重なる月

志生帆 海

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13章

安志&涼編 『僕の決意』14

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 俺の横で安らかな寝息を立てるRyoを背後から見つめていると、盛大な溜息が自然に漏れた。
 
「はぁ……これって拷問だな」

 さっきRyoをこの壁に押し付けてした強引なキスのことを反芻すると、やっぱり深い溜息が漏れてしまう。

 あんなこと仕出かした俺と同じベッドで寝るなんて……お前、いい人過ぎる。いや、そうじゃなくて、それだけ俺のことを信頼してくれているんだと思うと、申し訳なさが募る。

 あんな邪な気持ちでRyoに触れたことを、ひたすら申し訳なく感じた。

 でもキスして分かったことがある。

 俺……やっぱりRyoが好きだった。

 そしてキスし終えて、決定打を浴びた。

 俺……失恋した。

 Ryoには案じていたとおり、日本で恋人が出来ていた。しかも相手はまさかの男……馬鹿正直で真っすぐなRyoは、素直にそれを認めてしまった。

 そんな大事なことを簡単に話すなんて……俺が言いふらしたらどうするつもりなんだよ。でもフラれてしまったが、友人として信頼されるのは嬉しかった。

 あーそれにしても、やっぱりRyoは可愛い。

 無防備に眠る横顔を見つめて、またまた盛大な溜息だ。

 栗色の髪が、柔らかそうな頬にかかり艶めかしい。
 長い睫毛なんだな、男のくせに。
 東洋人のすべすべした肌に触れてみたい。
 髭なんて見当たらないな。
 それに鼻が高すぎず低すぎず絶妙だ。
 キスするとき邪魔にならないよな。
 唇が少しだけ開いているのも……やっぱり……ヤバイ。

 可愛い。
 キュートだ。
 キスしたくなる。
 
 ズキッ

 俺が邪な考えを少しでも持とうものなら、さっき蹴られた股間が痛みだす。

 イテテっ、あぁもう分かったよ。もう諦めるって!

 Lisaの勧め通りRyoにもう一度会ったのは間違いではなかった。自分の気持ちに正直にぶつかっての玉砕。

 これ以上しつこくつきまとうなんてことしない……見事にフラれたのだから。俺は潔いスポーツマンだ、それは約束する。

 見納めかな。 
 こんなRyoの姿を独占するのも……これが最後さ。



****

 翌朝早く、俺は空港へ行くためにRyoの家を出た。律儀なRyoは一緒に家を出て、駅の改札口まで送ってくれた。

「じゃあな。昨日は久しぶりに会えて楽しかったよ。その、これからも友人としてよろしくな! 僕のハイスクール時代の一番の友人だよ。Billyはさ!」
「Ryo……ありがとうな。あんなことしてごめん。でも友人としてのハグならいいよな」
「え?」

 別れるのが寂しくて、少し驚いて顔をあげたRyoのことを思いっきり両手で抱きしめ、おでこに軽いキスを落とした。Ryoはビクッと身体を揺らして、すぐに身を引いた。

「ばっ、バカ! ここをどこだと思ってんだ! 日本だぞ! 日本っ!」

 Ryoはキョロキョロと辺りを見回して、耳まで真っ赤に染めていた。

「なんだよ。この程度のこと、向こうじゃ普通だったろう? 」
「はぁBillyは……自分の身を大事にしろよっ」

 そう言われて、昨日の金的を思い出し身震いした。

「わっ! 勘弁! もう一度やられたら男として……終わる」
「だろっ」
「とにかく帰国するよ。Lisaが早く帰って来いって騒いでる」
「くくっ、Lisaによろしく、BillyとLisaはいいコンビだよ。お似合いだ」
「あぁ、そうかもな。アイツがそもそもRyoに会って白黒はっきりさせて来いって、けしかけてさ。昨日のこと、ほんと悪かったな。N.Y.に帰国したらLisaと一緒に会おうな! また!」
「はは……Lisaはすごいな。うん。僕の両親はずっとそっちだし行くよ。その時は絶対会おう!」

 お互いに笑いあった。

「Bye!Ryo!」
「Bye for now!(またな)」

 ハイスクール時代と変わらぬ挨拶で別れた。
 
 親指を上に向け「いいね!」とジェスチャーし、微笑みあった。

 春らしく……爽やかな別れを迎えた。


 ****

 Ryoと別れてしんみりとホームに立っていると、康太から連絡が入った。

(Billy、おはよう。今どこ?)
(あぁ、空港行きの電車の中)
(そうか……じゃあ、帰りの便は予定通りなんだな)
(まぁな。残念ながら)
(……見送りにいくよ)
(Thank you!)
 
 空港に律儀に俺の二人目の日本人の友人が見送りに来てくれた。

「結局……Billyの恋は玉砕ってわけ?」
「え? 何でそれ知って?」
「昨日のパーティーでの態度を見ていたら分かるさ。お前、ほんと分かりやすいもんな。でもあんな綺麗な子なら、男でも好きになっちゃうかもな」
「なっ駄目だぞ! 手は出すなよっ! 大事な友人だ。それにアイツにはちゃんと恋人がいるんだから」
「へぇ……そうなんだ」
「いずれにせよ、康太、本当にありがとうな。お前の家、豪邸ですごかったし、世話になった」
「いや、また大学でよろしくな」

 離陸する飛行機の窓からはTokyoの景色がよく見えた。

 さよならRyoの国。
 もう来ない。

 だから失恋した気持ちは、ここに置いて行こう。

 「Be happy.」

 ****

 Billyを見送って、ほっと一息ついた。
 あの馬鹿っ……あんな所で……

 でも爽やかな別れ方が出来てよかった。

 さぁ戻ろう。
 安志さんの元へ。

 早く、早く会いたい!






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