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13章
正念場 12
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流さんの作ってくれた林檎ゼリーは、俺の母が作ってくれた味と少し似ていた。だから余計に美味しく感じた。
「美味しいな……これ」
「どれ?」
丈も口に含み、味わってくれた。
「ふーん、成程、洋はこういう味が好みか」
「うん……その、母さんの味と似ているから」
「ならば今度は私も作ってやろう」
「ありがとう!」
母はどんなに思慕しても、もう二度と会えない人だが、こんな風に『記憶』というもので、今でも触れることが出来るのだ。だからこそ……母の記憶をこれからも大切にしたい。
俺にとって母が亡くなった後の日々があまりに過酷だったので、薄れて埋もれてしまったものも多いが、何かの拍子でまた思い出せるかもしれない。いや、もっともっと思い出したい。
「洋、おいで。今日は風呂はやめた方がいい。躰を蒸しタオルで拭いてやろう」
「あっ……そうか」
まだ頬の切り傷が痛むのを察してくれてたのか、丈はいつの間にか温かいおしぼりを幾つも用意してくれていた。
俺が弱っている時は、いつもにまして丈は優しくて頼りになるよな。
自分でもシャツのボタンを外したが、丈も俺の服を脱がすのを楽しんでいるようだった。
「おい? 丈、言っておくが今日は無理だぞ」
「何がだ?」
ふーん、しれっと聞いてくるんだな。
とにかく変な雰囲気になる前に、しっかり釘を刺しておかないと。
「その……してあげれないからな」
「分かっている。今は医師の手だ。そこを洋も肝に銘じて」
「うっ……分かってるよ」
こういう時は医師の顔をかざすんだなと苦笑してしまった。
俺、何を心配していたんだ?
上半身を温かいタオルで拭かれると心地良かった。今日は麻酔や縫合が怖くて変な汗もかいたし、汗臭いのではと心配してしまう。
「ほら手を上にあげて」
何故か両手首をまとめ頭上で固定され、壁に押し付けられた。
「うっ……お、おい? こんな姿勢必要か」
「あぁ、きちんと隅々まで拭けるだろう」
ちょっと待てよ。この姿勢は、猛烈に恥ずかしい。
タオルを持った丈の手が、脇腹から乳首を掠め鎖骨まで伸びてきて、脇の下にも……
「んんっ……くすぐったい」
「洋、まさか……感じていないよな?」
「うっ……感じてなんかない!」
丈は意地悪だ。
「そうか……よかった。では今度は下も拭こう」
「う……ん」
手は解放されたが、今度はカチャカチャとベルトを外されて、下着ごとずるっと降ろされた。俺、まだ反応してないよな。思わず下半身をチラッと盗み見してしまう。
俺の躰は丈によって五年かけて開発されまくったから、少しの刺激でも過敏に反応してしまう。それにしても丈は服を全部着ているのに、俺だけ真っ裸なんて恥ずかしい。
「丈、先にパジャマの上を着せてくれよ。俺だけ裸なんて恥ずかしい」
「あぁ、確かにそれもそうだな。風邪ひいたら困るしな」
丈はすぐに洗い立てのパジャマをふわっと着せてくれた。
「良かった。怪我したのは頬だけのようだな」
きっとそれを確認したかったんだよな。だからこんな風に俺を全裸に剥いて、隈なく眺めていたのだ。それが分かるから、俺も大人しくしている。
下半身も丁寧に拭いてもらった。手際よく性的なことを感じさせないようにあっという間に拭かれ、少し拍子抜けしてしまった。
「ふーん、丈はこういうの慣れているよな。仕事柄か、やっぱり」
「まぁな、入院患者さんが看護師さん全身を拭かれるシーンなど日常だし、まぁ見様見真似だが……あっ、もしかして気持ち良くならなくて不満か」
「ばっ馬鹿! もう寝る!」
急いでパジャマのズボンをはき、歯を磨いて、ベッドに潜り込んだ。それからついクセで右頬をシーツにつけて、小さな悲鳴をあげてしまった。マズい! こっちは縫った方だった。
「痛っ!」
「馬鹿だな、そっちを向くなんて」
「うっ……」
涙目になっていると、丈がやってきた。
いつも俺は丈の右隣に寝ていて、俺は横向きに……丈の方を向いて眠るから、つい怪我している右頬をついてしまったのだ。丈の心臓の音を聴きながら眠るのが好きだから癖になっているのに、気が付いた。
「ほら洋、今日は逆になろう」
丈は俺の左側に躰を横たえた。
「うん……」
俺はそっと左頬をつけて、丈の胸に手を置いた。
心臓の鼓動がトクトクと規則正しく聴こえる。
眠りを誘う振り子のように、鳴っている。
「これなら……眠れそうか」
「うん、ほっとする。あの……ごめんな」
「何を謝る? さぁもう……おやすみ」
こんな些細な気遣いが嬉しい。
丈が俺の気持ちを考えてくれ、俺も丈の気持ちを考えて眠る。
そんなさりげない思いが……重なる時が好きだ。
「美味しいな……これ」
「どれ?」
丈も口に含み、味わってくれた。
「ふーん、成程、洋はこういう味が好みか」
「うん……その、母さんの味と似ているから」
「ならば今度は私も作ってやろう」
「ありがとう!」
母はどんなに思慕しても、もう二度と会えない人だが、こんな風に『記憶』というもので、今でも触れることが出来るのだ。だからこそ……母の記憶をこれからも大切にしたい。
俺にとって母が亡くなった後の日々があまりに過酷だったので、薄れて埋もれてしまったものも多いが、何かの拍子でまた思い出せるかもしれない。いや、もっともっと思い出したい。
「洋、おいで。今日は風呂はやめた方がいい。躰を蒸しタオルで拭いてやろう」
「あっ……そうか」
まだ頬の切り傷が痛むのを察してくれてたのか、丈はいつの間にか温かいおしぼりを幾つも用意してくれていた。
俺が弱っている時は、いつもにまして丈は優しくて頼りになるよな。
自分でもシャツのボタンを外したが、丈も俺の服を脱がすのを楽しんでいるようだった。
「おい? 丈、言っておくが今日は無理だぞ」
「何がだ?」
ふーん、しれっと聞いてくるんだな。
とにかく変な雰囲気になる前に、しっかり釘を刺しておかないと。
「その……してあげれないからな」
「分かっている。今は医師の手だ。そこを洋も肝に銘じて」
「うっ……分かってるよ」
こういう時は医師の顔をかざすんだなと苦笑してしまった。
俺、何を心配していたんだ?
上半身を温かいタオルで拭かれると心地良かった。今日は麻酔や縫合が怖くて変な汗もかいたし、汗臭いのではと心配してしまう。
「ほら手を上にあげて」
何故か両手首をまとめ頭上で固定され、壁に押し付けられた。
「うっ……お、おい? こんな姿勢必要か」
「あぁ、きちんと隅々まで拭けるだろう」
ちょっと待てよ。この姿勢は、猛烈に恥ずかしい。
タオルを持った丈の手が、脇腹から乳首を掠め鎖骨まで伸びてきて、脇の下にも……
「んんっ……くすぐったい」
「洋、まさか……感じていないよな?」
「うっ……感じてなんかない!」
丈は意地悪だ。
「そうか……よかった。では今度は下も拭こう」
「う……ん」
手は解放されたが、今度はカチャカチャとベルトを外されて、下着ごとずるっと降ろされた。俺、まだ反応してないよな。思わず下半身をチラッと盗み見してしまう。
俺の躰は丈によって五年かけて開発されまくったから、少しの刺激でも過敏に反応してしまう。それにしても丈は服を全部着ているのに、俺だけ真っ裸なんて恥ずかしい。
「丈、先にパジャマの上を着せてくれよ。俺だけ裸なんて恥ずかしい」
「あぁ、確かにそれもそうだな。風邪ひいたら困るしな」
丈はすぐに洗い立てのパジャマをふわっと着せてくれた。
「良かった。怪我したのは頬だけのようだな」
きっとそれを確認したかったんだよな。だからこんな風に俺を全裸に剥いて、隈なく眺めていたのだ。それが分かるから、俺も大人しくしている。
下半身も丁寧に拭いてもらった。手際よく性的なことを感じさせないようにあっという間に拭かれ、少し拍子抜けしてしまった。
「ふーん、丈はこういうの慣れているよな。仕事柄か、やっぱり」
「まぁな、入院患者さんが看護師さん全身を拭かれるシーンなど日常だし、まぁ見様見真似だが……あっ、もしかして気持ち良くならなくて不満か」
「ばっ馬鹿! もう寝る!」
急いでパジャマのズボンをはき、歯を磨いて、ベッドに潜り込んだ。それからついクセで右頬をシーツにつけて、小さな悲鳴をあげてしまった。マズい! こっちは縫った方だった。
「痛っ!」
「馬鹿だな、そっちを向くなんて」
「うっ……」
涙目になっていると、丈がやってきた。
いつも俺は丈の右隣に寝ていて、俺は横向きに……丈の方を向いて眠るから、つい怪我している右頬をついてしまったのだ。丈の心臓の音を聴きながら眠るのが好きだから癖になっているのに、気が付いた。
「ほら洋、今日は逆になろう」
丈は俺の左側に躰を横たえた。
「うん……」
俺はそっと左頬をつけて、丈の胸に手を置いた。
心臓の鼓動がトクトクと規則正しく聴こえる。
眠りを誘う振り子のように、鳴っている。
「これなら……眠れそうか」
「うん、ほっとする。あの……ごめんな」
「何を謝る? さぁもう……おやすみ」
こんな些細な気遣いが嬉しい。
丈が俺の気持ちを考えてくれ、俺も丈の気持ちを考えて眠る。
そんなさりげない思いが……重なる時が好きだ。
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