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13章
安志&涼編 『僕の決意』3
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「安志、今日は泊っていきなさいよ」
「えっ」
月影寺に涼を待たせているから、そろそろ帰るつもりだった。ただでさえ親戚の叔父さんたちに囲まれ、涼に連絡する時間が全然なくて、もう限界だった。
涼……今、何してる?
洋たちが一緒だし寂しい思いはしていないと思うが、それでもやっぱり帰りたいと思った。両親には悪いが、涼と付き合いだして初めて過ごす正月なんだ。
「まぁ、何て顔しているの。ねぇ……あなたにはいつもかなり自由にさせてきたわよね。でもお正月くらいお父さんとゆっくり過ごして欲しいのよ。お父さんもいい歳なのよ。親孝行だと思って、分かってね」
参ったな。いつも俺の決断に何一つ文句を言わない母さんに、そんな顔させてしまうなんて……無下に断れないな。
「分かった、じゃあ今日は泊るよ。それにもうだいぶ飲まされてフラフラだしな」
「よかったわ。それにお正月から洋くんたちの邪魔をしちゃ駄目でしょう。洋くんたちにとっては、ふたりで迎える初めてのお正月なのよ。あなたが気を利かせなさいよ」
「……そんなの、分かっているさ」
だが俺だって初めて涼と向かえる新年なんだよ! とは……面と向かって言えなかった。あぁ……情け無い。
だが、さっき釘を刺されたばかりだ。
それに……母から洋のこと絡みで教えてもらったが……俺の父親は同性愛とか同性婚とか、その手のことに理解が全くないそうだから、これはかなり慎重にならないと駄目だと悟った。
だが恋焦がれる涼を残して実家で煽る酒は、正直美味しいとは思えない。堅苦しい親戚に挨拶して酒をついで、つがれて……あげくに話の中心は俺の結婚話だなんてさ。
あー、これ、涼が聞いたら……寂しい思いをさせるな。
こんなのお前らしくないぞ。男らしくないぞ。安志! 昔みたいに蹴散らかして、今すぐ家を飛び出て、涼の元に行けよ!
自分を叱咤激励するが、まるで根を張ったみたいに躰が動かない。らしくない自分に辟易する。
年齢を重ねるごとに縛られるものが多くなって、躰が重く感じるよ。もどかしいな、こんなの。
涼の前では颯爽としていたいのに、これはダメだ。
俺達この先どうなっていくのか。
洋が羽ばたいたように、俺たちも行けるのか。
空へ。大空高く──
「安志くんも、もうすぐ30歳だろ。もう結婚しないと駄目だぞ」
「そうだそうだ! 早くお嫁さんもらって子供を作れ。お父さんに孫の顔見せてやらないと」
「ちょうどいいお見合いの話があるぞ。今度写真を送るよ」
あぁ……そろそろ限界だぜ。愛想笑いも限界で、頬が引き攣る。
そんなもの必要ない! 俺には好きな子がいて、それは俺と同じ性の男の人だ!って大声で叫びたくなる。
「じゃあそろそろお開きにしよう」
そんな父親の声で、親戚一同が集まった宴会がようやく終わった。
やれやれ……時計を見たらもう元旦の夜も残り一時間か。
「安志、あなたの部屋片づけてあるから、そのまま寝ちゃっていいわよ」
「分かった。母さん、サンキュ」
ところが自分の部屋に行っても、酒に酔っているはずなのにちっとも寝付けない。それどころかどんどん目が冴えてくる。
スマホを取り出して、涼にかけようかなと思ったが……それよりも直に会いたくなってしまった。涼からは俺が北鎌倉を出てすぐにメールが1件が入っていた。
……
安志さん。
今から洋兄さんの手伝いで茶室で働いてくるね。
今日は沢山洋兄さんのサポートをしたいので、夜までメールできないかも。
安志さんもご実家でゆっくり過ごしてきてください。
明日にはまた会えるよね? 楽しみにしています。
……
健気なメールに心打たれ、その瞬間、俺はコートを手に立ち上がった。
やっぱり、ここに泊まるのはやめた!
この時間まで親戚に付き合ったんだし、もういいだろう。充分役目は果たしたよな。
戻ろう!
行こう!
涼のもとに!
会いたいから、会いたくてたまらないから!
「えっ」
月影寺に涼を待たせているから、そろそろ帰るつもりだった。ただでさえ親戚の叔父さんたちに囲まれ、涼に連絡する時間が全然なくて、もう限界だった。
涼……今、何してる?
洋たちが一緒だし寂しい思いはしていないと思うが、それでもやっぱり帰りたいと思った。両親には悪いが、涼と付き合いだして初めて過ごす正月なんだ。
「まぁ、何て顔しているの。ねぇ……あなたにはいつもかなり自由にさせてきたわよね。でもお正月くらいお父さんとゆっくり過ごして欲しいのよ。お父さんもいい歳なのよ。親孝行だと思って、分かってね」
参ったな。いつも俺の決断に何一つ文句を言わない母さんに、そんな顔させてしまうなんて……無下に断れないな。
「分かった、じゃあ今日は泊るよ。それにもうだいぶ飲まされてフラフラだしな」
「よかったわ。それにお正月から洋くんたちの邪魔をしちゃ駄目でしょう。洋くんたちにとっては、ふたりで迎える初めてのお正月なのよ。あなたが気を利かせなさいよ」
「……そんなの、分かっているさ」
だが俺だって初めて涼と向かえる新年なんだよ! とは……面と向かって言えなかった。あぁ……情け無い。
だが、さっき釘を刺されたばかりだ。
それに……母から洋のこと絡みで教えてもらったが……俺の父親は同性愛とか同性婚とか、その手のことに理解が全くないそうだから、これはかなり慎重にならないと駄目だと悟った。
だが恋焦がれる涼を残して実家で煽る酒は、正直美味しいとは思えない。堅苦しい親戚に挨拶して酒をついで、つがれて……あげくに話の中心は俺の結婚話だなんてさ。
あー、これ、涼が聞いたら……寂しい思いをさせるな。
こんなのお前らしくないぞ。男らしくないぞ。安志! 昔みたいに蹴散らかして、今すぐ家を飛び出て、涼の元に行けよ!
自分を叱咤激励するが、まるで根を張ったみたいに躰が動かない。らしくない自分に辟易する。
年齢を重ねるごとに縛られるものが多くなって、躰が重く感じるよ。もどかしいな、こんなの。
涼の前では颯爽としていたいのに、これはダメだ。
俺達この先どうなっていくのか。
洋が羽ばたいたように、俺たちも行けるのか。
空へ。大空高く──
「安志くんも、もうすぐ30歳だろ。もう結婚しないと駄目だぞ」
「そうだそうだ! 早くお嫁さんもらって子供を作れ。お父さんに孫の顔見せてやらないと」
「ちょうどいいお見合いの話があるぞ。今度写真を送るよ」
あぁ……そろそろ限界だぜ。愛想笑いも限界で、頬が引き攣る。
そんなもの必要ない! 俺には好きな子がいて、それは俺と同じ性の男の人だ!って大声で叫びたくなる。
「じゃあそろそろお開きにしよう」
そんな父親の声で、親戚一同が集まった宴会がようやく終わった。
やれやれ……時計を見たらもう元旦の夜も残り一時間か。
「安志、あなたの部屋片づけてあるから、そのまま寝ちゃっていいわよ」
「分かった。母さん、サンキュ」
ところが自分の部屋に行っても、酒に酔っているはずなのにちっとも寝付けない。それどころかどんどん目が冴えてくる。
スマホを取り出して、涼にかけようかなと思ったが……それよりも直に会いたくなってしまった。涼からは俺が北鎌倉を出てすぐにメールが1件が入っていた。
……
安志さん。
今から洋兄さんの手伝いで茶室で働いてくるね。
今日は沢山洋兄さんのサポートをしたいので、夜までメールできないかも。
安志さんもご実家でゆっくり過ごしてきてください。
明日にはまた会えるよね? 楽しみにしています。
……
健気なメールに心打たれ、その瞬間、俺はコートを手に立ち上がった。
やっぱり、ここに泊まるのはやめた!
この時間まで親戚に付き合ったんだし、もういいだろう。充分役目は果たしたよな。
戻ろう!
行こう!
涼のもとに!
会いたいから、会いたくてたまらないから!
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