重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
1,056 / 1,657
13章

安志&涼編 『僕の決意』18

しおりを挟む
「じゃあ、安志と涼はこの部屋を使ってくれ。その……昨日と違う部屋にしておいたから、大丈夫だ」

 洋に通されたのは、昨日とは違う寺の離れの宿坊の一室。六畳ほどの和室でこじんまりしているが、よく手入れされていた。布団が既に二つぴったり並んで敷かれているのが、なんだか照れ臭かった。

「ん?ははっ、もうヘマはしないよ。それに今日はちゃんと涼だ」
「……だなっ」
「洋、クリスマスから正月にかけて、いろいろありがとうな。涼は最近疲れていたんだ。モデルの仕事が軌道に乗ったのはいいが、いろいろ気を遣うことが多いし、自由な外出もままならなくて……俺には弱音を吐かないが」
「そうみたいだね。涼はお酒も飲んでないのに、こんなに熟睡しちゃうなんて」
「あぁきっと涼はもう朝まで起きなさそうだ」

 横抱きにして連れて来た涼を、そっと布団の上に下ろした。

「目を瞑っていると、やっぱりまだまだ洋に似てるな」
「そうか?もう安志の……涼だな。まだまだ幼い所もあるけど、お前の恋人として奮闘してるよ」
「あぁ、すごい頑張り屋だよ」
「ずっと傍にいてやってくれ。ちゃんと守ってやってくれ」
「もちろんだよ」

 そう答えると洋は嬉しそうに、花のように笑った。洋にとって血の繋がった大事な従兄弟の涼は、俺にとってもかけがえのない人だよ。

 洋は「ここは宿坊だけど……新年なので泊り客は誰もいない。風呂もちゃんとついているし入れるようにしてある」としつこい程、念を押してから、離れに戻っていった。

 おいおい、もしかしてそれって俺達への気遣いなのか。

 あーでもかわいい涼は残念ながら夢の中だ。

 暫くじっと待ってみたが、規則正しい寝息しか聞こえてこない。これってお預けくらった犬みたいんだなと苦笑してしまった。

 結局起きる気配もないので、諦めて俺も涼の隣で眠ることにした。

 ぐっすり眠っている涼は目を覚ますことはなかったので、俺の腕の中にすっぽりと抱きしめてみた。ほっそりとしたまだ少年のような躰を抱きしめ、項にキスすると、途端に甘い香りが漂った。ふぅ……洋とはまた別のいい香りだ。おっと昨夜のことは忘れないと!

 それにしても、こんなにも綺麗で可愛い子が俺のことを好きでいてくれるなんて、まだたまに夢みたいだと思ってしまう。

 俺はちゃんと、その愛と同等のものを涼に返せているだろうか。

 涼とクリスマスに誓ったように、お互いに歩み寄って過ごす一年にしたい。

 今宵は涼の甘い香りに誘われるように、深く穏やかな幸せな眠りに落ちていくだろう。でも今日は下半身は擦り付けないぞ。昨日懲りたからな。こうやって抱きしめているだけでも、とても幸せなんだ。 

 ところが俺がうとうとと微睡んでいると、突然涼がムクっと起き上がった。そして「起きたのか」と言う前に、突然キスしてきた。

「んっ?」

 えっと……涼からのキスなんて珍しいな。一体どうしたんだ?

「……安志さん、起きている? 」
「あぁ、どうした? 」
「……好きだ」

 どこか切羽詰まったような、切ない声だった。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

処理中です...