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14章
追憶の由比ヶ浜 24
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「それにしても、よく似合ってるよ」
「う……それは……」
「うふふ、この子はとっても可愛いでしょう?」
「えぇ、それはもう」
女性の声にはどことなく聞き覚えがあった。
それよりも今の声って……まさか……!
「すみませんが主治医です。失礼します」
気になってカーテンをめくると、驚いたことに翠兄さんの横に、洋の祖母、白江さんが立っていた。
そしてその横にもう一人ほっそりとした若い女性が立っていた。 誰だ? ミルクティー色のワンピースに大きな帽子を被っている。
「あ、丈……」
目を見開いたその顔と息を呑む声は、何故か私の大切な洋のものだった。
ん? 何かが変だ。
彼女の顔と声が、洋そっくり?
いや違う、彼女は洋だ。私が見間違えるはずがない。
ということは、着ているものが変なのだ!
「よ、洋、その姿は何だ?」
「お、落ち着け! ここで怒るなよ」
そのワンピース、どうしたのだ?
「まぁ丈さん、先日はどうもありがとう。なかなか洋が白金に来てくれないので私から月影寺に押しかけてしまったのよ。洋と和解出来たら急に元気が出て、若い頃に戻ったみたいにフットワークが軽くなってしまったのよ、ふふふ」
白金の屋敷で会ったときよりも、声がワントーン高く、少女のようだったのですぐに気付かなかったのだ。
とはいえ、話しながらも、つい……ちらちらと洋を目で追ってしまう。
よく見ると、よく似合っている。
なんだ、あの可愛い物体は?
ハロウィンのコスチュームとも違う、ナチュラルな女装姿が似合いすぎるとは、流石私の洋だ。
「一体どういう訳で? それより翠兄さんも……先ほど白江さんと顔見知りのような発言をしていたような」
どこから突っ込んでいいのか、軽いパニックだ。常に冷静沈着な私らしくない。
「うん……白江さんは、実は渋谷の寺に勤めていた時に、何度か写経の会にいらした事があるそうだ」
「え? そうだったのですか」
「そうなのよ。若くて美しいお坊さんがいたのに、急に姿が見えなくなってしまって残念だったのよ。それが、まぁ、まさか今日ここで出会えるなんて驚いたわ」
「僕こそ、まさか洋くんのお祖母様だとは。あの寺では特にゆっくり話したこともなかったのに、覚えていて下さって嬉しいです」
「『袖振り合うも多生の縁』というでしょう。道で人と袖を触れ合うような些細なことも、前世からの因縁によるものという諺《ことわざ》通り、きっとあなたも私も徳を積んでいたから、また出逢えたのね」
そうなのか。洋と私が深い縁で繋がっているのは自覚しているが、どうやら私と洋の周りにも、同じ事が言えるらしい。
現代人は昔ほど情も縁を大切にしなくなってきているが、私たちは違う。
ここに来ても尚……縁が縁を呼び、広がっていっている。とても不思議なことだが。
「事情は分かりました。兄にも縁があったとは。幾重にも重なって不思議な心地です。ですが、別の問題が……」
「あら、何かしら?」
いやいや洋の祖母も天然なのか。祖母公認で女装とは……洋が自らしたのか? まさか洋に密かな女装癖が?
「おい、丈、何を考えている? ちゃんと声に出して言えよ」
私の頭は柔軟に出来ていないので、またもやこんがらがってくる。
「洋、その格好は一体どうして?」
「そ、それはだな」
「ふふっ、私の孫はどんな姿でも可愛いでしょう。丈さんが家に洋だけ置いて行ってしまい寂しそうだったから、私が連れて来てあげたのよ」
「うう……丈、そういうことなんだ。怒るなよ。この格好には理由が。ノリノリだったのはご婦人方だし、そもそも丈が『悪目立ちするから来るな』なんて言うからだぞ」
「ご婦人方? あ、まさか」
そこで流兄さんが、成る程と言ってポンと膝を打った。
「いやぁぁ~ 洋くん、いや、洋ちゃん、そのワンピース、似合っているよ。そもそも、どこかで見たかと思ったら、母さんの若い頃のじゃないか」
やはり、母さんの……?
がっくしとうなだれた。
私の家族はどうなっているのだ! と叫びたくなる。
「おっと、俺は張矢家の次男、流です」
「まぁ~まぁまぁ、ここは色男だらけね。なんだか昔を彷彿するわ、私も若い頃、色男に囲まれていたのよ」
「へぇ! どんなタイプがいました?」
もう駄目だ。この手の会話は流兄さんに任せた。
「王子様のような海里先生と純粋な柊一さん。騎士のような英国人のアーサーさんに、ノーブルな執事の瑠衣さん。庭師のカップルも味があって素敵だったのよ。朴訥としたテツさんと、美人な桂人くんも目の保養だったわ」
「えっと……あの、それってもしかして皆さん、同性カップルですかね?」
「えぇ、だから私は洋と丈さんに対して免疫と理解があるのよ。たとえば、豪快なあなたと楚々としたお兄さんがもしもカップルでも、絶対に動じないわ。このパターンは王道でお似合いよね。あら、ごめんなさい。調子に乗って……」
なんと大胆な発言だ。しかし秘め事を抱える兄たちにとっては嬉しい言葉だったに違いない。
それにしても、妙に母さんと気が合いそうでゾクッとする。
「そういえば、あなたたちのお母様って……あの有名な」
既に、そこまで知っているのか!!
「う……それは……」
「うふふ、この子はとっても可愛いでしょう?」
「えぇ、それはもう」
女性の声にはどことなく聞き覚えがあった。
それよりも今の声って……まさか……!
「すみませんが主治医です。失礼します」
気になってカーテンをめくると、驚いたことに翠兄さんの横に、洋の祖母、白江さんが立っていた。
そしてその横にもう一人ほっそりとした若い女性が立っていた。 誰だ? ミルクティー色のワンピースに大きな帽子を被っている。
「あ、丈……」
目を見開いたその顔と息を呑む声は、何故か私の大切な洋のものだった。
ん? 何かが変だ。
彼女の顔と声が、洋そっくり?
いや違う、彼女は洋だ。私が見間違えるはずがない。
ということは、着ているものが変なのだ!
「よ、洋、その姿は何だ?」
「お、落ち着け! ここで怒るなよ」
そのワンピース、どうしたのだ?
「まぁ丈さん、先日はどうもありがとう。なかなか洋が白金に来てくれないので私から月影寺に押しかけてしまったのよ。洋と和解出来たら急に元気が出て、若い頃に戻ったみたいにフットワークが軽くなってしまったのよ、ふふふ」
白金の屋敷で会ったときよりも、声がワントーン高く、少女のようだったのですぐに気付かなかったのだ。
とはいえ、話しながらも、つい……ちらちらと洋を目で追ってしまう。
よく見ると、よく似合っている。
なんだ、あの可愛い物体は?
ハロウィンのコスチュームとも違う、ナチュラルな女装姿が似合いすぎるとは、流石私の洋だ。
「一体どういう訳で? それより翠兄さんも……先ほど白江さんと顔見知りのような発言をしていたような」
どこから突っ込んでいいのか、軽いパニックだ。常に冷静沈着な私らしくない。
「うん……白江さんは、実は渋谷の寺に勤めていた時に、何度か写経の会にいらした事があるそうだ」
「え? そうだったのですか」
「そうなのよ。若くて美しいお坊さんがいたのに、急に姿が見えなくなってしまって残念だったのよ。それが、まぁ、まさか今日ここで出会えるなんて驚いたわ」
「僕こそ、まさか洋くんのお祖母様だとは。あの寺では特にゆっくり話したこともなかったのに、覚えていて下さって嬉しいです」
「『袖振り合うも多生の縁』というでしょう。道で人と袖を触れ合うような些細なことも、前世からの因縁によるものという諺《ことわざ》通り、きっとあなたも私も徳を積んでいたから、また出逢えたのね」
そうなのか。洋と私が深い縁で繋がっているのは自覚しているが、どうやら私と洋の周りにも、同じ事が言えるらしい。
現代人は昔ほど情も縁を大切にしなくなってきているが、私たちは違う。
ここに来ても尚……縁が縁を呼び、広がっていっている。とても不思議なことだが。
「事情は分かりました。兄にも縁があったとは。幾重にも重なって不思議な心地です。ですが、別の問題が……」
「あら、何かしら?」
いやいや洋の祖母も天然なのか。祖母公認で女装とは……洋が自らしたのか? まさか洋に密かな女装癖が?
「おい、丈、何を考えている? ちゃんと声に出して言えよ」
私の頭は柔軟に出来ていないので、またもやこんがらがってくる。
「洋、その格好は一体どうして?」
「そ、それはだな」
「ふふっ、私の孫はどんな姿でも可愛いでしょう。丈さんが家に洋だけ置いて行ってしまい寂しそうだったから、私が連れて来てあげたのよ」
「うう……丈、そういうことなんだ。怒るなよ。この格好には理由が。ノリノリだったのはご婦人方だし、そもそも丈が『悪目立ちするから来るな』なんて言うからだぞ」
「ご婦人方? あ、まさか」
そこで流兄さんが、成る程と言ってポンと膝を打った。
「いやぁぁ~ 洋くん、いや、洋ちゃん、そのワンピース、似合っているよ。そもそも、どこかで見たかと思ったら、母さんの若い頃のじゃないか」
やはり、母さんの……?
がっくしとうなだれた。
私の家族はどうなっているのだ! と叫びたくなる。
「おっと、俺は張矢家の次男、流です」
「まぁ~まぁまぁ、ここは色男だらけね。なんだか昔を彷彿するわ、私も若い頃、色男に囲まれていたのよ」
「へぇ! どんなタイプがいました?」
もう駄目だ。この手の会話は流兄さんに任せた。
「王子様のような海里先生と純粋な柊一さん。騎士のような英国人のアーサーさんに、ノーブルな執事の瑠衣さん。庭師のカップルも味があって素敵だったのよ。朴訥としたテツさんと、美人な桂人くんも目の保養だったわ」
「えっと……あの、それってもしかして皆さん、同性カップルですかね?」
「えぇ、だから私は洋と丈さんに対して免疫と理解があるのよ。たとえば、豪快なあなたと楚々としたお兄さんがもしもカップルでも、絶対に動じないわ。このパターンは王道でお似合いよね。あら、ごめんなさい。調子に乗って……」
なんと大胆な発言だ。しかし秘め事を抱える兄たちにとっては嬉しい言葉だったに違いない。
それにしても、妙に母さんと気が合いそうでゾクッとする。
「そういえば、あなたたちのお母様って……あの有名な」
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