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13章
花明かりのように 5
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足元に砂が入るのが気になり、途中で靴を脱ぎ捨てた。
裸足で大地を踏みしめると、砂が温かく感じた。
あ……呼吸しているのか!
大地も空も海も……俺も生きていると思った。
歩いた道を振り返ると、しっかりと砂浜に俺の軌跡が残っていた。
それが嬉しくて、そのまま夢中で海岸を走り回り、うっすらと汗をかきながらシーグラスを拾い続けた。
何も落ちていないと思う砂浜なのに、じっくり丁寧に見ていくと、宝石のようなシーグラスが、幾つも……至る所に埋もれているのが分かった。
これはまるで宝探しのようだ。
雪が映ったような摺りガラス色。まるでソーダがしゅわっと溶けたような水色。翡翠のようなグリーン。茶色のは……元はジュースの瓶だったのか。ゼリーのような見た目で面白いな。よしっ、これは丈にお土産だ。なんだか楽しくなり、いつの間にかポケットには沢山のシーグラスが入っていた。
「洋くん、そろそろ帰るぞ」
「あっ、はい!」
「ははっ」
「何がおかしいんですか」
唐突に流さんに笑われてしまい、困惑した。
「洋くんさぁ、無邪気に走り回って可愛いかったぞ。なんか俺はペットの散歩に来た気分だった」
「えっ! ペット!?」
「そっ可愛いワンコ!」
「そんな風に言われたことないです。どちらかというと猫っぽいと言われる方が多かったような……」
「くくくっ、そんなに真面目に取るなよ。ポケットをパンパンに膨らませて、あー可愛いな。堅物の丈が君にメロメロなの分かるぜ。さぁ帰ろう! じき日が暮れる」
帰りの車中で、俺は流さんに願い出ていた。
「あの……俺も、このシーグラスで何か作ってみたいです」
「へぇ、興味持ってくれて嬉しいよ。俺はさぁ、新居の窓の一部にこれを使ってステンドグラス風にしようと思ったが……そうだな、写真立てでも作ってみるか。それなら簡単だし」
「是非! 後で教えてください」
丈との思い出の写真を入れたいと思った。
丈と出逢って間もない頃、一緒に春の海を歩いたことがある。
あの時、虹を背景に写真を撮ったこと覚えているか。
あの写真は俺がずっと持っているよ。
あれを飾ろう。
だってあの虹は……遠い昔の洋月やヨウも見上げたものだから。
****
病院からの帰り道、ただひたすらに洋のことが気がかりだった。結局ひとりであの洋館に行かせてしまったな。もちろん私に仕事があったからだが、洋に付き添いたい気持ちを、グッと堪えて送り出したのだ。
あの様子では最初からは、おそらくすんなりとは洋を孫とは認めてもらえないかもしれない。その場合ショックを受けて、引き返すことになるだろう。
もしかして前のように私の病院に立ち寄ってくれるかもと思ってしまったが、その考えは打ち消した。
そんなに弱い事では駄目だ。この先、自分の力で乗り越えるために、洋の中で昇華していかないと……。
なんとも揺れ動く感情を抱えて過ごした、午後だった。
車で北鎌倉の駅前を通過し、月影寺への坂道を一気に登っていく。もしかして洋とすれ違うかもという淡い期待もあったが、いなかった。
少しだけ寂しい気持ちで駐車場に車を停め山門への階段を上り始めると、山門にもたれる人影が目に入った。
あのほっそりとしたシルエットは……洋だ。
「洋……どうした?」
「丈っ! お帰り」
洋は少し気恥ずかしそうに微笑んでいた。私が階段を登りきると彼も横に並んで、さりげなく手を繋いできた。
「……今日はさ、こうやって、丈を迎えてみたくなったんだ」
甘えたような笑顔を浮かべる横顔が、月光に照らされて麗しい。
さっきまでのどっちつかずのモヤモヤとした気持ちもすっと平らになるような、そんな喜びを洋が与えてくれた。
裸足で大地を踏みしめると、砂が温かく感じた。
あ……呼吸しているのか!
大地も空も海も……俺も生きていると思った。
歩いた道を振り返ると、しっかりと砂浜に俺の軌跡が残っていた。
それが嬉しくて、そのまま夢中で海岸を走り回り、うっすらと汗をかきながらシーグラスを拾い続けた。
何も落ちていないと思う砂浜なのに、じっくり丁寧に見ていくと、宝石のようなシーグラスが、幾つも……至る所に埋もれているのが分かった。
これはまるで宝探しのようだ。
雪が映ったような摺りガラス色。まるでソーダがしゅわっと溶けたような水色。翡翠のようなグリーン。茶色のは……元はジュースの瓶だったのか。ゼリーのような見た目で面白いな。よしっ、これは丈にお土産だ。なんだか楽しくなり、いつの間にかポケットには沢山のシーグラスが入っていた。
「洋くん、そろそろ帰るぞ」
「あっ、はい!」
「ははっ」
「何がおかしいんですか」
唐突に流さんに笑われてしまい、困惑した。
「洋くんさぁ、無邪気に走り回って可愛いかったぞ。なんか俺はペットの散歩に来た気分だった」
「えっ! ペット!?」
「そっ可愛いワンコ!」
「そんな風に言われたことないです。どちらかというと猫っぽいと言われる方が多かったような……」
「くくくっ、そんなに真面目に取るなよ。ポケットをパンパンに膨らませて、あー可愛いな。堅物の丈が君にメロメロなの分かるぜ。さぁ帰ろう! じき日が暮れる」
帰りの車中で、俺は流さんに願い出ていた。
「あの……俺も、このシーグラスで何か作ってみたいです」
「へぇ、興味持ってくれて嬉しいよ。俺はさぁ、新居の窓の一部にこれを使ってステンドグラス風にしようと思ったが……そうだな、写真立てでも作ってみるか。それなら簡単だし」
「是非! 後で教えてください」
丈との思い出の写真を入れたいと思った。
丈と出逢って間もない頃、一緒に春の海を歩いたことがある。
あの時、虹を背景に写真を撮ったこと覚えているか。
あの写真は俺がずっと持っているよ。
あれを飾ろう。
だってあの虹は……遠い昔の洋月やヨウも見上げたものだから。
****
病院からの帰り道、ただひたすらに洋のことが気がかりだった。結局ひとりであの洋館に行かせてしまったな。もちろん私に仕事があったからだが、洋に付き添いたい気持ちを、グッと堪えて送り出したのだ。
あの様子では最初からは、おそらくすんなりとは洋を孫とは認めてもらえないかもしれない。その場合ショックを受けて、引き返すことになるだろう。
もしかして前のように私の病院に立ち寄ってくれるかもと思ってしまったが、その考えは打ち消した。
そんなに弱い事では駄目だ。この先、自分の力で乗り越えるために、洋の中で昇華していかないと……。
なんとも揺れ動く感情を抱えて過ごした、午後だった。
車で北鎌倉の駅前を通過し、月影寺への坂道を一気に登っていく。もしかして洋とすれ違うかもという淡い期待もあったが、いなかった。
少しだけ寂しい気持ちで駐車場に車を停め山門への階段を上り始めると、山門にもたれる人影が目に入った。
あのほっそりとしたシルエットは……洋だ。
「洋……どうした?」
「丈っ! お帰り」
洋は少し気恥ずかしそうに微笑んでいた。私が階段を登りきると彼も横に並んで、さりげなく手を繋いできた。
「……今日はさ、こうやって、丈を迎えてみたくなったんだ」
甘えたような笑顔を浮かべる横顔が、月光に照らされて麗しい。
さっきまでのどっちつかずのモヤモヤとした気持ちもすっと平らになるような、そんな喜びを洋が与えてくれた。
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