重なる月

志生帆 海

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13章

解き放て 10

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「洋、いつまで電話してんだ? 早く風呂に入って眠れよ。疲れが取れないだろう」

 丈と電話をしているとKaiが平気な顔をして部屋に入って来たから焦った。いや、ここはKaiの部屋だから当たり前なのか。それにしても……今、俺たちの会話、絶対変な方向に行きそうだったよな。危なかった。

「もしかして、Kaiが近くにいるのか」
「あっうん。俺が泊らせてもらっていた部屋の暖房設備の調子が悪くてね……あっ、ほらオンドルだよ。こっちの床暖房。あれが壊れていると寒くて死にそうだよ。ソウルの冬は相変わらず厳しいよ」
「洋、何か隠してないか」
「いや……その、だから」
「まさかKaiの部屋に泊まるのか」
「いやいや、そうじゃなくて……Kaiと優也さんの部屋というのが正確なのかな、二間続きの部屋にお邪魔しているんだ」
「なんだって? Kaiにかわってくれ」
「あ、あぁ……だが丈、言っておくが、お邪魔なのは俺の方だからな。二人の間に入り込んで」

 Kaiは風呂上りらしく上半身裸でタオルを肩にかけている。

 ったく、いくらこの部屋がオンドルがよく効いてポカポカだからって、そんな恰好で出てくるなんて、目のやり場に困る。いやいや俺は男だ。その考えはおかしいよな。頭をブンブン横に振ってしまった。そんな慌てふためく俺を、Kaiが見つめて肩を揺らした。

「おーい、そう意識すんな、男同士なんだから気にすんなよ。丈さんにかわるんだろ? ハイハイっと」

 男同士なのは分かるが、なんかまだ慣れてなくて……優也さんのことを探してしまった。

****

 洋の慌てふためく様子がおかしくて可愛くて、揶揄ってしまった。ちゃんと上着を着ないと優也さんに風邪をひくと怒られてしまうのに……それから心配症すぎな洋の恋人の丈さんにも悪いことしたかな。

「もしもし丈さん? はははっ! すみません。洋は今日も元気に頑張っていましたよ。それがですね、洋の部屋のオンドルが急に動かなくなってしまって。明日修理に来てもらいます。そんなわけで極寒の部屋になってしまったから、今日は俺たちの部屋に呼んだわけで……ええ、優也さんもいるし男同士水入らず? ってことで気にしないでくださいよ。俺達は本来ただの男同士なんだから、意識しすぎるのも変ですよね」
「まぁ……そうだが。Kaiくんのことは信頼しているからいいのだが」

 丈さんは、少し複雑そうな様子だった。

 なんか久しぶりに洋単独で会ったせいなのかな。それに洋が空港に成り行きで女性連れで現れ、ホテルでもモニターの女性と接している姿ばかり見ていたせいなのか、あの守ってやらないといけないと思い続けていた洋はどっかに吹っ飛んでしまって、男友達とワイワイやっているような気分になっているのが本音だ。

 洋は変わらず美人で、よからぬ男に狙われてもおかしくない危うく儚げな部分は確かにまだある。だから丈さんが心配するのは分かるのだが、俺の中ではもう違っていた。

 丈さんもそんな俺の気持ちを、察してくれたようだ。

「でも嬉しい気持ちもある。洋のことを対等に扱ってくれて。あいつは男友達が少ないから。いや……それは私にもいえることだが、人付き合いが苦手だったから、君みたいな人が友人になってくれるのは有難い」
「へへっ、そうですか。俺も嬉しいです。お互い役目を終えた身ですから……だから男同士、いい友人として付き合っていけそうです」
「ただ、あまり洋を苛めないでやってくれ、まだまだ免疫がないのだから」
「……みたいですね」

 確かに目のやり場に困っている洋の様子は、気の毒なほどだ。

「あっそうだ! 明日は洋にはMIKAさんと行動してもらいますが、くれぐれも心配しないでくださいね。洋はちゃんと紳士ですよ」
「あぁ全部洋から聞いているよ。洋が紳士か……なるほどな」

 うーん、丈さんも洋も、可愛いよな。
 ふたりの間に入って、ウキウキしてる俺も可愛いが。

「あっ……Kai駄目じゃないか。そんな恰好をしていたら風邪をひくだろう。ほらっ早くちゃんと上着を着て! もう何度注意したか覚えている? 今度やったら本気で怒るよ」

 あちゃー優也さんに怒られる前に上着を着ようと思っていたのに、見つかってしまった。こういう所、優也さんは妙に先輩風を吹かすんだよな。

 ふたりきりなら、このまま優也さんをベッドに押し倒して、俺が逆転リードするのに……洋が今日は傍にいるのか~っと、今度はこっちが苦笑してしまった!

「まぁ……俺も頑張りますよ。いろんな意味で!」

 そう告げて電話を切った。








あとがき(不要な方はスルーで)





****

こんにちは、志生帆海です。
いつも読んでくださって、ありがとうございます^^
重なる月も1000話を超え、いつ終わりになってもおかしくないのかなとも。
そのせいなのか、お気づきかと思いますが、最近は今までになかった視点から書いています。
実は私の中で萌え設定は、受けもちゃんと『男』だってことです♪
そんな部分を少し最近掘り下げ、女性と関わらせたりもして……まぁ丈と洋は揺らぐはずないのですが、新鮮な気分です。ソウル編、このまま自分の萌えに忠実に進みますね!!


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