重なる月

志生帆 海

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14章

追憶の由比ヶ浜 13

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 流の節ばった逞しい指が、僕の顎を掬う。

「翠、ちゃんと言えたな。偉いぞ」
「ば、馬鹿……僕の方が年上なのに、そんな言い方はよせ」
「ふっ、翠とは2歳しか変わらないよ。しかも俺の方が身体も大きいし力もある」
「そんなことは関係ない」

 何を言って? と流を見上げると、グッと腰を持ち上げられ、胸元深くに抱き寄せられた。

「俺なら、こんな風に翠をすっぽり抱きしめることも、甘やかすこともできる」
「も、もう……」
「翠、俺に今日は沢山……甘えて欲しい」
「流……」

 流に息苦しいまでの密着したキスをされると、流の吐息が僕の身体に流れ込み、じわりと火照ってくる。

「はぁ……んっ」

 薄く唇を開くと流の舌がやってきて口腔内を蹂躙され……その次は、僕の顔中にキスの雨を降らせてくる。

「流……激しいよ」
「翠……翠……」
「あ……りゅう……」

 僕の首筋や鎖骨の窪みも、雨で濡れていく。そのまま両胸を交互に啄まれ、舌先で転がすように舐められ、もどかしくて首をふるふると横に振った。

「そこは……いやだ。見ないで……欲しい」
「大丈夫だ、ほら……」
 
 流の大きな手が、僕の胸の火傷痕をすっぽりと覆ってくれる。

「うっ、あっ、ん――」

 僕は胸の火傷痕を見られるのが嫌な癖に胸を弄られると、性感帯を刺激され溜まらなく良くなって腰が震えてしまう。

「あぁ……、いやだ……もう」

 流を押しのけようとしてもビクともしない。しかし怖いのではなく、心地よい重みなので、僕は流の背中に手を伸ばして、顎をそらして天上を見上げた。

 先ほど流が言っていた。

 天上も床も……『結晶』の色にしたと。

 とても落ち着く色に、今の僕は包まれている。

 この部屋はまるで繭のようだ。

 僕たち二人だけの世界に、静かに守られている。

「流……気持ちいいな。ここで抱かれるのは、最高だ」
「よかった。翠に気に入ってもらえたか」
「ん……とてもいいよ。りゅう……ちゃん」

 小首を傾げて見上げると……

「お、おい、いきなりなんだよ? そ、その呼び方は!」

 流がジタバタと暴れ出す。

 そ、そんなに変だった?(頑張ったつもりなのに)

「だって流が、さっき甘えろって言うから」
「違う違う。そーじゃない。あーもう! 翠は天然だな。あぁ可愛い」

 なんだ、やはり正解じゃないか、そんなに喜んで。

 流の裸の胸に抱かれると逞しい胸筋が、僕の頬に当たり照れ臭くなった。僕だって同じ男なのに流のような逞しい身体を持っていないので、うっとりとしてしまう。

 今考えると……こんな強靱な身体に生まれついた流が、あのお盆の日だけはあり得ない程の高熱にうなされたのが不思議だ。

 両親も不在で困り果てた僕は、海里先生の名刺を思い出し、藁にもすがる思いで診療所に電話をかけたのだ。

 ……

 どうしよう? どうしたらいい?
 流が苦しそうで、見ていられないよ。
 もう真夜中だ。はたして通じるか、一か八か、かけてみよう。

 電話のコールが十回鳴った。
 もう諦めようと思った時、繋がった。

『はい、海里診察所だが』
『あ、あの……僕は以前、葉山の海で溺れている所を先生に助けてもらったものです。覚えていっらっしゃいますか』
『あぁ君か……お兄さんの方だね。もう目は大丈夫か。何があった?』
『はい。実は弟が40度の高熱で、どうしたらいいのか分からなくて……』
『なんだって、あの丈夫そうな弟くんの方が? そうか、よし。すぐに行くよ。住所を教えてくれ』

……

 深夜にもかかわらず駆けつけて下さった海里先生。その時運転してきたのが柊一さんだった。

 診断は『腎盂腎炎』、応急処置をしてもらい、翌日熱が少し下がった所で、僕の運転で葉山の診療所に連れて行った。

 それからしばらく点滴の通院が始まり、僕らの行き来が始まったのだ。

 それが僕らと海里先生を繋いだ『縁』だった。

「翠、何をぼんやりしている?」
「流……」

 気付けば流が、僕の股間に指を這わし続けていた。

「うっ……」

 先端をくすぐられ、イキたくなってくる。

「あ……駄目だ。一緒がいい」
「わかった。あまり時間がないから……少しキツいかもしれないぞ」
「それでも構わない」

 流が僕の唇を吸いながら下の窄まりに器用に触れてくると、ひくっと、そこが震える。

「こっちも可愛いな。翠が呼んでいる」

 指で器用に解され、腰がカクカクと震えた。僕の勃ってしまった物を片手でしごきながら、流が体重をグッとかけてくる。仰向けになった身体。足は左右に大きく割られていた。やがて、一気に身体の中にめりこんでくる、流のもの。

「あぁっ……!」
「痛くないか」
「うん、うん……っ」
「可愛いな、翠、俺に甘えて……」
「も、イキたい、イカせて欲しい」
「もう少し」
「おっ……きくて、くるし」

 一段と嵩を増したモノが出たり入ったり……僕は必死に逞しい流の肩に掴まって、受け入れ続けた。

 すると……ぽたぽたと、滴が僕の胸の下に落ちてきた。

 汗……? いや違う……これは涙だ。

 あぁ……流が泣いているのか。

 今日どんな思いで流が僕を送り出し、この寺を不在の間……じっと守ってくれたのか。流の赤く充血した瞳を見れば、痛い程分かる。

 流のためにも、僕のためにも……もうこの克哉が残した痕跡は消し去りたい。どんな手術になろうと怖くない、この傷を消せるのなら。

 流の涙が、僕の火傷痕に溜まっていく。

「流……流……ごめんな」

 奥を突かれる度に、僕の中が熱くなる。

「この傷……もう、いらない!」
「あぁ、もう消し去ろう。それがいい」

 僕は抜き差しされる度に、すすり泣いていた。
 流が良すぎて……流が好きすぎて。

「いい……すごく、いい……」
「翠、俺が好きか」
「好きだ」
「俺も好きだ」

 最後は腰をがっちり両手で押さえ込まれ激しく揺さぶられた。荒々しい動きでかき混ぜられると、一気に弾けてしまった。腹に溜まった液体は、きっと由比ヶ浜で流した涙と同じで苦渋の味がするだろう。

 すると流が僕の腹にたまったモノをべろりと舐めたので、慌てて制した。

「それ、だ、ダメだ!」
「何故?」
「だって、苦いだろ……っ」
「だが翠のだ。翠の苦みも……俺は知っておきたい」
「馬鹿……何を言って?」
「ははっ、すごく良かったよ。もう一度としたい所だが時間切れだ」
「あ、今……何時だ?」
「6時半……翠、起きられるか」
「ん……なんとか」

 流に支えられ廊下に出ると脇に扉があり、開けるとゆったりとした檜風呂があった。
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