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13章
解き放て 26
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凍てついた空気の中、どこよりも早く朝日が届くのがタルトンネの屋根裏部屋だ。
昨夜は慣れない場所に急に泊まることになり、着の身着のままで、ほとんど眠れなかったのはずなのに、すっきりと目覚めていた。
小さな窓から朝日に照らされた街並を見下ろすと、また元の廃墟や瓦礫の散らばる雑多な街並みに戻っていた。しかし、そこから漲るパワーは夜に感じた以上だった。
小さな家のドアが開き、次々に人が出てくる。皆、まっしぐらに坂を下って街へと働きに行くのだ。
生きている──
こんな瓦礫のような街の中でも、人は必死に生きて生活をしている。どんな境遇でも生きようと思う気持ちがあれば輝ける。そのことを身をもって俺に見せてくれている気がした。
「洋くん、おはよう」
「あっ……MIKAさん、おはよう、足の具合がどうです?」
隣の部屋から身支度を整えたMIKAさんが顔を覗かせていた。
「入ってもいい?」
「ええ、どうぞ」
「足ならもう大丈夫よ。伯母さんと洋くんの応急処置が良かったみたい。テーピングしてもらったから、もう歩けるわ」
「よかった!」
なんとなくこんなに朝早くから女性と会話するのに慣れていなくて、意識しているわけでもないのに、頬が火照るのを感じた。
「ふふふっ」
そんな俺の様子を見て、MIKAさんはクスクスと笑った。
「あの……何故、笑うんですか」
「ごめんなさい。洋くんほどの美形なら、女の子にモテモテだったはずなのに、私なんかに、そんな初心な反応するのが、可愛くて」
「か……可愛いって?」
MIKAさんは俺に対していろんな形容詞を使う。そうか……今度は可愛いと来たか。
「そんなに可愛いんじゃ……あなたのパートナーは、放っておけないでしょうね。心配でしょうね。あぁ、だからあんなに防犯グッズをもたされたのね、納得!」
「もう……それは言わないでください。恥ずかしいです」
あの空港での惨事を思い出すと、本当に恥ずかしい。男のくせに鞄一杯の防犯グッズなんて。でもあれのお陰で、少し荒れた街でも心強かった。迷いなく歩けた。
「でも洋くん、本当にありがとう。ここまで連れてきてくれて。ねぇ、外に出て、あの鳥の絵を間近で見てみない?」
「そうですね」
昨日下から見上げた屋根裏部屋の壁画を見るためにコートを羽織り、屋上に出てみた。
「あれ?」
MIKAさんと思わず顔を見合わせてしまった。
「昨日は二羽いるように見えた気がしたのに……」
「一羽しかいないですね」
「もしかして……私の母が……」
はっとふたりで空を見上げると、天高く飛ぶ白い鳥を見たような気がした。
「あぁ……そうなのね。これで母の最期の願いは叶ったのね。ここまで母に導かれるような旅だったな。日本に帰ったら、洋くんもお母さまの生まれ育った場所を探してね。きっといい事があるわ」
「ありがとう……MIKAさんと出会ったお陰だ。俺にとっても、いいきっかけになったよ」
その時俺のスマホが鳴った。丈からのモーニングコールだ。
「ごめん。ちょっといい?」
「ふふっ、洋くんの恋人さんからなのね」
そう聞かれて素直に頷いてしまった。MIKAさんにはもう隠し事をしなくていいと思った。こんな風に女性と接することが出来るのも、また初めての経験だった。
「もしもし、洋か」
「あぁ丈、おはよう」
「今日はちゃんと起きているようだな」
「うん、今日は早起き出来た」
「……それで、どこにいる?」
「えっ……なんで分かる?」
驚いてしまった。昨夜は電話できなかったので、今から詳しい事情を話そうと思ったのに。どうして俺がKaiの家にいないことを知っているのか。
「それは……洋の声が余所行きだからな、誰か近くにいるのか」
「え!」
流石、俺の丈だ……鋭すぎだろ!
昨夜は慣れない場所に急に泊まることになり、着の身着のままで、ほとんど眠れなかったのはずなのに、すっきりと目覚めていた。
小さな窓から朝日に照らされた街並を見下ろすと、また元の廃墟や瓦礫の散らばる雑多な街並みに戻っていた。しかし、そこから漲るパワーは夜に感じた以上だった。
小さな家のドアが開き、次々に人が出てくる。皆、まっしぐらに坂を下って街へと働きに行くのだ。
生きている──
こんな瓦礫のような街の中でも、人は必死に生きて生活をしている。どんな境遇でも生きようと思う気持ちがあれば輝ける。そのことを身をもって俺に見せてくれている気がした。
「洋くん、おはよう」
「あっ……MIKAさん、おはよう、足の具合がどうです?」
隣の部屋から身支度を整えたMIKAさんが顔を覗かせていた。
「入ってもいい?」
「ええ、どうぞ」
「足ならもう大丈夫よ。伯母さんと洋くんの応急処置が良かったみたい。テーピングしてもらったから、もう歩けるわ」
「よかった!」
なんとなくこんなに朝早くから女性と会話するのに慣れていなくて、意識しているわけでもないのに、頬が火照るのを感じた。
「ふふふっ」
そんな俺の様子を見て、MIKAさんはクスクスと笑った。
「あの……何故、笑うんですか」
「ごめんなさい。洋くんほどの美形なら、女の子にモテモテだったはずなのに、私なんかに、そんな初心な反応するのが、可愛くて」
「か……可愛いって?」
MIKAさんは俺に対していろんな形容詞を使う。そうか……今度は可愛いと来たか。
「そんなに可愛いんじゃ……あなたのパートナーは、放っておけないでしょうね。心配でしょうね。あぁ、だからあんなに防犯グッズをもたされたのね、納得!」
「もう……それは言わないでください。恥ずかしいです」
あの空港での惨事を思い出すと、本当に恥ずかしい。男のくせに鞄一杯の防犯グッズなんて。でもあれのお陰で、少し荒れた街でも心強かった。迷いなく歩けた。
「でも洋くん、本当にありがとう。ここまで連れてきてくれて。ねぇ、外に出て、あの鳥の絵を間近で見てみない?」
「そうですね」
昨日下から見上げた屋根裏部屋の壁画を見るためにコートを羽織り、屋上に出てみた。
「あれ?」
MIKAさんと思わず顔を見合わせてしまった。
「昨日は二羽いるように見えた気がしたのに……」
「一羽しかいないですね」
「もしかして……私の母が……」
はっとふたりで空を見上げると、天高く飛ぶ白い鳥を見たような気がした。
「あぁ……そうなのね。これで母の最期の願いは叶ったのね。ここまで母に導かれるような旅だったな。日本に帰ったら、洋くんもお母さまの生まれ育った場所を探してね。きっといい事があるわ」
「ありがとう……MIKAさんと出会ったお陰だ。俺にとっても、いいきっかけになったよ」
その時俺のスマホが鳴った。丈からのモーニングコールだ。
「ごめん。ちょっといい?」
「ふふっ、洋くんの恋人さんからなのね」
そう聞かれて素直に頷いてしまった。MIKAさんにはもう隠し事をしなくていいと思った。こんな風に女性と接することが出来るのも、また初めての経験だった。
「もしもし、洋か」
「あぁ丈、おはよう」
「今日はちゃんと起きているようだな」
「うん、今日は早起き出来た」
「……それで、どこにいる?」
「えっ……なんで分かる?」
驚いてしまった。昨夜は電話できなかったので、今から詳しい事情を話そうと思ったのに。どうして俺がKaiの家にいないことを知っているのか。
「それは……洋の声が余所行きだからな、誰か近くにいるのか」
「え!」
流石、俺の丈だ……鋭すぎだろ!
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