重なる月

志生帆 海

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13章

安志&涼編 『僕の決意』19

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 ふと目覚めた時、昨夜の僕の部屋に引き戻されたような錯覚に陥って、ひやりとした。でもすぐに安志さんの匂いが届いたので、愛しい人の優しい腕に包まれているのが分かり、安堵した。

 そうか……ここは月影寺だった。

 安志さんだと認識すると、無性に欲しくなった。安志さんを。

 僕ってこんなに節操無しなのかと思うほどの情動に突き動かされて、気が付いたら僕の方から安志さんに覆い被さって、唇を奪っていた。

 受け留めた安志さんの躰が、ビクッとした。

 驚いたよね。僕が突然こんな行動するなんて。

「……安志さん、起きてる?」
「あぁ、一体どうした?」
「僕は……安志さんが……好き……」

 そしてそのまま求めた。

「……抱いて欲しいんだ」

 安志さんは怪訝な顔をした。

 それもそうだろう。今までこんな風に、僕から強く熱く求めたことはない。

 それというのも……全部、昨夜のBillyとの一夜の影響だ。Billyが最後の理性を捨てず、なんとか踏みとどまってくれたから、何もなく終わった。友人というラインを辛うじて維持できた。

 僕はあの時、護身術のお陰でちゃんと抵抗出来た。その後は下手に意識し過ぎてはよくないと、必死に平然を装ったが、本当は怖かった。

 親友だと思っていたBillyからの突然の熱いキス。しかも身動きが出来ないように手を壁に押し付けられ、一気に強い力で奪われた。長い時間、口腔内を駆け巡っていった安志さんじゃない男からのキスに焦り、恐怖で震えていた。

 本当は同じ部屋にいるのは無理とも思ったが、日本に不慣れな上に股間に打撲を負って痛がるBillyを無下に追い出すこともできず、友人を貫こうとしてくれた彼を信じて一緒に眠った。

 一つのベッドで躰が密着するような距離で、最初は緊張が解けなかったが、いつの間にか……ちゃんと眠っていたと思う。

 でも心は眠っていなかった。

 だからなのかな。安志さんに会った途端、ほっとして、月影寺の安心できるメンバーに囲まれ、洋兄さんの幸せそうな姿を見ていたら、もっとほっとして、すごく眠たくなってしまった。

「涼?」
「安志さん……もっとキスして」

 僕の方から安志さんに更に強請った。そのまま僕はもう一度安志さんの唇に触れた。今度は安志さんもそれに応えるように、僕の後頭部と腰に手を回し、きついほど抱きしめてくれた。

 少し唇を開くと、舌を挿入してくれた。大好きな人からの口づけを目を閉じて味わった。上下の唇を甘く噛まれたり、舌を絡められたり、次第に動きが激しくなり口腔内を自由自在に操られていく。少しも嫌じゃない。気持ちいい。
 
 安志さんとのキスは……好きな人とのキスは気持ちいい。

「んっ……んぅ、うっ……んぁっ……!」

 キスだけで……こんなによがってしまうなんて、自分でも驚いた。

 同時に僕はこんなにも安志さんのキスが欲しかったのだと思った。Billyとのキスを忘れさせて欲しいと心の奥底で願っていた。もっともっと……強請るような仕草をしたら、安志さんが突然キスをやめてしまった。

 えっ……なんで?

 安志さんは身を起こし、僕と真正面で向き合った。
 とても真剣な表情だ。

「涼……やっぱり昨夜、何かあったんだな」
「……」
「あー、やっぱり。気が付かなくてごめん。どうした? 俺には言えないこと?」
「……う……ん」
「怒らないから言ってみろ。心配になるだろう。さっきみたいな求め方されたら」
「うん……」

 言えない。やっぱり言えないよ。安志さん以外の男とキスしたなんて。だから僕は唇をぎゅっと噛みしめるしかなかった。

「その……昨日泊めてやった奴に……無理矢理キスでもされた?」
「えっ! それ、なんで!」

 うっ……反応してしまってから、鎌をかけられたことに気が付いた。

「はぁ……やっぱりな。さっきから様子変だったしな」

「ご、ごめんなさい。ずっと大事な友人だったから油断していて、かなりショックだった。でもあいつも……なんとか理性を保ってやめてくれて、ちゃんと詫びて、必死に友人を貫こうとしてくれたから、僕も無理して、いや違うっ、信じたくなって。普通の友人として一夜を過ごして別れたかったから、僕の意志であいつと一つのベッドで眠った。もちろん何もなかった。朝になったらもう友人の顔に戻っていたし」

 安志さんには全部伝えたいから、必死に弁明していた。
 反応が怖い……。

「そっか。くそっあの野郎……っと、涼、ちゃんと話してくれて嬉しい」
「安志さん……僕は本当は怖かった。アイツに本気だされたら敵わないから」
「涼、偉かったな。そんな目にあっても、冷静に対応して、がんばったな」
「うっ……うん」

 安志さんに「がんばったな」と言ってもらえて嬉しい。

「それに友人を最後まで信じてあげたんだな」
「うん、アイツはいい奴だから……信じたいと思った」
「そうか、その考え好きだな。俺には、そいつの気持ちも分かるよ。だから涼がそういう対応してくれて、友人として信頼するのをやめないでくれてさ、なんだか嬉しかった」
「え?」

 もしかしてそれは洋兄さんとのことを言っているのかな。でも、もう何も聞かなくても、僕は安志さんのことを信じている。

「おいで、涼」

 安志さんがどこまでも温かく優しく微笑みながら、見つめてくれている。それだけで、躰の芯まで温まるような癒しをもらえる。

「うん……僕は……安志さんに触れてもらいたかった」

 ぎゅっとしてもらいたくて……そのまま抱きついた。

 安志さんにも僕の気持ちが伝わったようで、深く強く抱きしめてくれた。だから二人の躰がまるでひとつになるような程、ぴったりときつく抱き合った。
 
「好き……」
「好きだ」

 愛を語る言葉が自然に重なっていく……





あとがき(不要な方はスルーで)



****

志生帆 海です。
ようやく涼は、少し怖かったという素直な気持ちを、漏らすことが出来ましたね。実は友人のポジションを崩さないように、Billyの前では必死に頑張っていたのですね。さぁこれでようやく安志とゆっくりと抱き合えますね。

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