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13章
夏休み番外編『Let's go to the beach』14
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先に湯舟に浸かっていた私は、美しい恋人の一挙一動を客観的に楽しんでいた。
少し離れた場所からゆったりと……視線だけで洋を追う。
こんなにもゆとりを持って洋を見るのは滅多にない事だ。いつも君が傍にいるだけで、私はその魅力に憑りつかれ……心の余裕など何処かへ吹っ飛んでしまうからな。
洋は腰にしっかりとタオルを巻き、足元を気にしながら入ってきた。それから私に「先に躰を洗うね」と律儀に断ってから、熱心に躰や髪を洗いだした。
少しクセのある黒髪は濡れるとカールが強くなる。それが細いうなじに張り付くのがいいな。相変わらず少しやせ気味な躰だが、出会った時よりずっと艶めいた。滑らかでしなやかな背中には背骨が綺麗に並んでいて、肩甲骨は羽の跡……腰のくびれは男とは思えない程の色香が漂っている。それからキュッと上がった桃のような尻を後ろからじっくり眺めた。
我ながらいやらしい視線を洋に向けていると思うが、当の本人は寛いで気持ち良さそうに、泡立てたスポンジで自分の躰を丁寧に洗っていた。
洋の何気ない動作一つ一つの所作が美しくて、見惚れてしまった。
洋には持って生まれた気品が備わっている。出会った頃から強く感じていた確信は、後に洋の母の足取りを追っていく上で確固たるものとなった。洋の母親の実家は、東京の高級住宅地に邸宅を構える優雅な環境だった。かつては公家の名家だったとも……
そういえば……邂逅を果たした洋月の君も帝の御子だったというし……ヨウも貴族の出だと言っていたな。彼らの境遇とやはり何かが繋がっているのかもしれない。
ようやくすべてを洗い終えた洋が立ち上がると、昼間海で出会ったあの青年が入ってきた。
なんと……私たちと同じく宿泊客だったのか。
青年の名は『瑞樹』だったな。彼との再会に、洋は花のように嬉しそうに微笑んだ。
彼は……洋が珍しく自分から話しかけ友人になりたいと願った人物だ。
洋とはまた違う、社交的な礼儀正しい性格で、その謙虚な姿勢が慎ましやかで嫌味がなく、私も好感を持てた。しいて言うなら……洋と似た仄暗い過去を抱えていそうなのが、少し心配だ。
そんな所が……もしかして二人が気付かぬうちに、お互い引き寄せあっているの原因なのかもしれないな。
洋には友人が極端に少なかった。中高・大学を通して友人と呼べる人は安志くんしかいない。まぁ私も一匹狼でやってきたので人の事は言えないが。
よかったな、洋。
君たちは、どうやらいい友人になれそうだ。
二人の様子を和やかに眺めていたが……その静寂が突如破られた。
入り口から走ってきたさっきの子供が二人の目の前でズルッと滑って転びそうになった。洋が咄嗟に手を伸ばし、子供がその拍子に洋の腰巻きタオルを掴んだ。
次の瞬間……はらりと白いタオルが浴室内を舞った。
更に……洋が派手に尻もちをついた。
「洋!」
あれほどきつく結わいたはずなのに、何故、解けた?
「わっどうしよう! ボク、洋お兄ちゃんに、大けがさせちゃったぁ! 」
すると露わになった洋の太腿についた大量のキスマークを、子供が怪我だと勘違いして大泣きしてしまった。
洋……すまない。それは私に重大な責任がある。
「あ……違うんだ。えっと……これは……もうっ丈……」
洋は恥ずかしそうに目元を真っ赤にして、私にヘルプを求めている。
やれやれ、やっぱりこうなるのか。ゆったりとした時間はおしまいだな。
洋……君は本当にいつも、何かしでかしてくれる。
「メイくんだったよね。大丈夫だ。私は医者だ。だからこの青年の怪我もすぐに治療するから安心しなさい」
そう言って、裸の洋をグイっと持ち上げ横抱きにしてやった。
「丈! やめろって! はっ、離せよ!」
「しっ、静かに。洋……ここは怪我人のふりを」
「……うっ……もうっ」
洋も事情を呑み込んでじっとすると、メイくんが今度は妙にうっとりした顔になった。
「わぁぁ~お姫様抱っこだ! 僕のおにいちゃんもね、この前パパにしてもらったんだよ~」
目をキラキラさせ、うっとりしている。
へぇ……そういうことか。
「メ……メイくんそれは言わないで」
「えーなんで? 」
「は……恥ずかしいから」
隣で瑞樹くんと、がっくしと肩を落としていた。
なるほどなぁ……瑞樹くんと洋の共通点をまた発見したぞ。
少し離れた場所からゆったりと……視線だけで洋を追う。
こんなにもゆとりを持って洋を見るのは滅多にない事だ。いつも君が傍にいるだけで、私はその魅力に憑りつかれ……心の余裕など何処かへ吹っ飛んでしまうからな。
洋は腰にしっかりとタオルを巻き、足元を気にしながら入ってきた。それから私に「先に躰を洗うね」と律儀に断ってから、熱心に躰や髪を洗いだした。
少しクセのある黒髪は濡れるとカールが強くなる。それが細いうなじに張り付くのがいいな。相変わらず少しやせ気味な躰だが、出会った時よりずっと艶めいた。滑らかでしなやかな背中には背骨が綺麗に並んでいて、肩甲骨は羽の跡……腰のくびれは男とは思えない程の色香が漂っている。それからキュッと上がった桃のような尻を後ろからじっくり眺めた。
我ながらいやらしい視線を洋に向けていると思うが、当の本人は寛いで気持ち良さそうに、泡立てたスポンジで自分の躰を丁寧に洗っていた。
洋の何気ない動作一つ一つの所作が美しくて、見惚れてしまった。
洋には持って生まれた気品が備わっている。出会った頃から強く感じていた確信は、後に洋の母の足取りを追っていく上で確固たるものとなった。洋の母親の実家は、東京の高級住宅地に邸宅を構える優雅な環境だった。かつては公家の名家だったとも……
そういえば……邂逅を果たした洋月の君も帝の御子だったというし……ヨウも貴族の出だと言っていたな。彼らの境遇とやはり何かが繋がっているのかもしれない。
ようやくすべてを洗い終えた洋が立ち上がると、昼間海で出会ったあの青年が入ってきた。
なんと……私たちと同じく宿泊客だったのか。
青年の名は『瑞樹』だったな。彼との再会に、洋は花のように嬉しそうに微笑んだ。
彼は……洋が珍しく自分から話しかけ友人になりたいと願った人物だ。
洋とはまた違う、社交的な礼儀正しい性格で、その謙虚な姿勢が慎ましやかで嫌味がなく、私も好感を持てた。しいて言うなら……洋と似た仄暗い過去を抱えていそうなのが、少し心配だ。
そんな所が……もしかして二人が気付かぬうちに、お互い引き寄せあっているの原因なのかもしれないな。
洋には友人が極端に少なかった。中高・大学を通して友人と呼べる人は安志くんしかいない。まぁ私も一匹狼でやってきたので人の事は言えないが。
よかったな、洋。
君たちは、どうやらいい友人になれそうだ。
二人の様子を和やかに眺めていたが……その静寂が突如破られた。
入り口から走ってきたさっきの子供が二人の目の前でズルッと滑って転びそうになった。洋が咄嗟に手を伸ばし、子供がその拍子に洋の腰巻きタオルを掴んだ。
次の瞬間……はらりと白いタオルが浴室内を舞った。
更に……洋が派手に尻もちをついた。
「洋!」
あれほどきつく結わいたはずなのに、何故、解けた?
「わっどうしよう! ボク、洋お兄ちゃんに、大けがさせちゃったぁ! 」
すると露わになった洋の太腿についた大量のキスマークを、子供が怪我だと勘違いして大泣きしてしまった。
洋……すまない。それは私に重大な責任がある。
「あ……違うんだ。えっと……これは……もうっ丈……」
洋は恥ずかしそうに目元を真っ赤にして、私にヘルプを求めている。
やれやれ、やっぱりこうなるのか。ゆったりとした時間はおしまいだな。
洋……君は本当にいつも、何かしでかしてくれる。
「メイくんだったよね。大丈夫だ。私は医者だ。だからこの青年の怪我もすぐに治療するから安心しなさい」
そう言って、裸の洋をグイっと持ち上げ横抱きにしてやった。
「丈! やめろって! はっ、離せよ!」
「しっ、静かに。洋……ここは怪我人のふりを」
「……うっ……もうっ」
洋も事情を呑み込んでじっとすると、メイくんが今度は妙にうっとりした顔になった。
「わぁぁ~お姫様抱っこだ! 僕のおにいちゃんもね、この前パパにしてもらったんだよ~」
目をキラキラさせ、うっとりしている。
へぇ……そういうことか。
「メ……メイくんそれは言わないで」
「えーなんで? 」
「は……恥ずかしいから」
隣で瑞樹くんと、がっくしと肩を落としていた。
なるほどなぁ……瑞樹くんと洋の共通点をまた発見したぞ。
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