに洋を抱きしめてしまった。
「あ……おい、よせ」
「洋、狡いな。何故そんなにワンピースが似合うんだ?」
「やっぱり? 俺も母さんみたいだと思ったよ。あぁ……本当に母親似なんだなって」
「そうだな。洋は洋だが、なんだか無性に可愛くて困っている」
「ふっ、丈にはすぐに見破られたけれどもな。あ、翠さんにもだ。皆……俺がどんな姿でも、ぶれずに俺自身を見てくれて嬉しいよ、月影寺の人は物事の本質を見てくれるから好きだ」
帽子を取っても少し長めの髪型の洋には、ワンピースがちゃんと似合っていた。
「この姿、また見せてくれないか」
「う……それは困る。そうだ、思いだしたけど、丈のお母さんの書いた本をもらったんだ。そしたら白江さんが妙に喜んでいたよ。あれは有名な……分野なのか。あとで読んでみるよ」
「だ、ダメだ!!」
洋がモデルになっていたらと、案じている。いや、もしかしたら俺たち、とっくに餌食になっているかも? ぞぞぞと寒気が!
「はは、そんなにまずいのか。あっ、もしかして18禁か」
「ご、ゴホッ、それで今からどこに行くのだ?」
「うん、翠さんのお見舞いも出来たし、お祖母様とドライブしようと思って……由比ヶ浜まで案内しようと思っている」
「そうか。それはいいな、白江さんも行ってみたいと思っていたのだろう。だからいらしたのだろうし、孝行しておいで」
「ん……丈とも行きたいよ。なぁ……せんせ、いつならお暇ですか」
甘い笑みで誘われて、目眩がしそうだ。
「コイツっ!」
明るくなったな洋。
ふざけたりおどけたり、本来の洋はもっとあどけないく子供っぽいのかもしれないと思わせる行動ばかり。
まだまだ私は新しい洋に振り回されていくだろう。それが楽しみだ。
「楽しんでおいで」
「はい、せんせ」
洋を抱きしめて、額にキスをした。
「え? なんでそこ?」
少し不満げに見上げる、黒曜石の瞳。
憂いのある涼しげな目元に魅了されている。
「ふっ、じゃあどこが良かったんだ?」
「丈は、意地悪だな」
「仕事中だから節操なくなったら困るだろう。お前の唇は甘すぎる」
洋の綺麗なカタチの唇を、意味深に指の腹で撫でてから、外に誘導した。
洋は少し耳を赤くして、慌ててさっきの帽子を目深に被った。
「うっ、やっぱり……ゴッドハンドだな」
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