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13章
慈しみ深き愛 8
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「翠、ちょっと味見してくれないか」
「うん、いいよ」
「ちらし寿司なんて久しぶりに作ったから、酢の具合はどうだろう?」
流に呼ばれて近寄ると、突然腰を抱かれ、抱き寄せられた。驚いて顔をあげると、そのまま顎を掴まれ、口の中にご飯を放り込まれた。
「強引な食べさせ方だね。うん……丁度いいよ、あぁそうか。どうして、ちらし寿司なのかと思っていたが、今日が『ひな祭り』だからなのか」
「そういうことだ。我が家は男所帯だが、今年は嫁さんを迎えて初めての節句だから張り切っているわけさ。それに洋くんは2月27日が誕生日だが、ソウルに行っていたので、当日祝うことが出来なかったので、それも兼ねてだ」
「洋くんの誕生日とひな祭りか。なんだかおめでたいね」
「そうだ。せっかくなら部屋も飾りつけしないか。そうだ、母さんの雛人形が確か納戸にあったような」
流の眼が、突然ワクワク、キラキラと輝き出した。
くすっ、流は結構イベント好きなんだよな。
「じゃあ、それを飾ってみるか」
「いいのか!」
「うん、僕が持ってくるよ、流は料理を続けてくれ」
「ちょっと待て。その……大丈夫なのか。もう目は霞まないか、頭は痛くないか」
流が僕の頬にそっと触れ、そのまま額に手をあててくれた。
あれ? これはいつも幼い頃、僕が流にしてあげた動作と同じだ。
こんな風に流の身体に染みついた動きは、僕が教えたことばかりなので、思わず微笑んでしまう。やっぱり流は……僕が育てたようなものだ。ずっとずっと大事な弟だった。もちろん今も……大事な弟で……大切な人。
「おいっ、どうして笑っている?」
「いや別に……行ってくるよ」
納戸に行くために廊下に出ると、薙が壁にもたれてスマホを弄っていた。
「あれ? 薙、こんな場所で何をしている? スマホばかりやって目が悪くなるよ」
「何、言ってんだよ、父さんたちが延々とイチャついてるから、部屋に入るに入れなかったのに」
「えっ……」
「まぁいいよ、もう慣れたし! でもオレの前はいいけど、他では気を付けた方がいいよ」
「な……」
まさか14歳の息子から、そんなことを言われる日が来るんなんて……脱力して、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「翠っ、どうした? やっぱり具合が悪いのか」
僕を目ざとく見つけた流が、血相を変えて駆け寄って来て、そのまま横抱きしようとしてくるから、更に顔が火照ってしまった。
「ち……違う! お前がそんなことばかりするからだ。もう離せっ」
流の手を振り解くと、呆れた表情を浮かべる薙と目が合った。
でも、薙はくすぐったそうに笑ってくれていた。
この子のこんな笑顔、久しぶりだ。幼い薙の面影を彷彿する笑い方に懐かしさが込み上げてくる。
「その、どんな父さんでも、もう嫌じゃないから安心しろよな!」
照れくさそうにそっぽを向いて言い放つ仕草が、まだ子供じみて可愛らしかった。流の手から離れた僕は、今度こそと、薙を抱きしめた。
「とっ……父さん? よ、よせって! オレはそういうの、慣れてない」
「ごめん。薙……少しだけ……こうさせてくれ」
まだまだ華奢な少年の身体……久しぶりに抱きしめる息子の甘い匂い。
さっきまでの具合の悪さが吹き飛ぶような、温かな気持ちになった。
「薙はポカポカだな。子供は体温が高いんだね」
「オレ、もう14歳だ」
「まだ14歳だよ」
****
居間に入ろうとして、ギョッとした。
父さんと流さんが、至近距離で何かしている。よくよく見れば、ちらし寿司を味見しているだけだったが、なんとも甘い雰囲気で、こっちが照れてしまう。
今入ったらお邪魔だろうと、廊下の壁にもたれてスマホを弄っていると、父さんに話し掛けられた。
やりとりしているうちに、父さんが突然オレを抱きしめてきたので、驚いた。
「とっ……父さん? よ、よせって! オレはそういうの、慣れてない」
「ごめん。薙……少しだけ……こうさせてくれ」
父さんの声は微かに震えていた。
父さんも緊張しつつオレを抱きしめているのだ。
じっとしていると、父さんの温もりを感じた。
相変わらず、手が冷たいな。
そう言えば小さい頃のオレ……よく父さんに抱っこされていたな。
まだ母さんと暮らしていた頃だから、5歳くらいか。
『なぎ、お膝においで』
『パパぁ』
『あぁ、お前は日溜まりみたいに暖かいね』
『パパ、さむいの?』
『うん……少しね』
『ふーん、じゃあボクがいっしょにいてあげる』
『ありがとう。なぎ……可愛い僕の息子』
あの頃の父さんはいつも元気がなくて、子供心に心配だった。でもオレを抱っこしてくれる父さんの心は、いつも優しく温かかった。
オレは……ちゃんと父さんに愛されて育ってきた。
これからも、そうだ。
あとがき(不必要な方はスルーで)
****
こんばんは!志生帆海です。
今日は、何となくほっこりした話を書きたかったのです。
いつも読んでくださってありがとうございます。
翠と流は私の中でもお気に入りCPです、皆さんはいかがでしょうか。
あんなにつっぱっていた薙が翠に優しい言葉をかけてくれると、
私も嬉しくなるという親心^^
ではまた明日♡
「うん、いいよ」
「ちらし寿司なんて久しぶりに作ったから、酢の具合はどうだろう?」
流に呼ばれて近寄ると、突然腰を抱かれ、抱き寄せられた。驚いて顔をあげると、そのまま顎を掴まれ、口の中にご飯を放り込まれた。
「強引な食べさせ方だね。うん……丁度いいよ、あぁそうか。どうして、ちらし寿司なのかと思っていたが、今日が『ひな祭り』だからなのか」
「そういうことだ。我が家は男所帯だが、今年は嫁さんを迎えて初めての節句だから張り切っているわけさ。それに洋くんは2月27日が誕生日だが、ソウルに行っていたので、当日祝うことが出来なかったので、それも兼ねてだ」
「洋くんの誕生日とひな祭りか。なんだかおめでたいね」
「そうだ。せっかくなら部屋も飾りつけしないか。そうだ、母さんの雛人形が確か納戸にあったような」
流の眼が、突然ワクワク、キラキラと輝き出した。
くすっ、流は結構イベント好きなんだよな。
「じゃあ、それを飾ってみるか」
「いいのか!」
「うん、僕が持ってくるよ、流は料理を続けてくれ」
「ちょっと待て。その……大丈夫なのか。もう目は霞まないか、頭は痛くないか」
流が僕の頬にそっと触れ、そのまま額に手をあててくれた。
あれ? これはいつも幼い頃、僕が流にしてあげた動作と同じだ。
こんな風に流の身体に染みついた動きは、僕が教えたことばかりなので、思わず微笑んでしまう。やっぱり流は……僕が育てたようなものだ。ずっとずっと大事な弟だった。もちろん今も……大事な弟で……大切な人。
「おいっ、どうして笑っている?」
「いや別に……行ってくるよ」
納戸に行くために廊下に出ると、薙が壁にもたれてスマホを弄っていた。
「あれ? 薙、こんな場所で何をしている? スマホばかりやって目が悪くなるよ」
「何、言ってんだよ、父さんたちが延々とイチャついてるから、部屋に入るに入れなかったのに」
「えっ……」
「まぁいいよ、もう慣れたし! でもオレの前はいいけど、他では気を付けた方がいいよ」
「な……」
まさか14歳の息子から、そんなことを言われる日が来るんなんて……脱力して、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「翠っ、どうした? やっぱり具合が悪いのか」
僕を目ざとく見つけた流が、血相を変えて駆け寄って来て、そのまま横抱きしようとしてくるから、更に顔が火照ってしまった。
「ち……違う! お前がそんなことばかりするからだ。もう離せっ」
流の手を振り解くと、呆れた表情を浮かべる薙と目が合った。
でも、薙はくすぐったそうに笑ってくれていた。
この子のこんな笑顔、久しぶりだ。幼い薙の面影を彷彿する笑い方に懐かしさが込み上げてくる。
「その、どんな父さんでも、もう嫌じゃないから安心しろよな!」
照れくさそうにそっぽを向いて言い放つ仕草が、まだ子供じみて可愛らしかった。流の手から離れた僕は、今度こそと、薙を抱きしめた。
「とっ……父さん? よ、よせって! オレはそういうの、慣れてない」
「ごめん。薙……少しだけ……こうさせてくれ」
まだまだ華奢な少年の身体……久しぶりに抱きしめる息子の甘い匂い。
さっきまでの具合の悪さが吹き飛ぶような、温かな気持ちになった。
「薙はポカポカだな。子供は体温が高いんだね」
「オレ、もう14歳だ」
「まだ14歳だよ」
****
居間に入ろうとして、ギョッとした。
父さんと流さんが、至近距離で何かしている。よくよく見れば、ちらし寿司を味見しているだけだったが、なんとも甘い雰囲気で、こっちが照れてしまう。
今入ったらお邪魔だろうと、廊下の壁にもたれてスマホを弄っていると、父さんに話し掛けられた。
やりとりしているうちに、父さんが突然オレを抱きしめてきたので、驚いた。
「とっ……父さん? よ、よせって! オレはそういうの、慣れてない」
「ごめん。薙……少しだけ……こうさせてくれ」
父さんの声は微かに震えていた。
父さんも緊張しつつオレを抱きしめているのだ。
じっとしていると、父さんの温もりを感じた。
相変わらず、手が冷たいな。
そう言えば小さい頃のオレ……よく父さんに抱っこされていたな。
まだ母さんと暮らしていた頃だから、5歳くらいか。
『なぎ、お膝においで』
『パパぁ』
『あぁ、お前は日溜まりみたいに暖かいね』
『パパ、さむいの?』
『うん……少しね』
『ふーん、じゃあボクがいっしょにいてあげる』
『ありがとう。なぎ……可愛い僕の息子』
あの頃の父さんはいつも元気がなくて、子供心に心配だった。でもオレを抱っこしてくれる父さんの心は、いつも優しく温かかった。
オレは……ちゃんと父さんに愛されて育ってきた。
これからも、そうだ。
あとがき(不必要な方はスルーで)
****
こんばんは!志生帆海です。
今日は、何となくほっこりした話を書きたかったのです。
いつも読んでくださってありがとうございます。
翠と流は私の中でもお気に入りCPです、皆さんはいかがでしょうか。
あんなにつっぱっていた薙が翠に優しい言葉をかけてくれると、
私も嬉しくなるという親心^^
ではまた明日♡
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