1,032 / 1,657
12章
『月のため息』(丈・洋編 6)
しおりを挟む
丈に促され慌ててシャワールームに駆け込んだ。それから鏡に映る自分の姿を見て、呆れてしまった。
上半身は真っ白でモコモコなセーターを着ているのに、下半身は剥き出しだ。挙句の果てに丈が中に出したものが内股を伝い降りて来た。
「うっ……」
この感覚は苦手だ。もうとっくに忘れたはずの葬ったはずの何かが過るから……いけない、何か思い出しそうになった記憶を必死に押し込めた。
それより早くシャワーを浴びないと!
慌ててセーターを脱ぎ捨て、熱いお湯を頭から浴びた。朝からストーブの効いた温かい部屋で激しく動いたせいで、地肌も汗ばんでいたので気持ちいい。
ところが「早く開けろよー」という声と共に、流さんが部屋の中に入ってきた気配がして、一気に焦ってしまった。
ちょっと冷静にならないと……ソファの上は大丈夫だったか。もう丈の奴、あんな場所で性急に最後まで求めてきて、いや欲しくなったのは俺だったのか。あぁもう分からない。
それよりさっきから何か重大なことをことを俺は忘れているような。
そう言えば……あれはどこに置いた?
あの涼がくれた茶せんのまがいモノの行方は……
あっ!
あの時、丈が床に放り投げたんじゃ?
それはまずいだろう。
とっ……とにかく拾って隠さないと!
腰にタオルを巻いて、そっとバスルームの扉からリビングを覗くと……流さんがそれをまさにしゃがんで拾い上げたところだった。
あれは……おっ俺ので……先端が濡れて……あぁぁぁ!
その後はもう我を忘れて取り返しに走った!
途中でひらりと腰のタオルがはだけ落ちたのも構わずに!
しばらく脱力して座り込んでしまった。
真っ裸で股間を押さえ、バスローブを肩からかけられるというよく分からない姿を流さんに晒すことになってしまった。
流さんは帰り際に、「くくくっ……洋くん、自分をもっと大切にしろよ~手抜きグッズを見られるの恥ずかしがって、綺麗な躰を安売りするなんてさ。はははっ」と豪快に笑いながら帰っていった。
これが本当は何だか知っているのに、素知らぬふりを?それとも……これを本物の電動茶せんだと思っているのか。
うぅぅ……どっちにしろ恥をかかされた!
「洋、悪かったな。兄さんは昔からあんな感じで、思い立ったら止まらない人だから。遠慮を知らないしな、さぁもう機嫌を治せ。甘酒を飲むか」
「……俺、涼の所に行ってくる」
「待て、ちゃんと乾かしてからだ」
確かに髪の毛からはまだ雫がポタポタと落ちていた。
丈に手をひかれ、もう一度シャワールームに連れて行かれ、大きなバスタオルで躰を拭いてもらった。それから「保湿も大事だぞ。洋は肌が薄いから」と、クリームを塗られた。なんだかまたこのまま食べられそうで、苦笑してしまう。
「丈は……マメだよな」
「そうか。恋人にはいつまでも美しくいてもらいたいからな」
「うーん、約束は出来ないぞ。俺だって……いつまでも若くない」
「大丈夫だ。翠兄さんのように美しく洋は年を重ねるだろう」
確かに翠さんの美しさは実年齢とかけ離れているよな。いや……あの年齢だからこその色気なのか。とにかく俺にはないものを持っている。あんなことがあっても気高いままの翠さんの、それでいて流さんにだけは気を許す幸せそうな表情を思い出して……思わず笑みが零れた。
昨日も具合が悪くて辛そうだったのに、流さんを見ては頑張れているようだった。ふたりは本当にお似合いだ。
「翠さんは確かにすごいよ。でもそう上手くいくかな?」
「ははっ、機嫌治ったな。よかった」
いいようにはぐらかされた気もするが、俺をどこまでも愛し、執着しすぎるほど愛してくれる丈には、つい身を任せてしまう。
****
「涼いる?」
「きっ来た!どどどどどどーしよ!」
客間をノックする声は洋だった。いよいよ涼の案じていたことが現実になったのか。
「あ……安志さんは僕の味方だよな?」
うーんもちろんそれはそうだが、洋の言い分も聞かないとな。とは言えず曖昧に微笑むと、涼は叱られた子供みたいに怯えた目をした。流石に可哀そうになって、その柔らかい髪を撫でてやった。
「よしよし。俺が守ってやるからな」
「う……約束だよ」
ギュッと俺のセーターの裾を掴む手が可愛いな。
「涼、いるんだろう?……ちょっと話しがある」
それにしても、いつになく低いトーンの洋の声。
俺も怖えぇー!
上半身は真っ白でモコモコなセーターを着ているのに、下半身は剥き出しだ。挙句の果てに丈が中に出したものが内股を伝い降りて来た。
「うっ……」
この感覚は苦手だ。もうとっくに忘れたはずの葬ったはずの何かが過るから……いけない、何か思い出しそうになった記憶を必死に押し込めた。
それより早くシャワーを浴びないと!
慌ててセーターを脱ぎ捨て、熱いお湯を頭から浴びた。朝からストーブの効いた温かい部屋で激しく動いたせいで、地肌も汗ばんでいたので気持ちいい。
ところが「早く開けろよー」という声と共に、流さんが部屋の中に入ってきた気配がして、一気に焦ってしまった。
ちょっと冷静にならないと……ソファの上は大丈夫だったか。もう丈の奴、あんな場所で性急に最後まで求めてきて、いや欲しくなったのは俺だったのか。あぁもう分からない。
それよりさっきから何か重大なことをことを俺は忘れているような。
そう言えば……あれはどこに置いた?
あの涼がくれた茶せんのまがいモノの行方は……
あっ!
あの時、丈が床に放り投げたんじゃ?
それはまずいだろう。
とっ……とにかく拾って隠さないと!
腰にタオルを巻いて、そっとバスルームの扉からリビングを覗くと……流さんがそれをまさにしゃがんで拾い上げたところだった。
あれは……おっ俺ので……先端が濡れて……あぁぁぁ!
その後はもう我を忘れて取り返しに走った!
途中でひらりと腰のタオルがはだけ落ちたのも構わずに!
しばらく脱力して座り込んでしまった。
真っ裸で股間を押さえ、バスローブを肩からかけられるというよく分からない姿を流さんに晒すことになってしまった。
流さんは帰り際に、「くくくっ……洋くん、自分をもっと大切にしろよ~手抜きグッズを見られるの恥ずかしがって、綺麗な躰を安売りするなんてさ。はははっ」と豪快に笑いながら帰っていった。
これが本当は何だか知っているのに、素知らぬふりを?それとも……これを本物の電動茶せんだと思っているのか。
うぅぅ……どっちにしろ恥をかかされた!
「洋、悪かったな。兄さんは昔からあんな感じで、思い立ったら止まらない人だから。遠慮を知らないしな、さぁもう機嫌を治せ。甘酒を飲むか」
「……俺、涼の所に行ってくる」
「待て、ちゃんと乾かしてからだ」
確かに髪の毛からはまだ雫がポタポタと落ちていた。
丈に手をひかれ、もう一度シャワールームに連れて行かれ、大きなバスタオルで躰を拭いてもらった。それから「保湿も大事だぞ。洋は肌が薄いから」と、クリームを塗られた。なんだかまたこのまま食べられそうで、苦笑してしまう。
「丈は……マメだよな」
「そうか。恋人にはいつまでも美しくいてもらいたいからな」
「うーん、約束は出来ないぞ。俺だって……いつまでも若くない」
「大丈夫だ。翠兄さんのように美しく洋は年を重ねるだろう」
確かに翠さんの美しさは実年齢とかけ離れているよな。いや……あの年齢だからこその色気なのか。とにかく俺にはないものを持っている。あんなことがあっても気高いままの翠さんの、それでいて流さんにだけは気を許す幸せそうな表情を思い出して……思わず笑みが零れた。
昨日も具合が悪くて辛そうだったのに、流さんを見ては頑張れているようだった。ふたりは本当にお似合いだ。
「翠さんは確かにすごいよ。でもそう上手くいくかな?」
「ははっ、機嫌治ったな。よかった」
いいようにはぐらかされた気もするが、俺をどこまでも愛し、執着しすぎるほど愛してくれる丈には、つい身を任せてしまう。
****
「涼いる?」
「きっ来た!どどどどどどーしよ!」
客間をノックする声は洋だった。いよいよ涼の案じていたことが現実になったのか。
「あ……安志さんは僕の味方だよな?」
うーんもちろんそれはそうだが、洋の言い分も聞かないとな。とは言えず曖昧に微笑むと、涼は叱られた子供みたいに怯えた目をした。流石に可哀そうになって、その柔らかい髪を撫でてやった。
「よしよし。俺が守ってやるからな」
「う……約束だよ」
ギュッと俺のセーターの裾を掴む手が可愛いな。
「涼、いるんだろう?……ちょっと話しがある」
それにしても、いつになく低いトーンの洋の声。
俺も怖えぇー!
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる