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13章
正念場 26
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今度は冷静に向き合えたわ。
あなたは私の愛娘、『夕』の忘れ形見。
見れば見るほど、夕の面差しを色濃く受け継いでいるのが分かるわ。
洋は確かに……私の孫よ。
「洋……」
今度はちゃんと声に出せた。
すると洋は嬉しそうに、優しい口元を綻ばせてくれた。
まぁ、そういう仕草も夕に似ているのね。
「……あの……お、おばあさまと呼んでも?」
「もちろんよ」
あぁもう……あまりに興奮して、何から話したらいいのか分からないわ。
「洋……先日はごめんなさい。あなたをすぐに受け入れられなくて……持ってきてくれた手紙を読んで目が覚めたの。あの手紙は読んでくれた?」
「はい、母の気持ちが籠っていました。俺をどんなに愛し、残して逝くのをどんなに心配してくれていたのか、しっかり伝わってきました。俺も知ることが出来て良かったです」
話し方の雰囲気も、夕と似ているのね。
あの子も儚げな外見だったけど、洋も青年というには儚げで中性的な雰囲気を持っている。
でも凛とした気高い雰囲気を持っているわ。
そんな所まで本当に夕と同じね。
夕と同じ透き通った瞳……。
若かりし頃の夕の姿が目の前に蘇ったようで、愛おしくて愛おしくて……この手で直接触れたくなってしまった。
「洋……お願いがあるの。こちらに来てもらえるかしら」
「おばあさま……」
私の目の前に立ってくれた洋の身体を、私は両手を広げて抱きしめた。
そう、とても自然に……幼い夕を抱きしめた時と同じ気持ちで。
「えっ……、あ、あの」
「洋、あなたは夕に似ているのね。愛おしい夕に……あなたのお陰でまた夕に会えたわ。夕に似てくれて、ありがとう」
そう告げると、私の両手に大人しく収まっていた青年は肩を震わせた。
えっ……泣いているの? 私また余計なことを言ってしまった?
困惑して雪也さんを探すと、「白江さん……大丈夫ですよ、続けて」と促してくれた。
「洋、どうしたの? 何故そんなに泣くの?」
「お……俺は……母に……似ていて……本当に良かったのですか」
はらはらと澄んだ目から、見る見るうちに透明の涙が零れ出した。
頬を伝う水滴が私が先週つけてしまった切り傷に触れそうになったので、慌ててハンカチで拭いてあげた。
「洋……当たり前じゃない。夕にそっくりなあなたが好きよ。ありがとう」
「うっ……」
そっと傷を労わるように拭くと、洋は突然その場に泣き崩れてしまった。
私の足元に蹲る青年を見て、この子は夕が亡くなった後どんな人生を送ったのか……もしかして私が想像できない程の過酷な人生を歩んだのかもしれないと悟った。
するとさっきから洋の背後で様子を伺っていた背の高い青年が、さっと洋に歩み寄ってくれた。
「洋、大丈夫か」
「丈、ごめん。俺……嬉しくて。ずっと母に瓜二つのこの顔を疎んでいたんだ。この顔でなければ、あんな目に遭わなかったと……。でも違ったんだ。おばあさまに喜んでもらえた。俺の……この顔が好きだと言ってもらえた!」
「洋の顔は、私も好きだ。外見だけでない、内面も全て好きだ」
突然の二人のやり取りには少し驚いたけれども、私は猛烈にあの二人を思い出していた。
今、孫の洋に駆け寄って肩を抱いて励ましてくれている青年は、私の大切な幼馴染、柊一さんのパートナーとして、生涯をあの白薔薇の屋敷で円満に幸せに暮らした海里先生の姿と重なった。
「まぁ……まるで海里先生みたいね」
そう呟くと、いつのまにか雪也さんが私の元へ来てくれていた。
「白江さん、どうやら洋くんをずっと守ってきたのは彼のようですね。微笑ましい光景ですね」
「じゃあ……もしかして洋とあの青年は」
「そのようです。でも僕達は……そのことに関しては誰よりも理解があるから安心ですね。白薔薇の館で兄たちの夢のような恋を見守ってきた仲ですからね。幸せの形にはいろいろあるのを、ちゃんと知っているから。それは……この眼で最期まで見届けたから言えることですよね」
雪也さんの言葉は、ひとつひとつ重く……そして優しく、私の老いた心に響いた。
あなたは私の愛娘、『夕』の忘れ形見。
見れば見るほど、夕の面差しを色濃く受け継いでいるのが分かるわ。
洋は確かに……私の孫よ。
「洋……」
今度はちゃんと声に出せた。
すると洋は嬉しそうに、優しい口元を綻ばせてくれた。
まぁ、そういう仕草も夕に似ているのね。
「……あの……お、おばあさまと呼んでも?」
「もちろんよ」
あぁもう……あまりに興奮して、何から話したらいいのか分からないわ。
「洋……先日はごめんなさい。あなたをすぐに受け入れられなくて……持ってきてくれた手紙を読んで目が覚めたの。あの手紙は読んでくれた?」
「はい、母の気持ちが籠っていました。俺をどんなに愛し、残して逝くのをどんなに心配してくれていたのか、しっかり伝わってきました。俺も知ることが出来て良かったです」
話し方の雰囲気も、夕と似ているのね。
あの子も儚げな外見だったけど、洋も青年というには儚げで中性的な雰囲気を持っている。
でも凛とした気高い雰囲気を持っているわ。
そんな所まで本当に夕と同じね。
夕と同じ透き通った瞳……。
若かりし頃の夕の姿が目の前に蘇ったようで、愛おしくて愛おしくて……この手で直接触れたくなってしまった。
「洋……お願いがあるの。こちらに来てもらえるかしら」
「おばあさま……」
私の目の前に立ってくれた洋の身体を、私は両手を広げて抱きしめた。
そう、とても自然に……幼い夕を抱きしめた時と同じ気持ちで。
「えっ……、あ、あの」
「洋、あなたは夕に似ているのね。愛おしい夕に……あなたのお陰でまた夕に会えたわ。夕に似てくれて、ありがとう」
そう告げると、私の両手に大人しく収まっていた青年は肩を震わせた。
えっ……泣いているの? 私また余計なことを言ってしまった?
困惑して雪也さんを探すと、「白江さん……大丈夫ですよ、続けて」と促してくれた。
「洋、どうしたの? 何故そんなに泣くの?」
「お……俺は……母に……似ていて……本当に良かったのですか」
はらはらと澄んだ目から、見る見るうちに透明の涙が零れ出した。
頬を伝う水滴が私が先週つけてしまった切り傷に触れそうになったので、慌ててハンカチで拭いてあげた。
「洋……当たり前じゃない。夕にそっくりなあなたが好きよ。ありがとう」
「うっ……」
そっと傷を労わるように拭くと、洋は突然その場に泣き崩れてしまった。
私の足元に蹲る青年を見て、この子は夕が亡くなった後どんな人生を送ったのか……もしかして私が想像できない程の過酷な人生を歩んだのかもしれないと悟った。
するとさっきから洋の背後で様子を伺っていた背の高い青年が、さっと洋に歩み寄ってくれた。
「洋、大丈夫か」
「丈、ごめん。俺……嬉しくて。ずっと母に瓜二つのこの顔を疎んでいたんだ。この顔でなければ、あんな目に遭わなかったと……。でも違ったんだ。おばあさまに喜んでもらえた。俺の……この顔が好きだと言ってもらえた!」
「洋の顔は、私も好きだ。外見だけでない、内面も全て好きだ」
突然の二人のやり取りには少し驚いたけれども、私は猛烈にあの二人を思い出していた。
今、孫の洋に駆け寄って肩を抱いて励ましてくれている青年は、私の大切な幼馴染、柊一さんのパートナーとして、生涯をあの白薔薇の屋敷で円満に幸せに暮らした海里先生の姿と重なった。
「まぁ……まるで海里先生みたいね」
そう呟くと、いつのまにか雪也さんが私の元へ来てくれていた。
「白江さん、どうやら洋くんをずっと守ってきたのは彼のようですね。微笑ましい光景ですね」
「じゃあ……もしかして洋とあの青年は」
「そのようです。でも僕達は……そのことに関しては誰よりも理解があるから安心ですね。白薔薇の館で兄たちの夢のような恋を見守ってきた仲ですからね。幸せの形にはいろいろあるのを、ちゃんと知っているから。それは……この眼で最期まで見届けたから言えることですよね」
雪也さんの言葉は、ひとつひとつ重く……そして優しく、私の老いた心に響いた。
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