1,193 / 1,657
14章
心通わせて 2
しおりを挟む
「本当は兄さんが駅まで迎えに来るはずだったんだ」
「翠さんがわざわざ?」
「だが危なっかしいから止めた。で、俺が来たわけだ」
「そうだったのですね。俺……翠さんにも流さんにも心配かけてしまいましたね」
後部座席の洋くんが申し訳なさそうに頭を下げるので、違う違う! と首を振った。
「おい、今は謝るところじゃない。甘えるところだ」
「え……」
「洋……兄さんたちは洋が大切なんだ。だから素直に受け止めてくれ」
「丈まで……あ……あぁ、俺……その、慣れていないんだ。こういうの」
洋くんが嬉し恥ずかし、頬を染める。
ふんふん、俺たちの末の弟は可愛いらしいな。
「さぁ着くぞ。お前達、ほっとして腹が減っているだろう。今日は一緒に母屋で食べようぜ」
「嬉しいです。丈、いいかな?」
「あぁ洋の好きなように。兄さん……すみません」
「丈、お前まで謝るな! 気持ち悪い」
「酷いですね」
山門を潜ると、案の定、山門の内側に翠が立っていた。
家で待てと言ったのに、約束を守らないのも、やはり翠らしい。
「洋くん、お帰りなさい」
「翠さん!」
洋くんの明るい声と表情で、兄さんはすぐに事の次第を察知したらしい。
さすが洞察力に優れているな。
兄さんは優美に微笑み、洋くんをふわりと抱きしめた。
「良かった! 今日は大丈夫だったようだね」
「はい、受け入れてもらえました。後でゆっくり話します」
洋くんも翠の抱擁が心地良いらしく、目を閉じて味わっていた。
兄さんも洋くんも、似ているよ。
耐えて耐えて……ようやく咲いた美しい花だ。
その花を守るのが俺と丈の役目さ。
****
「洋さん、お帰り!」
「薙くん、わぁ~夕食を作ってくれていたの?」
「いや、オレは温めているだけさ。作ったのはモチロン流さんだ」
台所から漂うこの匂いは……!
「あ……煮込みハンバーグ?」
「そ! 洋さんとオレの好物だよな-」
「そうだよね」
薙くんが友達みたいに話してくれるのが嬉しいし、僕の大好物を流さんが作ってくれたのも嬉しい。
安心して帰って来られる家があるだけでも夢のようなのに……温かく美味しそうな夕食に、楽しい会話まで備わっているなんて、俺には贅沢過ぎる。
母が亡くなってから……あの人と二人で暮らした日々には欠片もなかったものだ。コンビニの弁当は温めても、心は温まらなかった。あの人が、いつ帰ってくるのか冷や冷やしながら膝を抱えて耐えた日々は、もう消滅したのだ。
「翠さん……流さん、ありがとうございます」
「改めて……お帰り、洋くん、今日という日のために、君はよく頑張ったね」
翠さんが慈悲深い声で、俺の肩をポンポンと叩いて労ってくれた。
あ……まずい、泣きそう……だ。
「さぁさぁ、飯だー! 飯にするぞー」
そんな俺の背中を流さんがバンバン叩いて、景気をつけてくれる。
「ほら、洋くん、君には特別だぞ」
「え?」
出されたハンバーグの上には、旗が立っていた。それは日の丸ではなく、月影寺の家紋の入った旗だった。
「翠さんがわざわざ?」
「だが危なっかしいから止めた。で、俺が来たわけだ」
「そうだったのですね。俺……翠さんにも流さんにも心配かけてしまいましたね」
後部座席の洋くんが申し訳なさそうに頭を下げるので、違う違う! と首を振った。
「おい、今は謝るところじゃない。甘えるところだ」
「え……」
「洋……兄さんたちは洋が大切なんだ。だから素直に受け止めてくれ」
「丈まで……あ……あぁ、俺……その、慣れていないんだ。こういうの」
洋くんが嬉し恥ずかし、頬を染める。
ふんふん、俺たちの末の弟は可愛いらしいな。
「さぁ着くぞ。お前達、ほっとして腹が減っているだろう。今日は一緒に母屋で食べようぜ」
「嬉しいです。丈、いいかな?」
「あぁ洋の好きなように。兄さん……すみません」
「丈、お前まで謝るな! 気持ち悪い」
「酷いですね」
山門を潜ると、案の定、山門の内側に翠が立っていた。
家で待てと言ったのに、約束を守らないのも、やはり翠らしい。
「洋くん、お帰りなさい」
「翠さん!」
洋くんの明るい声と表情で、兄さんはすぐに事の次第を察知したらしい。
さすが洞察力に優れているな。
兄さんは優美に微笑み、洋くんをふわりと抱きしめた。
「良かった! 今日は大丈夫だったようだね」
「はい、受け入れてもらえました。後でゆっくり話します」
洋くんも翠の抱擁が心地良いらしく、目を閉じて味わっていた。
兄さんも洋くんも、似ているよ。
耐えて耐えて……ようやく咲いた美しい花だ。
その花を守るのが俺と丈の役目さ。
****
「洋さん、お帰り!」
「薙くん、わぁ~夕食を作ってくれていたの?」
「いや、オレは温めているだけさ。作ったのはモチロン流さんだ」
台所から漂うこの匂いは……!
「あ……煮込みハンバーグ?」
「そ! 洋さんとオレの好物だよな-」
「そうだよね」
薙くんが友達みたいに話してくれるのが嬉しいし、僕の大好物を流さんが作ってくれたのも嬉しい。
安心して帰って来られる家があるだけでも夢のようなのに……温かく美味しそうな夕食に、楽しい会話まで備わっているなんて、俺には贅沢過ぎる。
母が亡くなってから……あの人と二人で暮らした日々には欠片もなかったものだ。コンビニの弁当は温めても、心は温まらなかった。あの人が、いつ帰ってくるのか冷や冷やしながら膝を抱えて耐えた日々は、もう消滅したのだ。
「翠さん……流さん、ありがとうございます」
「改めて……お帰り、洋くん、今日という日のために、君はよく頑張ったね」
翠さんが慈悲深い声で、俺の肩をポンポンと叩いて労ってくれた。
あ……まずい、泣きそう……だ。
「さぁさぁ、飯だー! 飯にするぞー」
そんな俺の背中を流さんがバンバン叩いて、景気をつけてくれる。
「ほら、洋くん、君には特別だぞ」
「え?」
出されたハンバーグの上には、旗が立っていた。それは日の丸ではなく、月影寺の家紋の入った旗だった。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる