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13章
安志&涼編 『僕の決意』15
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「洋、俺さ……今から涼を迎えに行ってくるよ」
「でもお前、まだ酒抜けきってないぞ。っていうか、みんな飲みすぎだよな」
「はは、ちゃんと電車で行くよ」
「そうだな。それがいい。あっ電車に乗るのならば涼は変装した方がいいかも。だいぶ顔が売れていているからな。えっとサングラス持ってくるよ」
「ありがとな。ここ月影寺は……俺たちにとってもオアシスになっているよ」
「そうか。なら、よかったよ」
洋の花のような笑顔は、今年も健在のようだ。
洋の笑顔は、月下に咲く花のように静かで優美なんだよな。涼の笑顔は弾けるように爽快で夏の香りがするのに。
しかし一夜明けて……洋にまだ酒臭いとか風呂に入れとか、あれこれ口喧しく指示されたので、驚いた。
洋って、こんな性格だったか。
昨日は実家で散々飲みなれない酒を飲んだ挙句に月影寺に潜り込み、とんでもない失態を犯したのは、はっきりと覚えている。しかもその後、月影寺のメンバーで更に酒を煽ったという弾けっぷりだ。まぁ正月らしいか、これも。
流石に風邪気味で今日も朝から仕事がびっちり入っている翠さんだけは、自ら退出したが、流さんの方はとんでもない酒豪だった。この俺が勝てないなんて。
丈のご両親とも結婚式以来、改めてきちんと(多分)挨拶できたし、丈も久しぶりに実家で迎える新年を心から楽しんでいるようだった。
そして洋はお酒を皆に注いだり料理の補充をしたりと、意外な程よく働いていた。
洋って、こんなに気がつく奴だったっけ?
いつも寂しそうで悲し気で俯いていた洋が、ずっと顔をあげて笑っている。
もうそれだけで感無量だよ。そして記憶をもっと前まで辿ると……まだ洋の本当の両親が健在だったころの幸せな日々の情景が蘇ってきた。
小学校に入学式、桜のアーチを俺と手を繋いで歩いて女子に揶揄われたこととか、公園で秘密基地を作ったこと。泥遊びもかけっこも、洋は何でも嬉しそうに付き合ってくれた。
走るとすぐに頬が赤くなって、いつも一生懸命で可愛くて、本当に学校にいる時も、下校してからも、ずっと仲良しだった。
今日の洋の姿は、その頃の表情を彷彿させる。まだ酔いが覚めきっていないのか、少し頬を赤く上気させ、周りをよく見てよく動く。
洋……お前、ここに来ていい感じだな。
言葉は違うが、あぁ、本当に洋は丈さんの『嫁さん』になったのだと妙にしみじみと思ってしまった。親父臭いかな……俺。洋の保護者の気分だぜ。
同時に猛烈に涼に会いたくなった。俺の隣に涼がいないのが寂しい。だから朝になって少しでも涼と一緒の時間を増やしたくて、電車で迎えに行くことにした。
モデルとしてメジャーになった涼を電車で連れ歩くのはどうかと思ったが、そもそも男同士でつきあっているとは普通結びつかないだろう。だから大丈夫だ。仮にバレても男の友人と出かけていると思われるだけだろう。
あっ友人と見られるといいが……また親戚のおじさんとかは嫌だからな。
出かける前に、鏡でしっかりチェックだ!
髭は剃ったし、ちょっと酒臭いのは、許容範囲?
うーむ、どうだ?
俺って推定年齢……何歳?
彼氏が10代っていうのは、正直悩ましいなよ。
年が明けてまた歳をとるわけだし……。
涼はまだ10代なのに、俺はもうすぐ30歳だ。
「おい何をしている? まだいたのか」
玄関で鏡をジドっと睨んでいると、洋が呆れ顔で立っていた。
「なぁ……洋」
洋の顔を見ると、とても28歳には見えない美貌で、同じ人間として嫌になりそうだ。
「何?」
「あのさ……いや、何でもない」
「おいっちゃんと話せよ。じゃなきゃ……昨日のことを丈にバラすぞ」
「わぁーヤメロ! あれは……うっ、す、すまん!!」
やっぱアレ……覚えているよな。ううっ顔が引き攣るぜ。
「あのさ、俺って何歳に見える? やっぱ、おじさんっぽいか」
「ハァ? 馬鹿だな。安志は安志だよ。俺と同い年! もっと自分に自信持てよ。お前はカッコいいよ!」
「そ、そうかな? 涼と並んでチグハグじゃないか」
「ずいぶん弱気だな。涼はお前にゾッコンなのに。さぁ早く迎えに行ってやれよ。きっと涼も早く会いたいって思っているよ」
「そうだな。俺、なんか弱気だったな」
「……安志は太陽みたいな人だよ。俺には眩しいくらいにね。だから涼と安志は本当にお似合いだ」
洋はそう言いながらトンっと俺の背中を押してくれた。
その手に弾かれるように、俺は涼を迎えに一気に山道を駆け下りた。
山おろしのように!
年が明けて二日目の朝も、見上げれば快晴だった。
「でもお前、まだ酒抜けきってないぞ。っていうか、みんな飲みすぎだよな」
「はは、ちゃんと電車で行くよ」
「そうだな。それがいい。あっ電車に乗るのならば涼は変装した方がいいかも。だいぶ顔が売れていているからな。えっとサングラス持ってくるよ」
「ありがとな。ここ月影寺は……俺たちにとってもオアシスになっているよ」
「そうか。なら、よかったよ」
洋の花のような笑顔は、今年も健在のようだ。
洋の笑顔は、月下に咲く花のように静かで優美なんだよな。涼の笑顔は弾けるように爽快で夏の香りがするのに。
しかし一夜明けて……洋にまだ酒臭いとか風呂に入れとか、あれこれ口喧しく指示されたので、驚いた。
洋って、こんな性格だったか。
昨日は実家で散々飲みなれない酒を飲んだ挙句に月影寺に潜り込み、とんでもない失態を犯したのは、はっきりと覚えている。しかもその後、月影寺のメンバーで更に酒を煽ったという弾けっぷりだ。まぁ正月らしいか、これも。
流石に風邪気味で今日も朝から仕事がびっちり入っている翠さんだけは、自ら退出したが、流さんの方はとんでもない酒豪だった。この俺が勝てないなんて。
丈のご両親とも結婚式以来、改めてきちんと(多分)挨拶できたし、丈も久しぶりに実家で迎える新年を心から楽しんでいるようだった。
そして洋はお酒を皆に注いだり料理の補充をしたりと、意外な程よく働いていた。
洋って、こんなに気がつく奴だったっけ?
いつも寂しそうで悲し気で俯いていた洋が、ずっと顔をあげて笑っている。
もうそれだけで感無量だよ。そして記憶をもっと前まで辿ると……まだ洋の本当の両親が健在だったころの幸せな日々の情景が蘇ってきた。
小学校に入学式、桜のアーチを俺と手を繋いで歩いて女子に揶揄われたこととか、公園で秘密基地を作ったこと。泥遊びもかけっこも、洋は何でも嬉しそうに付き合ってくれた。
走るとすぐに頬が赤くなって、いつも一生懸命で可愛くて、本当に学校にいる時も、下校してからも、ずっと仲良しだった。
今日の洋の姿は、その頃の表情を彷彿させる。まだ酔いが覚めきっていないのか、少し頬を赤く上気させ、周りをよく見てよく動く。
洋……お前、ここに来ていい感じだな。
言葉は違うが、あぁ、本当に洋は丈さんの『嫁さん』になったのだと妙にしみじみと思ってしまった。親父臭いかな……俺。洋の保護者の気分だぜ。
同時に猛烈に涼に会いたくなった。俺の隣に涼がいないのが寂しい。だから朝になって少しでも涼と一緒の時間を増やしたくて、電車で迎えに行くことにした。
モデルとしてメジャーになった涼を電車で連れ歩くのはどうかと思ったが、そもそも男同士でつきあっているとは普通結びつかないだろう。だから大丈夫だ。仮にバレても男の友人と出かけていると思われるだけだろう。
あっ友人と見られるといいが……また親戚のおじさんとかは嫌だからな。
出かける前に、鏡でしっかりチェックだ!
髭は剃ったし、ちょっと酒臭いのは、許容範囲?
うーむ、どうだ?
俺って推定年齢……何歳?
彼氏が10代っていうのは、正直悩ましいなよ。
年が明けてまた歳をとるわけだし……。
涼はまだ10代なのに、俺はもうすぐ30歳だ。
「おい何をしている? まだいたのか」
玄関で鏡をジドっと睨んでいると、洋が呆れ顔で立っていた。
「なぁ……洋」
洋の顔を見ると、とても28歳には見えない美貌で、同じ人間として嫌になりそうだ。
「何?」
「あのさ……いや、何でもない」
「おいっちゃんと話せよ。じゃなきゃ……昨日のことを丈にバラすぞ」
「わぁーヤメロ! あれは……うっ、す、すまん!!」
やっぱアレ……覚えているよな。ううっ顔が引き攣るぜ。
「あのさ、俺って何歳に見える? やっぱ、おじさんっぽいか」
「ハァ? 馬鹿だな。安志は安志だよ。俺と同い年! もっと自分に自信持てよ。お前はカッコいいよ!」
「そ、そうかな? 涼と並んでチグハグじゃないか」
「ずいぶん弱気だな。涼はお前にゾッコンなのに。さぁ早く迎えに行ってやれよ。きっと涼も早く会いたいって思っているよ」
「そうだな。俺、なんか弱気だったな」
「……安志は太陽みたいな人だよ。俺には眩しいくらいにね。だから涼と安志は本当にお似合いだ」
洋はそう言いながらトンっと俺の背中を押してくれた。
その手に弾かれるように、俺は涼を迎えに一気に山道を駆け下りた。
山おろしのように!
年が明けて二日目の朝も、見上げれば快晴だった。
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