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13章
解き放て 24
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その夜、俺はなかなか寝付けなかった。
いつまでもタントルネの街が闇に包まれ、月光を浴びて輝く様子を窓辺で眺めていた。
瓦礫だらけの街だと思っていたのに、そうではない。この街は必死に生きている。だから夜という束の間の安息の時間に、街はこんなにも美しく静かに凪いでいるのだ。
人も傷だらけだからといって、死んでいるわけでない。必死に生きていればまた輝ける。そんなことを教えてくれるような場所だと思った。
俺の人生もそうだ。
ある意味、傷だらけだが、あの日から今日まで必死に生きて来たからこそ、今この景色を心穏やかに見ることが出来ているのだ。
タルトンネ──
まるで導かれたようにやってきた街。
「あら、洋くんも……眠れないの? 」
屋根裏部屋のバルコニーの窓に立っている俺に、MIKAさんが突然話しかけて来た。
「そういうMIKAさんこそ」
「うん、ちょっと興奮しちゃったみたい。私が知らない母の若い頃の話を沢山聞くことが出来たし、写真まで見せてもらえて、本当に嘘みたいよ。全部洋くんと知り合ったお陰だわ。飛行機でたまたま洋くんの隣に座れてラッキーだった。でも今日は丸一日こんなことに巻き込んでしまってごめんなさいね。あの……奥さん本当に心配していない?」
奥さんか、ずっとそのことをMIKAさんに心配されて居た堪れない気持ちだ。もう正直に話してしまおうか……
「……MIKAさん、そのことだけど……俺には奥さんなんていないんだ」
「えっ……どういう意味? だってその指輪は結婚指輪でしょう? 」
「うん……まぁ一緒に暮らすパートナーがいるんだ」
「え? あ……もしかして、そういうことなの? 」
もう嘘は嫌だった。まだよく知りもしない女性に、いきなりこんなことを告げるのは危険なのかもしれないが、不思議と心は落ち着いていた。
「今、とても大切な人と暮らしているんだ。あとそれから……俺の母も駆け落ちして……俺を産んだ人なんだ」
MIKAさんは目を大きく見開いていたが、やがて小さく深呼吸して、俺を受け入れてくれた。
「そうだったのね。あぁ……だからこんなに親身になってくれたのね」
「うん、君を放っておけなかった。MIKAさんが必死にお母さんの生家を探す様子を見ていて、俺も知りたくなったよ。俺の母がどんな家で産まれ育ったのか。ずっと触れてはいけない部分だと思っていたが、違うんだね」
MIKAさんは深く頷いていた。
「うん、私も来て良かった。知ることが出来て良かった。母の生まれや育ちを今日はじめて聞いて目にして……私という人間の存在が確固たるものになったような気がするわ。ずっとどこかあやふやだったことが、霧が晴れたような気分ようよ。洋くんもよかったら探してあげて。きっとお母さんも喜ぶわ」
「霧が晴れる思いか……それは味わってみたいな」
「応援してるわ。あなたの大切な人と共に見つけられるといいわね」
「うん……そうだね。MIKAさん、ありがとう」
いつまでもタントルネの街が闇に包まれ、月光を浴びて輝く様子を窓辺で眺めていた。
瓦礫だらけの街だと思っていたのに、そうではない。この街は必死に生きている。だから夜という束の間の安息の時間に、街はこんなにも美しく静かに凪いでいるのだ。
人も傷だらけだからといって、死んでいるわけでない。必死に生きていればまた輝ける。そんなことを教えてくれるような場所だと思った。
俺の人生もそうだ。
ある意味、傷だらけだが、あの日から今日まで必死に生きて来たからこそ、今この景色を心穏やかに見ることが出来ているのだ。
タルトンネ──
まるで導かれたようにやってきた街。
「あら、洋くんも……眠れないの? 」
屋根裏部屋のバルコニーの窓に立っている俺に、MIKAさんが突然話しかけて来た。
「そういうMIKAさんこそ」
「うん、ちょっと興奮しちゃったみたい。私が知らない母の若い頃の話を沢山聞くことが出来たし、写真まで見せてもらえて、本当に嘘みたいよ。全部洋くんと知り合ったお陰だわ。飛行機でたまたま洋くんの隣に座れてラッキーだった。でも今日は丸一日こんなことに巻き込んでしまってごめんなさいね。あの……奥さん本当に心配していない?」
奥さんか、ずっとそのことをMIKAさんに心配されて居た堪れない気持ちだ。もう正直に話してしまおうか……
「……MIKAさん、そのことだけど……俺には奥さんなんていないんだ」
「えっ……どういう意味? だってその指輪は結婚指輪でしょう? 」
「うん……まぁ一緒に暮らすパートナーがいるんだ」
「え? あ……もしかして、そういうことなの? 」
もう嘘は嫌だった。まだよく知りもしない女性に、いきなりこんなことを告げるのは危険なのかもしれないが、不思議と心は落ち着いていた。
「今、とても大切な人と暮らしているんだ。あとそれから……俺の母も駆け落ちして……俺を産んだ人なんだ」
MIKAさんは目を大きく見開いていたが、やがて小さく深呼吸して、俺を受け入れてくれた。
「そうだったのね。あぁ……だからこんなに親身になってくれたのね」
「うん、君を放っておけなかった。MIKAさんが必死にお母さんの生家を探す様子を見ていて、俺も知りたくなったよ。俺の母がどんな家で産まれ育ったのか。ずっと触れてはいけない部分だと思っていたが、違うんだね」
MIKAさんは深く頷いていた。
「うん、私も来て良かった。知ることが出来て良かった。母の生まれや育ちを今日はじめて聞いて目にして……私という人間の存在が確固たるものになったような気がするわ。ずっとどこかあやふやだったことが、霧が晴れたような気分ようよ。洋くんもよかったら探してあげて。きっとお母さんも喜ぶわ」
「霧が晴れる思いか……それは味わってみたいな」
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「うん……そうだね。MIKAさん、ありがとう」
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