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13章
慈しみ深き恋 2
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忙しなく働く優也さんを見て、彼は繊細で真面目な性格なのだと改めて思った。細かいPC業務や会計関係に対してはスペシャリストだし、韓国語の通訳の腕も俺と一緒に働いていた時よりも格段に上がっていた。もう敵わないな。
一方Kaiは臨機応変な接客サービスに長けていて、二人はいいコンビだ。少し会わないうちに、足りない部分を補うような関係に、見事になっていた。
「洋、何だよ? そんなじっと見て、照れるぜ」
「いや、なんかいいなって思って」
「は? 何が」
Kaiは不思議そうに眼を細めた。
「二人は息が合っているね。力を合わせて何かを成し遂げるのって気持ちいいだろうし、やり甲斐もあるよな」
「あぁ、まぁな。俺と優也さんは、もうずっとここで暮らしていく約束を交わして、お互いに覚悟が出来たからかな。自分でも歯車が上手く噛み合っていると思うよ」
「へぇ……そういうものなのか。あ……でも優也さんは日本へ戻らなくて大丈夫なのか」
「あぁいろいろ話し合って、日本の会社は優也のお姉さんが継ぐことになったんだ。お姉さんには息子もいるしな」
「……そうだったのか」
知らないうちに、どんどん話が進んでいたようだ。
「俺たちは洋と丈さんみたいに、共に人生を歩んで行くよ。実はこの決意を報告したくて洋をソウルに呼んだんだ。それにさ、洋を呼べば、もれなく丈さんも付いてくるって目論みもあってな。ははっ!」
「……確かについて来たな。コイツっ」
そう言いながら俺たち四人は、顔を見合わせ笑い合った。
特別な式とかパーティーとか、そういう派手なお披露目ではなく、自然に日常に溶け込んで暮らしている二人を、しっかり見たよ。
Kaiと優也さんは、俺と丈のように、この先の人生を共に過ごす約束をしたのだ。
「そうだったのか! おめでとう。Kaiも優也さんも幸せに!」
「おぉ、ありがとうな。洋から改まって言われると照れるな。なぁ優也」
「うっ、うん」
優也さんは顔が真っ赤に染まっていた。そんな優也さんの肩をKaiがぐいっと抱き寄せる。
「へへへ……実は優也から、プロポーズしてもらったんだぜ。ある日……向日葵の花を抱えて突然やってきて」
「Kaiくん、そっそれは……」
「あれ? 優也さん、あの時の勢いはどうしたんだよ?」
「その……僕もしたけど、Kaiくんからもしてもらった」
「そうだよ。お互いに歩み寄ったんだ」
微笑ましいやり取りを見せてもらった。
Kaiと優也さんは対等になっていた。優也さんとKaiは同じラインに、同じ高さに立ち歩み出していた。
それにしても、あんなに深く暗く沈んでいた優也さんが、こんなにも生き生きとしている様子を目の当たりにすると、俺ももっと頑張ろうという気持ちが満ちてくる。隣に座っている丈も、どうやら同じことを考えているようだ。
「なぁ丈、二人みたいな関係っていいな」
「あぁ、だが洋だって、もう私と同じラインと高さに立っていると思うが」
「本当か……そんな風に思ってくれていたなんて、嬉しいよ」
丈からの思いがけない言葉に、心が躍った。
どんどん解き放っていこう!
ソウルに来て、改めて俺の原点を見つめ思ったこと。
もう過去に縛られない人生を歩むために──
過去とはヨウ将軍たちの過去だけでなく、俺が母を亡くしてから過ごした長く暗い年月のことも含まれている。
****
「洋、長い間お疲れ様。お陰でホテルは軌道に乗ったよ」
「良かったな。後は二人で頑張ってくれ」
「洋くん、ありがとう。来てくれて頼もしかったよ」
「優也さんもお元気で」
仲良さそうに寄り添うKaiと優也さんの影が優しく揺れていた。
俺は日本へ帰国する。
丈の元へ戻る。
ソウルに来て、一カ月が過ぎようとしていた。
気が付けばもう三月だ。
最初の一週間は、飛行機で隣り合わせたMIKAさんのことで掛かり切りだった。でもそれはすごく意義があることで、タルトンネ……あの土地で見た夜のと朝の風景を俺は忘れない。
特に朝──
……
小さな窓から朝日に照らされた街並を見下ろすと、また元の廃墟や瓦礫の散らばる雑多な街並みに戻っていた。なのに、そこから漲るパワーは夜感じた以上だった。
小さな家のドアが開き、次々に人が出てくる。
皆、まっしぐらに坂を下って街へと働きに行くのだ。
生きている。こんな瓦礫のような街の中でも、人は必死に生きて生活をしている。
どんな境遇でも生きようと思う気持ちがあれば、輝ける。
そのことを……身をもって俺に見せてくれているような気がした。
……
俺の人生は、まだまだ半ばだ。
やり直すことは出来ないが、この先は新しい道。
それを教えてくれた出会い。
丈も一度ソウルに来てくれた。
一番会いたい時に来て、俺を抱いてくれた。
俺と丈の愛は、確実に育っている。
そう感じる一夜だった。
Kaiと優也さんの幸せの欠片を土産に、俺は家に戻る。
ありがとう。ソウルでの一ヶ月──
また来るよ。
今度は翠さんと流さんも連れて……薙も一緒に。
皆で軌道に乗ったこのホテルに泊まりに来よう。
いつか叶える夢だ。
希望は大切な力──
一方Kaiは臨機応変な接客サービスに長けていて、二人はいいコンビだ。少し会わないうちに、足りない部分を補うような関係に、見事になっていた。
「洋、何だよ? そんなじっと見て、照れるぜ」
「いや、なんかいいなって思って」
「は? 何が」
Kaiは不思議そうに眼を細めた。
「二人は息が合っているね。力を合わせて何かを成し遂げるのって気持ちいいだろうし、やり甲斐もあるよな」
「あぁ、まぁな。俺と優也さんは、もうずっとここで暮らしていく約束を交わして、お互いに覚悟が出来たからかな。自分でも歯車が上手く噛み合っていると思うよ」
「へぇ……そういうものなのか。あ……でも優也さんは日本へ戻らなくて大丈夫なのか」
「あぁいろいろ話し合って、日本の会社は優也のお姉さんが継ぐことになったんだ。お姉さんには息子もいるしな」
「……そうだったのか」
知らないうちに、どんどん話が進んでいたようだ。
「俺たちは洋と丈さんみたいに、共に人生を歩んで行くよ。実はこの決意を報告したくて洋をソウルに呼んだんだ。それにさ、洋を呼べば、もれなく丈さんも付いてくるって目論みもあってな。ははっ!」
「……確かについて来たな。コイツっ」
そう言いながら俺たち四人は、顔を見合わせ笑い合った。
特別な式とかパーティーとか、そういう派手なお披露目ではなく、自然に日常に溶け込んで暮らしている二人を、しっかり見たよ。
Kaiと優也さんは、俺と丈のように、この先の人生を共に過ごす約束をしたのだ。
「そうだったのか! おめでとう。Kaiも優也さんも幸せに!」
「おぉ、ありがとうな。洋から改まって言われると照れるな。なぁ優也」
「うっ、うん」
優也さんは顔が真っ赤に染まっていた。そんな優也さんの肩をKaiがぐいっと抱き寄せる。
「へへへ……実は優也から、プロポーズしてもらったんだぜ。ある日……向日葵の花を抱えて突然やってきて」
「Kaiくん、そっそれは……」
「あれ? 優也さん、あの時の勢いはどうしたんだよ?」
「その……僕もしたけど、Kaiくんからもしてもらった」
「そうだよ。お互いに歩み寄ったんだ」
微笑ましいやり取りを見せてもらった。
Kaiと優也さんは対等になっていた。優也さんとKaiは同じラインに、同じ高さに立ち歩み出していた。
それにしても、あんなに深く暗く沈んでいた優也さんが、こんなにも生き生きとしている様子を目の当たりにすると、俺ももっと頑張ろうという気持ちが満ちてくる。隣に座っている丈も、どうやら同じことを考えているようだ。
「なぁ丈、二人みたいな関係っていいな」
「あぁ、だが洋だって、もう私と同じラインと高さに立っていると思うが」
「本当か……そんな風に思ってくれていたなんて、嬉しいよ」
丈からの思いがけない言葉に、心が躍った。
どんどん解き放っていこう!
ソウルに来て、改めて俺の原点を見つめ思ったこと。
もう過去に縛られない人生を歩むために──
過去とはヨウ将軍たちの過去だけでなく、俺が母を亡くしてから過ごした長く暗い年月のことも含まれている。
****
「洋、長い間お疲れ様。お陰でホテルは軌道に乗ったよ」
「良かったな。後は二人で頑張ってくれ」
「洋くん、ありがとう。来てくれて頼もしかったよ」
「優也さんもお元気で」
仲良さそうに寄り添うKaiと優也さんの影が優しく揺れていた。
俺は日本へ帰国する。
丈の元へ戻る。
ソウルに来て、一カ月が過ぎようとしていた。
気が付けばもう三月だ。
最初の一週間は、飛行機で隣り合わせたMIKAさんのことで掛かり切りだった。でもそれはすごく意義があることで、タルトンネ……あの土地で見た夜のと朝の風景を俺は忘れない。
特に朝──
……
小さな窓から朝日に照らされた街並を見下ろすと、また元の廃墟や瓦礫の散らばる雑多な街並みに戻っていた。なのに、そこから漲るパワーは夜感じた以上だった。
小さな家のドアが開き、次々に人が出てくる。
皆、まっしぐらに坂を下って街へと働きに行くのだ。
生きている。こんな瓦礫のような街の中でも、人は必死に生きて生活をしている。
どんな境遇でも生きようと思う気持ちがあれば、輝ける。
そのことを……身をもって俺に見せてくれているような気がした。
……
俺の人生は、まだまだ半ばだ。
やり直すことは出来ないが、この先は新しい道。
それを教えてくれた出会い。
丈も一度ソウルに来てくれた。
一番会いたい時に来て、俺を抱いてくれた。
俺と丈の愛は、確実に育っている。
そう感じる一夜だった。
Kaiと優也さんの幸せの欠片を土産に、俺は家に戻る。
ありがとう。ソウルでの一ヶ月──
また来るよ。
今度は翠さんと流さんも連れて……薙も一緒に。
皆で軌道に乗ったこのホテルに泊まりに来よう。
いつか叶える夢だ。
希望は大切な力──
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