重なる月

志生帆 海

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13章

正念場 24

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 東京へ向かう電車の車内は、適度に空いていた。だが丈は俺を窓際に立たせたっきり、ずっと黙っている。まるで立ちはだかるような威圧感だ。

「丈、なぁ……どうして座らない? 空いているのに」
「五月蠅い」
「おい、どうして不機嫌なんだ?」
「それは……このせいだ」
 
 おもむろにシャツの襟を正された。

 あっ……そうか、さっきの流さんのアレのせいか。

 出掛ける時に、いきなり襟ぐりから中を覗き込まれて焦った。確かにこのシャツは、少し襟ぐりが深いよな。でもあんな風に真正面に立って引っ張られない限り、問題ないのに……丈も神経質過ぎないか。

「そんな怒るなよ。チラっとだろ? 別に……減るもんじゃないし」
「はぁ……洋はいつから、そんなに無防備になった?」
「えっ」

 そういえば……俺、確かに無防備だったのかも。でもそれって流さんが相手だからなんだよ。もし他の人に同じことをされたら最悪だ。絶対に嫌なことだ。そこははっきり伝えておかないと。

「違うって……流さんだからだ。その……流さんには翠さんがいるだろう? だから安心だし……それにこのシャツだって、もともとは翠さんのために買ったものだったから……きっと翠さんに着せてさっきと同じことをするつもりだったんじゃないかなって思ったら、気の毒にもなって」
「はぁ……流兄さんは、我が兄ながら子供じみたことを……情けない」
「丈、そんな風に言うなよ。お兄さんのことをさ」
「だが、流兄さんだけずるい」
「えっ! そこ?」

 丈の奴、何を言うのかと思ったら……思わず苦笑してしまった

 お前は毎晩のように俺を裸にしているのに、俺の乳首なんて見るどころじゃなくて、舐めたり甘噛みしたり、吸い付いたり……弄りまくっているだろう?

 あぁぁぁ……俺、何考えている?

 変なこと考えていたら、まずい。

 顔は火照るは下半身は硬くなりつつあって……

「洋、どうした顔赤いぞ、まさか熱があるんじゃないよな」

 丈がさっと額に手を伸ばしてきたので、思いっきり一歩退いてしまった。

 だって今触れられたら……その、あぁ、もうこんな躰になったのは、全部全部丈のせいだ!

 過敏すぎるよ、俺の躰!!

****

「じゃあ行ってこい! 丈、洋くん~頑張って来いよ」

 手土産を大切そうに持ったスーツ姿の丈と若草色のリネンシャツが似合う洋くんの姿が見えなくなるまで、しっかり見送った。

「ふぅ~上手くいくといいな。なぁ……これって親の心境に近いのか」

 振り向くと翠の目が笑っていなかった。

 えっと……何を怒ってるんだ?

 俺……何かしたか。

「流……ちょっと僕の部屋にいい?」

 静かな声で翠の自室に来るようにと言われて、首を傾げるしかなかった。















あとがき(不要方はスルーで)


****

志生帆 海です。

「正念場」というサブタイトルに相応しくない、コメディタッチな話が続いていますが大丈夫でしょうか。

 シリアスの合間の息抜きというか、こういう話を書くのも好きなのでついつい……月影寺のメンズは弄り甲斐があって楽しいです!

 


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