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13章
夏休み番外編『Let's go to the beach』9
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「兄さん、いい子にしていたか」
「流、お帰り」
洋くんの帰りをサンシェードの中でじっと待っていると、先に流が戻ってきた。
恐らく丈と競い合って泳いだのだろう。上半身の筋肉は躍動感に溢れ、日焼けした肌に砂と海水が飛び散ったワイルドな様子にドキっとしてしまった。
流は本当に逞しい。バネのある体つきに惚れ惚れしてしまうよ。
目を細めて流のことを見上げると、流は僕の目の前に、すっとかき氷を差し出してくれた。
「えっ」
「留守番のご褒美だ」
抹茶シロップがたっぷりかかった美味しそうなかき氷に、思わず舌鼓を打った。
「ご褒美って……あっそうだ、洋くんに会わなかった? 」
「あぁ丈が向かったから大丈夫だよ」
「そうか、なら安心だな」
それを聞いてホッとした。洋くんの美貌は衰えを知らない。海でも悪目立ちしてしまう上、丈に直前まで愛された躰には、壮絶な色香が漂っていた。
僕や流が傍にいる分にはいいのだが、やはりひとりで行動させるのは、今でも不安になってしまう。だが洋くんの気持ちを思えば、いつまでも過保護にされるのは男として不甲斐なく感じるだろうから、その塩梅が難しい。それでも何かあってからでは遅いので、付かず離れず洋くんを守ってやりたくなる。
「翠、食べないのか。溶けちまうぜ」
「あっうん、いただくよ。とても美味しそうだ」
「翠は抹茶味が一番好きだろう? 」
「そうだよ」
僕の好みなら、いちいち言わなくても……流が全部知っている。
視力を失って戻ってきた月影寺で、僕は流に身の周りの全てを任せた時期がある。その時、僕の目となってくれたのが流だ。視力を失ったまま、こんな風に海に連れてきてもらったこともあったよな。
「翠、前みたいに食べさせてやるぞ」
「え……いいよ。僕はもう自分で何でもできる」
「いいから、お盆の間中、働き詰めだった翠を労わってやりたいんだよ。俺が」
サンシェードはとても大きく、奥まった位置にいれば……覗き込まない限り外からは見えない。だから流はこんなことを言うのだ。
透明のプラスチックスプーンにかき氷を山盛りにすくって、僕の唇をノックする。
「ん……しょうがないな」
「ほら、あーん」
恥ずかしいけど、丈も洋くんもいないから……少しだけ流に甘えてしまおうと、口を開けた。ところが僕の口に入ったのは半分で、あとの半分は僕の胸元に零れ落ちてしまった。
「あっごめん」
「いいって」
流は不敵な笑みを浮かべて、僕の胸元をペロッと舐めあげた。
「なっ……だ、だめだ。こんなところで」
「もったいないだろう。翠の汗の味がするぜ」
生々しい事実を言われてカッとなってしまう。そのまま乳輪を辿るように舐められて……腰が浮いてしまう。
「あっ……おい、やめろ」
「汗と抹茶シロップの味も悪くない。いい塩梅だ」
「流……何を変態じみたことを」
こんな所で胸をいじられたら大変なことになる。だから必死に僕の胸に今にも吸いついてきそうな流の頭をはがそうとした。
しかし、その手も押さえつけられてしまったので、ジタバタと藻掻いていると、サンシェードの入り口に足が見えた。
丈たちが戻って来たんだ!
「翠兄さん、入っていいですか」
「チッ、もう帰って来たか」
「あっちょっと待って」
慌てて流をはねのけ、僕はフード付きのラッシュガードを羽織った。
「どうぞ」
「翠兄さん……この人を看てもらってもいいですか」
「ん? 誰かお客さまなのか」
丈と洋くんが連れて来たのは、年若い青年だった。
驚いたことに僕と色違いの水着、洋くんのとまったく同じ水着を着ていた。洋くんより少し若い、とても清楚な雰囲気の綺麗な子だと思った。
だがその青年はひどく狼狽し、泣きじゃくっていた。
「一体、どうしたんだ? 」
「それが……翠兄さんなら彼の話を聞いてあげることが出来るのではと……何か事情がありそうで。あと背中の日焼けが酷く……今すぐ処置しないといけない火傷レベルなので、治療してやりたいのですが」
「もちろんいいよ。さぁ中に入って」
その青年は洋くんに促されて中に入っていた。
「う……すみません……僕……さっきから胸がバクバクして涙が止まらないんです。どうしちゃったのかな」
「瑞樹、大丈夫か」
「おにいちゃん、またどっかいたむの?」
その青年は瑞樹《みずき》という綺麗な名前だった。そして彼には、大柄な年上の男性と小さな男の子が付き添っていた。親子だろうか。
「あの……どういう事情か分からないのですが、僕は北鎌倉の月影寺の住職です。少し彼と語り合っても。それからこっちは僕の弟で、大船で外科医をしています。背中の日焼け応急処理してもらった方がいいかもしれません。少しだけ彼をお預かりしても」
「あっはい」
「翠さん、俺のせいなんです。さっきロッカーで偶然彼に出会って……その……日焼け用のローションを塗り合った仲なんですが、俺の塗り方が雑だったから、彼の背中がこんなに……」
洋くんまで泣きそうな顔だ。
とにかく事情は察した。
「大丈夫だよ。少しだけ……彼に静かな時間を作ってあげよう」
「流、お帰り」
洋くんの帰りをサンシェードの中でじっと待っていると、先に流が戻ってきた。
恐らく丈と競い合って泳いだのだろう。上半身の筋肉は躍動感に溢れ、日焼けした肌に砂と海水が飛び散ったワイルドな様子にドキっとしてしまった。
流は本当に逞しい。バネのある体つきに惚れ惚れしてしまうよ。
目を細めて流のことを見上げると、流は僕の目の前に、すっとかき氷を差し出してくれた。
「えっ」
「留守番のご褒美だ」
抹茶シロップがたっぷりかかった美味しそうなかき氷に、思わず舌鼓を打った。
「ご褒美って……あっそうだ、洋くんに会わなかった? 」
「あぁ丈が向かったから大丈夫だよ」
「そうか、なら安心だな」
それを聞いてホッとした。洋くんの美貌は衰えを知らない。海でも悪目立ちしてしまう上、丈に直前まで愛された躰には、壮絶な色香が漂っていた。
僕や流が傍にいる分にはいいのだが、やはりひとりで行動させるのは、今でも不安になってしまう。だが洋くんの気持ちを思えば、いつまでも過保護にされるのは男として不甲斐なく感じるだろうから、その塩梅が難しい。それでも何かあってからでは遅いので、付かず離れず洋くんを守ってやりたくなる。
「翠、食べないのか。溶けちまうぜ」
「あっうん、いただくよ。とても美味しそうだ」
「翠は抹茶味が一番好きだろう? 」
「そうだよ」
僕の好みなら、いちいち言わなくても……流が全部知っている。
視力を失って戻ってきた月影寺で、僕は流に身の周りの全てを任せた時期がある。その時、僕の目となってくれたのが流だ。視力を失ったまま、こんな風に海に連れてきてもらったこともあったよな。
「翠、前みたいに食べさせてやるぞ」
「え……いいよ。僕はもう自分で何でもできる」
「いいから、お盆の間中、働き詰めだった翠を労わってやりたいんだよ。俺が」
サンシェードはとても大きく、奥まった位置にいれば……覗き込まない限り外からは見えない。だから流はこんなことを言うのだ。
透明のプラスチックスプーンにかき氷を山盛りにすくって、僕の唇をノックする。
「ん……しょうがないな」
「ほら、あーん」
恥ずかしいけど、丈も洋くんもいないから……少しだけ流に甘えてしまおうと、口を開けた。ところが僕の口に入ったのは半分で、あとの半分は僕の胸元に零れ落ちてしまった。
「あっごめん」
「いいって」
流は不敵な笑みを浮かべて、僕の胸元をペロッと舐めあげた。
「なっ……だ、だめだ。こんなところで」
「もったいないだろう。翠の汗の味がするぜ」
生々しい事実を言われてカッとなってしまう。そのまま乳輪を辿るように舐められて……腰が浮いてしまう。
「あっ……おい、やめろ」
「汗と抹茶シロップの味も悪くない。いい塩梅だ」
「流……何を変態じみたことを」
こんな所で胸をいじられたら大変なことになる。だから必死に僕の胸に今にも吸いついてきそうな流の頭をはがそうとした。
しかし、その手も押さえつけられてしまったので、ジタバタと藻掻いていると、サンシェードの入り口に足が見えた。
丈たちが戻って来たんだ!
「翠兄さん、入っていいですか」
「チッ、もう帰って来たか」
「あっちょっと待って」
慌てて流をはねのけ、僕はフード付きのラッシュガードを羽織った。
「どうぞ」
「翠兄さん……この人を看てもらってもいいですか」
「ん? 誰かお客さまなのか」
丈と洋くんが連れて来たのは、年若い青年だった。
驚いたことに僕と色違いの水着、洋くんのとまったく同じ水着を着ていた。洋くんより少し若い、とても清楚な雰囲気の綺麗な子だと思った。
だがその青年はひどく狼狽し、泣きじゃくっていた。
「一体、どうしたんだ? 」
「それが……翠兄さんなら彼の話を聞いてあげることが出来るのではと……何か事情がありそうで。あと背中の日焼けが酷く……今すぐ処置しないといけない火傷レベルなので、治療してやりたいのですが」
「もちろんいいよ。さぁ中に入って」
その青年は洋くんに促されて中に入っていた。
「う……すみません……僕……さっきから胸がバクバクして涙が止まらないんです。どうしちゃったのかな」
「瑞樹、大丈夫か」
「おにいちゃん、またどっかいたむの?」
その青年は瑞樹《みずき》という綺麗な名前だった。そして彼には、大柄な年上の男性と小さな男の子が付き添っていた。親子だろうか。
「あの……どういう事情か分からないのですが、僕は北鎌倉の月影寺の住職です。少し彼と語り合っても。それからこっちは僕の弟で、大船で外科医をしています。背中の日焼け応急処理してもらった方がいいかもしれません。少しだけ彼をお預かりしても」
「あっはい」
「翠さん、俺のせいなんです。さっきロッカーで偶然彼に出会って……その……日焼け用のローションを塗り合った仲なんですが、俺の塗り方が雑だったから、彼の背中がこんなに……」
洋くんまで泣きそうな顔だ。
とにかく事情は察した。
「大丈夫だよ。少しだけ……彼に静かな時間を作ってあげよう」
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