1,223 / 1,657
14章
追憶の由比ヶ浜 25
しおりを挟む
「洋、お兄さんに会えて良かったわね」
「はい」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
おいおい、今度はどこに行くのだ?
今日の洋は破天荒過ぎるぞ。
私の激しい動揺が伝わったのか、洋に憐れみの目で見つめられてしまった。
「あの、お祖母様、少し丈と話しても? この事情を説明しないと」
「もちろんよ。私は翠さんとお話しているから、どうぞいってらっしゃい」
白江さんは、こんな性格だったのか。
しかし翠兄さんのパワーは衰えを知らないようだ。まさか白江さんまで虜にしてしまうとは!
「すみません。ではお言葉に甘えて少し借ります。洋、いいか」
「あぁ」
私は病室からほど近い、患者さんに治療を説明するための面談室に洋を連れ込んだ。正確に言うと変な目で見られないように、丁重に中に入るように促した。
「どうぞ」
『使用中』の札をかけて、しっかり扉を閉める。
「洋……」
「丈、そう怒るなって、これには深いわけというか……事情があって」
気まずそうな洋の顔。女性物のワンピースを着て、つばの広い帽子を被っているとちゃんと女性に見えるのだから、洋の中性的な美貌は相変わらず凄いな。
「洋……そんなに刺激的な姿で現れるなんて驚いたぞ。かえって目立つだろうが」
「う……俺だって最初は丁重に断ったさ。だが白江さんと丈のお母さんが『目立つから行ってはいけないのなら、変装したらいいわ』と意気投合して盛り上がって、この有様だよ」
洋は開き直ったのか、ワンピースの裾を掴んで首を傾げて微笑む。
「なぁ丈、どうだ? さっき俺に見惚れてなかったか」
それは最高に可愛いさ。いつものクルービューティーな雰囲気とは打って変わって、可憐な雰囲気なんだ。
まずい……冷静になれ、丈。
お前は今、勤務中だろう。白衣を着ているのだ。
だが我慢できずに洋を抱きしめてしまった。
「あ……おい、よせ」
「洋、狡いな。何故そんなにワンピースが似合うんだ?」
「やっぱり? 俺も母さんみたいだと思ったよ。あぁ……本当に母親似なんだなって」
「そうだな。洋は洋だが、なんだか無性に可愛くて困っている」
「ふっ、丈にはすぐに見破られたけれどもな。あ、翠さんにもだ。皆……俺がどんな姿でも、ぶれずに俺自身を見てくれて嬉しいよ、月影寺の人は物事の本質を見てくれるから好きだ」
帽子を取っても少し長めの髪型の洋には、ワンピースがちゃんと似合っていた。
「この姿、また見せてくれないか」
「う……それは困る。そうだ、思いだしたけど、丈のお母さんの書いた本をもらったんだ。そしたら白江さんが妙に喜んでいたよ。あれは有名な……分野なのか。あとで読んでみるよ」
「だ、ダメだ!!」
洋がモデルになっていたらと、案じている。いや、もしかしたら俺たち、とっくに餌食になっているかも? ぞぞぞと寒気が!
「はは、そんなにまずいのか。あっ、もしかして18禁か」
「ご、ゴホッ、それで今からどこに行くのだ?」
「うん、翠さんのお見舞いも出来たし、お祖母様とドライブしようと思って……由比ヶ浜まで案内しようと思っている」
「そうか。それはいいな、白江さんも行ってみたいと思っていたのだろう。だからいらしたのだろうし、孝行しておいで」
「ん……丈とも行きたいよ。なぁ……せんせ、いつならお暇ですか」
甘い笑みで誘われて、目眩がしそうだ。
「コイツっ!」
明るくなったな洋。
ふざけたりおどけたり、本来の洋はもっとあどけないく子供っぽいのかもしれないと思わせる行動ばかり。
まだまだ私は新しい洋に振り回されていくだろう。それが楽しみだ。
「楽しんでおいで」
「はい、せんせ」
洋を抱きしめて、額にキスをした。
「え? なんでそこ?」
少し不満げに見上げる、黒曜石の瞳。
憂いのある涼しげな目元に魅了されている。
「ふっ、じゃあどこが良かったんだ?」
「丈は、意地悪だな」
「仕事中だから節操なくなったら困るだろう。お前の唇は甘すぎる」
洋の綺麗なカタチの唇を、意味深に指の腹で撫でてから、外に誘導した。
洋は少し耳を赤くして、慌ててさっきの帽子を目深に被った。
「うっ、やっぱり……ゴッドハンドだな」
「はい」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
おいおい、今度はどこに行くのだ?
今日の洋は破天荒過ぎるぞ。
私の激しい動揺が伝わったのか、洋に憐れみの目で見つめられてしまった。
「あの、お祖母様、少し丈と話しても? この事情を説明しないと」
「もちろんよ。私は翠さんとお話しているから、どうぞいってらっしゃい」
白江さんは、こんな性格だったのか。
しかし翠兄さんのパワーは衰えを知らないようだ。まさか白江さんまで虜にしてしまうとは!
「すみません。ではお言葉に甘えて少し借ります。洋、いいか」
「あぁ」
私は病室からほど近い、患者さんに治療を説明するための面談室に洋を連れ込んだ。正確に言うと変な目で見られないように、丁重に中に入るように促した。
「どうぞ」
『使用中』の札をかけて、しっかり扉を閉める。
「洋……」
「丈、そう怒るなって、これには深いわけというか……事情があって」
気まずそうな洋の顔。女性物のワンピースを着て、つばの広い帽子を被っているとちゃんと女性に見えるのだから、洋の中性的な美貌は相変わらず凄いな。
「洋……そんなに刺激的な姿で現れるなんて驚いたぞ。かえって目立つだろうが」
「う……俺だって最初は丁重に断ったさ。だが白江さんと丈のお母さんが『目立つから行ってはいけないのなら、変装したらいいわ』と意気投合して盛り上がって、この有様だよ」
洋は開き直ったのか、ワンピースの裾を掴んで首を傾げて微笑む。
「なぁ丈、どうだ? さっき俺に見惚れてなかったか」
それは最高に可愛いさ。いつものクルービューティーな雰囲気とは打って変わって、可憐な雰囲気なんだ。
まずい……冷静になれ、丈。
お前は今、勤務中だろう。白衣を着ているのだ。
だが我慢できずに洋を抱きしめてしまった。
「あ……おい、よせ」
「洋、狡いな。何故そんなにワンピースが似合うんだ?」
「やっぱり? 俺も母さんみたいだと思ったよ。あぁ……本当に母親似なんだなって」
「そうだな。洋は洋だが、なんだか無性に可愛くて困っている」
「ふっ、丈にはすぐに見破られたけれどもな。あ、翠さんにもだ。皆……俺がどんな姿でも、ぶれずに俺自身を見てくれて嬉しいよ、月影寺の人は物事の本質を見てくれるから好きだ」
帽子を取っても少し長めの髪型の洋には、ワンピースがちゃんと似合っていた。
「この姿、また見せてくれないか」
「う……それは困る。そうだ、思いだしたけど、丈のお母さんの書いた本をもらったんだ。そしたら白江さんが妙に喜んでいたよ。あれは有名な……分野なのか。あとで読んでみるよ」
「だ、ダメだ!!」
洋がモデルになっていたらと、案じている。いや、もしかしたら俺たち、とっくに餌食になっているかも? ぞぞぞと寒気が!
「はは、そんなにまずいのか。あっ、もしかして18禁か」
「ご、ゴホッ、それで今からどこに行くのだ?」
「うん、翠さんのお見舞いも出来たし、お祖母様とドライブしようと思って……由比ヶ浜まで案内しようと思っている」
「そうか。それはいいな、白江さんも行ってみたいと思っていたのだろう。だからいらしたのだろうし、孝行しておいで」
「ん……丈とも行きたいよ。なぁ……せんせ、いつならお暇ですか」
甘い笑みで誘われて、目眩がしそうだ。
「コイツっ!」
明るくなったな洋。
ふざけたりおどけたり、本来の洋はもっとあどけないく子供っぽいのかもしれないと思わせる行動ばかり。
まだまだ私は新しい洋に振り回されていくだろう。それが楽しみだ。
「楽しんでおいで」
「はい、せんせ」
洋を抱きしめて、額にキスをした。
「え? なんでそこ?」
少し不満げに見上げる、黒曜石の瞳。
憂いのある涼しげな目元に魅了されている。
「ふっ、じゃあどこが良かったんだ?」
「丈は、意地悪だな」
「仕事中だから節操なくなったら困るだろう。お前の唇は甘すぎる」
洋の綺麗なカタチの唇を、意味深に指の腹で撫でてから、外に誘導した。
洋は少し耳を赤くして、慌ててさっきの帽子を目深に被った。
「うっ、やっぱり……ゴッドハンドだな」
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる