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13章
安志&涼編 『僕の決意』10
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(えええっ! 安志?)
(うわっ……え? え? どーして洋なんだ‼)
呆気にとられて、声も出なかった。
お互いの顔を見つめ、頭を抱えてしまった。
するとこちらに向かってくる足音が聞えてきた。
「洋っ! 無事か‼」
襖がシュッと素早く横に開かれ、すぐに丈が飛び込んで来た。
「あっ……丈っ!」
そのまま布団の横に蹲っていた俺を、丈が力強く抱きしめてくれた。
「どうした? さっきすごい音がしたが」
丈はどうやら逆方向にいる安志の存在に気が付いていないようだ。俺は肩越しに安志に目で強く訴えた。
(とにかく、そのだらしない恰好をどうにかしろよっ!)
安志は真っ青な顔でコクコクと頷いて、そろりと廊下に出て行った。やれやれ……危なかった。
「うっ……うん、ちょっと布団に躓いて転んで」
「なんだ、そうか。暗かったからな。悪かったな、電気をつけておけば良かった」
「大丈夫だ。その……喉が渇いちゃって……」
「よし、分かった。今、水を持ってきてやるから待ってろ」
「あ、ありがとう」
丈、ごめん。でも新年早々、流血沙汰は困るだろう。それに俺はちゃんと反撃できたし。
丈が出て行ったのを確認して、入り口付近に脱ぎ捨てられていた安志の服を廊下に投げてやると、洋服は申し訳なさそうにズルズルと消えて行った。
はぁ……参ったな。さっきのアレ……安志のだったのか。
お陰で嫌なことを思い出した。でもお陰で嫌な思い出を振り払うことも出来た。
うーむ、どうしたものか。まぁ急所に蹴り入れさせてもらったし、今回は特別に許してやるか。そもそも涼の布団で眠っていた俺も悪いんだしな。いずれにせよ一気に酔いが冷め、目も覚めた。
「よっ洋……入っていいか」
安志の心底申し訳なさそうな怯えた声に苦笑してしまった。本当にお前は憎めない奴だよな。さっきのことも涼と間違えてした行為なのだから……まぁ仕方がないか。
モデルの涼とは、最近すれ違いが続いたことを知っている。それもあって……この年末年始ずっと一緒にいられるが安志は心底嬉しそうで、俺の前でも散々涼を可愛がってイチャイチャしてたもんな。そうしたくなる気持ちも分かる。
そう考えると……せっかく戻ってきたのに、今晩は涼がいないのが気の毒に思った。涼は今日は自宅に戻ると連絡があったのに、それを知らなかったのか。
「ごめん! すまなかった。この通りだ」
畳に額を擦り付ける安志の様子が……もはや不憫だ。
「もういいよ。俺も悪かった。そもそも……俺が酔って……涼の布団を勝手に借りて眠っていたからだしな」
「洋――っ、許してくれるのか!」
半泣き状態の安志が抱き着いてきた。
「おいっ離れろって。もういいよ! もう忘れる! にしても……悪かったな……その……大事なとこ……無事か」
安志がまた浴衣を捲り、パンツの中を覗き込んで、ニヘッと笑った。
「あっ、大丈夫だった。俺のタフだから! まだ生きてる!」
「……あっ、そ」
やっぱり許すのやめようかなと、ジトっと睨んでしまった。
「でも洋の一撃、うまかったぞ。涼仕込みの護身術か。さすが俺の涼だ」
「……まぁな」
「よしよし、これなら俺も安心だ」
ん? なんだか焦点がズレているような……
そこにいいタイミングで丈が水を持って戻って来た。
「……安志くんいつの間に戻ってきたんだ?」
「へへへ、へ……」
安志が決まり悪そうに、恥ずかしそうに苦笑した。
「おいっ、安志っ気色悪い笑い方するな」
「あっ、すまん。さっき戻ってきた所で、その……涼はどこにいるんだ?」
「涼は茶室の裏方をよく手伝ってくれたよ。でも急にマネージャーが迎えに来て仕事に行ってしまって」
「えっ……そんな話聞いてなかったなぁ」
安志の落胆が伝わってくる。
恋人に会いに来たのに、会えないのは辛いよな。
「急だったから、涼は今日は自宅に戻って、明日またここに来るって言ってたよ。夜になって一度連絡もらったんだ。ごめんな。安志にも伝えればよかったよな」
「そっか、明日か……なんか待てないな。今すぐ迎えに行ってくるよ!」
「馬鹿! お前酒臭いのに」
「あ……そうか」
ドスンと座ってカリカリと短髪を掻きむしる様子がやるせない。
「それなら安志くんも今日は一緒に飲まないか」
非常に珍しい……丈からの誘い。
「え?え? 俺も混ざっていいんですか」
「もちろんだ。あと少し酒が残っているからな。洋も酔いが覚めたのなら一緒にいこう」
さりげなく丈が俺と手を繋いでくれる。そんなさりげなさで、ざわつく心はいつもすっと静まる。
悪夢にうなされるだけじゃなく、自分で行動を起こせたことが嬉しかったので、安志のアレを擦り付けられたことは、目を瞑ることにした。お互いの身のためだし制裁はもう済んだからな。
そんな俺の様子に、丈が首をかしげていた。
「洋……なんだか機嫌が良さそうだな。眠ってそんなにすっきりしたのか」
「まぁ……そんなとこかな。スッキリしたよ!」
「ならいいが……安志くんには気をつけろ」
「なっなんで?」
「今日は欲求不満かもしれないからな」
「わっ! ひどいっすよ。丈さん。明日の朝には涼を迎えに行ってきます!」
「うん、それがいいよ。ふたりでまたここにおいで」
「はい!」
いろんなことがあった元旦の夜もそろそろ、日を跨ぐ。
今年もいろんなことが、きっと上手くいく。そうなるように努力したい。
そんな想いで、真っすぐな廊下を灯りの方へ、丈と手を繋いで歩いた。
(うわっ……え? え? どーして洋なんだ‼)
呆気にとられて、声も出なかった。
お互いの顔を見つめ、頭を抱えてしまった。
するとこちらに向かってくる足音が聞えてきた。
「洋っ! 無事か‼」
襖がシュッと素早く横に開かれ、すぐに丈が飛び込んで来た。
「あっ……丈っ!」
そのまま布団の横に蹲っていた俺を、丈が力強く抱きしめてくれた。
「どうした? さっきすごい音がしたが」
丈はどうやら逆方向にいる安志の存在に気が付いていないようだ。俺は肩越しに安志に目で強く訴えた。
(とにかく、そのだらしない恰好をどうにかしろよっ!)
安志は真っ青な顔でコクコクと頷いて、そろりと廊下に出て行った。やれやれ……危なかった。
「うっ……うん、ちょっと布団に躓いて転んで」
「なんだ、そうか。暗かったからな。悪かったな、電気をつけておけば良かった」
「大丈夫だ。その……喉が渇いちゃって……」
「よし、分かった。今、水を持ってきてやるから待ってろ」
「あ、ありがとう」
丈、ごめん。でも新年早々、流血沙汰は困るだろう。それに俺はちゃんと反撃できたし。
丈が出て行ったのを確認して、入り口付近に脱ぎ捨てられていた安志の服を廊下に投げてやると、洋服は申し訳なさそうにズルズルと消えて行った。
はぁ……参ったな。さっきのアレ……安志のだったのか。
お陰で嫌なことを思い出した。でもお陰で嫌な思い出を振り払うことも出来た。
うーむ、どうしたものか。まぁ急所に蹴り入れさせてもらったし、今回は特別に許してやるか。そもそも涼の布団で眠っていた俺も悪いんだしな。いずれにせよ一気に酔いが冷め、目も覚めた。
「よっ洋……入っていいか」
安志の心底申し訳なさそうな怯えた声に苦笑してしまった。本当にお前は憎めない奴だよな。さっきのことも涼と間違えてした行為なのだから……まぁ仕方がないか。
モデルの涼とは、最近すれ違いが続いたことを知っている。それもあって……この年末年始ずっと一緒にいられるが安志は心底嬉しそうで、俺の前でも散々涼を可愛がってイチャイチャしてたもんな。そうしたくなる気持ちも分かる。
そう考えると……せっかく戻ってきたのに、今晩は涼がいないのが気の毒に思った。涼は今日は自宅に戻ると連絡があったのに、それを知らなかったのか。
「ごめん! すまなかった。この通りだ」
畳に額を擦り付ける安志の様子が……もはや不憫だ。
「もういいよ。俺も悪かった。そもそも……俺が酔って……涼の布団を勝手に借りて眠っていたからだしな」
「洋――っ、許してくれるのか!」
半泣き状態の安志が抱き着いてきた。
「おいっ離れろって。もういいよ! もう忘れる! にしても……悪かったな……その……大事なとこ……無事か」
安志がまた浴衣を捲り、パンツの中を覗き込んで、ニヘッと笑った。
「あっ、大丈夫だった。俺のタフだから! まだ生きてる!」
「……あっ、そ」
やっぱり許すのやめようかなと、ジトっと睨んでしまった。
「でも洋の一撃、うまかったぞ。涼仕込みの護身術か。さすが俺の涼だ」
「……まぁな」
「よしよし、これなら俺も安心だ」
ん? なんだか焦点がズレているような……
そこにいいタイミングで丈が水を持って戻って来た。
「……安志くんいつの間に戻ってきたんだ?」
「へへへ、へ……」
安志が決まり悪そうに、恥ずかしそうに苦笑した。
「おいっ、安志っ気色悪い笑い方するな」
「あっ、すまん。さっき戻ってきた所で、その……涼はどこにいるんだ?」
「涼は茶室の裏方をよく手伝ってくれたよ。でも急にマネージャーが迎えに来て仕事に行ってしまって」
「えっ……そんな話聞いてなかったなぁ」
安志の落胆が伝わってくる。
恋人に会いに来たのに、会えないのは辛いよな。
「急だったから、涼は今日は自宅に戻って、明日またここに来るって言ってたよ。夜になって一度連絡もらったんだ。ごめんな。安志にも伝えればよかったよな」
「そっか、明日か……なんか待てないな。今すぐ迎えに行ってくるよ!」
「馬鹿! お前酒臭いのに」
「あ……そうか」
ドスンと座ってカリカリと短髪を掻きむしる様子がやるせない。
「それなら安志くんも今日は一緒に飲まないか」
非常に珍しい……丈からの誘い。
「え?え? 俺も混ざっていいんですか」
「もちろんだ。あと少し酒が残っているからな。洋も酔いが覚めたのなら一緒にいこう」
さりげなく丈が俺と手を繋いでくれる。そんなさりげなさで、ざわつく心はいつもすっと静まる。
悪夢にうなされるだけじゃなく、自分で行動を起こせたことが嬉しかったので、安志のアレを擦り付けられたことは、目を瞑ることにした。お互いの身のためだし制裁はもう済んだからな。
そんな俺の様子に、丈が首をかしげていた。
「洋……なんだか機嫌が良さそうだな。眠ってそんなにすっきりしたのか」
「まぁ……そんなとこかな。スッキリしたよ!」
「ならいいが……安志くんには気をつけろ」
「なっなんで?」
「今日は欲求不満かもしれないからな」
「わっ! ひどいっすよ。丈さん。明日の朝には涼を迎えに行ってきます!」
「うん、それがいいよ。ふたりでまたここにおいで」
「はい!」
いろんなことがあった元旦の夜もそろそろ、日を跨ぐ。
今年もいろんなことが、きっと上手くいく。そうなるように努力したい。
そんな想いで、真っすぐな廊下を灯りの方へ、丈と手を繋いで歩いた。
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