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13章
解き放て 13
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「洋くん……」
「優也さん、すいません。俺……なぜか感傷的になってしまって」
「いや、僕なんて……女性とキスしたこともないから」
「そうなんですね」
「うん……僕と翔との話を少ししてもいいかな。なんだか僕も昔のことを思い出してしまったようだ」
「もちろんです」
なんでこんな話になったのか。
『向かい合って座って楽しむ』という意味を持つ韓国のワイン『マジュアン』の効力なのか。俺達はオンドルの床に温められ、お互い、いつもなら開けない心の扉を開いていた。
「僕はね……女性との経験が全くないまま、翔に抱かれたんだ。何もかも翔が初めてだった。22歳まで童貞で、キスすらしたことなかった」
「俺も似たようなもんですよ。でも翔さんとはどう経緯で?」
「最初は……翔は酔っぱらった僕を無理やり抱いたんだ。最初は誰だか分からなくてレイプされているのかと怖かったけど、翔だと分かったら何故か許せたんだ。僕は意識していなかったけど、翔を好きだったのだろうな。僕の恋愛の対象が男性だなんて、その時まで自分で気が付いていなかった。ただ女性と話すのは特に苦手で奥手だったと」
「そんな風に始まったのですか」
「うん、そこからはもうなし崩し的でね……結局、三年続いたよ」
「東谷さんですね……軽井沢で俺も会った」
「うん、そう……トーヤ・カケル、あぁ懐かしいな。久しぶりに呼んだけれども、なんかもう遠い昔のようだ」
「……昇華できたのですね」
「うん、そうだね。僕はもうソウルに根を下ろし、Kaiと生きていく覚悟が出来ているからね」
そう言いながら優也さんは穏やかで優しい眼差しで、床で眠っているKaiのことを見つめた。
「でも洋くんも僕もね……こんなに好きな人と躰を重ねているのに、まだそっちの意味では童貞なんて、なんか不思議だね」
「わっ、それ優也さんに言われると恥ずかしいですよ。くくっ……でも、確かにそうですね。頻度は普通のカップルよりも結構多いかも」
何だかだんだん楽しくなってきてしまった。酔いが回ったかな。丈の節操無しのお陰で、何度抱き潰されたことか……。Kaiも大型ワンコのように優也さんにメロメロになって懐いてるしな。きっと優也さんも沢山愛されているのだろう。そんなことを考えると心がポカポカになってきた。それにこんな込み入った話……誰ともしたことなかったので新鮮だ。
「うん……お互い受け入れる方はなかなか大変だね。なんど抱き潰されたか。って感じかな。ふふっ、あっそうだ。忘年会で変なものが当たってしまって」
「ん? なんですか」
変なもの……と聞いて、涼がふざけてくれたあのローターのことを思い出してしまった。そういえばあれどこに捨てたっけ? 確か……捨てようと思って置いておいたはずなのに、いつの間になくなっていたような。まさか丈が隠しもっているとか。ブルっと嫌な予感がした。
優也さんが棚の引き出しの中から何かを取り出し、持ってきた。
「まぁ……これはジョークで景品にしたみたいなんだけど……洋くんよかったら使ってみる?」
優也さんは床に置いたのは、大きなキャップのような見慣れぬ物体だった。
「えっと……何ですかこれ?」
見るのも触るのも初めてだ。
「えっと……その……マスターベーション用品だよ。男性専用の。テ〇ガという名前の商品で……ここにアレをいれると刺激を受けて、締め付けと絡みつきとか……あぁ……恥ずかしいな」
「ええっ! つまりアレですか……」
なんか俺って相当な無知なのか。こんな一見なんだか分からないような商品があるなんて知らなかった。優也さんも大人しそうな顔をしているのに結構やるなと感心してしまう程だ。
「うん、つまりあれだよ。これを使えば……疑似的だけど童貞を卒業できるんだ」
「わぁ……」
クラクラとしてくる。
俺も男だから一生童貞というのもどうかと、たまに思ったりもするわけで……あぁでもこんな誘惑って……参ったな。
「優也さんは、もうこれを使ったんですか」
「いや……勇気なくて。洋くん実はこれ二個あるんだ。だから今日一緒に卒業しない? 女性を抱くわけではないんだし、疑似的な体験を一生に一度位、僕たちもしてもいいんじゃないかな」
確かに……俺もいつもいつも丈に抱かれるばかりで……いやそれはそれでいいんだけど。俺が丈を抱くという所謂リバというものは絶対に考えられないから、道は一つって訳か。
「僕もひとりで使う勇気がなくてね……あっワインもっと飲む?」
「あっ、はい」
どうしよう。丈……俺も試してみてもいいか。
注いでもらったワインをぐいっと飲み干して、覚悟を決めた。
「やってみましょう! 一緒に卒業しましょう。優也さん」
「よし! じゃあ洋くんは隣の部屋を使うといいよ。はい、これどうぞ」
ポンっとそのグッズを手渡されて、心臓が跳ねた。
「優也さんも一緒にですよね? 裏切らないでくださいよ」
「もちろんだよ。じゃあ一緒に疑似卒業だね」
****
隣の部屋は優也さんの書斎らしく、ベッドはないが大きなソファが置いてあった。そのソファを背もたれにするように、床に腰かけて、一気に脱力した。
ふぅ……なんでこんなことになったのか。
どうしてやるって言ってしまったのか。
ひとりでソウルに来て仕事で女性と接する機会も多くなり、気が大きくなったのか。
これは丈を裏切る行為にはならないよな?
ふと丈との電話でのやりとりが蘇った。
あの製薬会社で丈の助手をしていた女性……確か日野暁香さん。彼女と丈は以前、恋人同士のようなもので、何度も寝ていたんだ。それはもちろん俺と知り合う前のことだ。とやかく言える筋合いはない。でも嫉妬心が今でもないわけじゃない。
彼女は男性から見たらとても魅力的に映るのだろう。部署の同期の話題にもいつも上っていたし……「日野さんはいい躰してるよな。一度でいいから抱いてみたい」っと……
丈は何度も経験したことだ。
俺が一度くらい疑似体験したっていいよな。
そう思い意を決して、自分の下半身にそっと触れてみた。それからまだ縮こまっている屹立を撫でていく……こんな風にひとりでマスターベーションするのは、随分ご無沙汰だ。
本当にいつぶりだろう。
北鎌倉の離れをリフォームしてからは、そんな暇がないほど連日丈に抱かれていたので、必要なかったんだなと思うと苦笑してしまった。
もう数えきれない程の夜を共に過ごしている。丈とは……
「優也さん、すいません。俺……なぜか感傷的になってしまって」
「いや、僕なんて……女性とキスしたこともないから」
「そうなんですね」
「うん……僕と翔との話を少ししてもいいかな。なんだか僕も昔のことを思い出してしまったようだ」
「もちろんです」
なんでこんな話になったのか。
『向かい合って座って楽しむ』という意味を持つ韓国のワイン『マジュアン』の効力なのか。俺達はオンドルの床に温められ、お互い、いつもなら開けない心の扉を開いていた。
「僕はね……女性との経験が全くないまま、翔に抱かれたんだ。何もかも翔が初めてだった。22歳まで童貞で、キスすらしたことなかった」
「俺も似たようなもんですよ。でも翔さんとはどう経緯で?」
「最初は……翔は酔っぱらった僕を無理やり抱いたんだ。最初は誰だか分からなくてレイプされているのかと怖かったけど、翔だと分かったら何故か許せたんだ。僕は意識していなかったけど、翔を好きだったのだろうな。僕の恋愛の対象が男性だなんて、その時まで自分で気が付いていなかった。ただ女性と話すのは特に苦手で奥手だったと」
「そんな風に始まったのですか」
「うん、そこからはもうなし崩し的でね……結局、三年続いたよ」
「東谷さんですね……軽井沢で俺も会った」
「うん、そう……トーヤ・カケル、あぁ懐かしいな。久しぶりに呼んだけれども、なんかもう遠い昔のようだ」
「……昇華できたのですね」
「うん、そうだね。僕はもうソウルに根を下ろし、Kaiと生きていく覚悟が出来ているからね」
そう言いながら優也さんは穏やかで優しい眼差しで、床で眠っているKaiのことを見つめた。
「でも洋くんも僕もね……こんなに好きな人と躰を重ねているのに、まだそっちの意味では童貞なんて、なんか不思議だね」
「わっ、それ優也さんに言われると恥ずかしいですよ。くくっ……でも、確かにそうですね。頻度は普通のカップルよりも結構多いかも」
何だかだんだん楽しくなってきてしまった。酔いが回ったかな。丈の節操無しのお陰で、何度抱き潰されたことか……。Kaiも大型ワンコのように優也さんにメロメロになって懐いてるしな。きっと優也さんも沢山愛されているのだろう。そんなことを考えると心がポカポカになってきた。それにこんな込み入った話……誰ともしたことなかったので新鮮だ。
「うん……お互い受け入れる方はなかなか大変だね。なんど抱き潰されたか。って感じかな。ふふっ、あっそうだ。忘年会で変なものが当たってしまって」
「ん? なんですか」
変なもの……と聞いて、涼がふざけてくれたあのローターのことを思い出してしまった。そういえばあれどこに捨てたっけ? 確か……捨てようと思って置いておいたはずなのに、いつの間になくなっていたような。まさか丈が隠しもっているとか。ブルっと嫌な予感がした。
優也さんが棚の引き出しの中から何かを取り出し、持ってきた。
「まぁ……これはジョークで景品にしたみたいなんだけど……洋くんよかったら使ってみる?」
優也さんは床に置いたのは、大きなキャップのような見慣れぬ物体だった。
「えっと……何ですかこれ?」
見るのも触るのも初めてだ。
「えっと……その……マスターベーション用品だよ。男性専用の。テ〇ガという名前の商品で……ここにアレをいれると刺激を受けて、締め付けと絡みつきとか……あぁ……恥ずかしいな」
「ええっ! つまりアレですか……」
なんか俺って相当な無知なのか。こんな一見なんだか分からないような商品があるなんて知らなかった。優也さんも大人しそうな顔をしているのに結構やるなと感心してしまう程だ。
「うん、つまりあれだよ。これを使えば……疑似的だけど童貞を卒業できるんだ」
「わぁ……」
クラクラとしてくる。
俺も男だから一生童貞というのもどうかと、たまに思ったりもするわけで……あぁでもこんな誘惑って……参ったな。
「優也さんは、もうこれを使ったんですか」
「いや……勇気なくて。洋くん実はこれ二個あるんだ。だから今日一緒に卒業しない? 女性を抱くわけではないんだし、疑似的な体験を一生に一度位、僕たちもしてもいいんじゃないかな」
確かに……俺もいつもいつも丈に抱かれるばかりで……いやそれはそれでいいんだけど。俺が丈を抱くという所謂リバというものは絶対に考えられないから、道は一つって訳か。
「僕もひとりで使う勇気がなくてね……あっワインもっと飲む?」
「あっ、はい」
どうしよう。丈……俺も試してみてもいいか。
注いでもらったワインをぐいっと飲み干して、覚悟を決めた。
「やってみましょう! 一緒に卒業しましょう。優也さん」
「よし! じゃあ洋くんは隣の部屋を使うといいよ。はい、これどうぞ」
ポンっとそのグッズを手渡されて、心臓が跳ねた。
「優也さんも一緒にですよね? 裏切らないでくださいよ」
「もちろんだよ。じゃあ一緒に疑似卒業だね」
****
隣の部屋は優也さんの書斎らしく、ベッドはないが大きなソファが置いてあった。そのソファを背もたれにするように、床に腰かけて、一気に脱力した。
ふぅ……なんでこんなことになったのか。
どうしてやるって言ってしまったのか。
ひとりでソウルに来て仕事で女性と接する機会も多くなり、気が大きくなったのか。
これは丈を裏切る行為にはならないよな?
ふと丈との電話でのやりとりが蘇った。
あの製薬会社で丈の助手をしていた女性……確か日野暁香さん。彼女と丈は以前、恋人同士のようなもので、何度も寝ていたんだ。それはもちろん俺と知り合う前のことだ。とやかく言える筋合いはない。でも嫉妬心が今でもないわけじゃない。
彼女は男性から見たらとても魅力的に映るのだろう。部署の同期の話題にもいつも上っていたし……「日野さんはいい躰してるよな。一度でいいから抱いてみたい」っと……
丈は何度も経験したことだ。
俺が一度くらい疑似体験したっていいよな。
そう思い意を決して、自分の下半身にそっと触れてみた。それからまだ縮こまっている屹立を撫でていく……こんな風にひとりでマスターベーションするのは、随分ご無沙汰だ。
本当にいつぶりだろう。
北鎌倉の離れをリフォームしてからは、そんな暇がないほど連日丈に抱かれていたので、必要なかったんだなと思うと苦笑してしまった。
もう数えきれない程の夜を共に過ごしている。丈とは……
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