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12章
『月のため息』(丈・洋編2)
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「洋、とりあえず、おせちを食べよう、残すと流兄さんに悪いからな」
「そうだな」
幼い頃から自分を出すのが苦手だった丈は、ずっとお兄さんたち達と上手くいってなかった。だがこの寺に俺と一緒に住むようになり、ずっと関係が良くなったと嬉しそうに話してくれた。だからこんな風なお兄さんからの気遣いが、嬉しいようだ。
俺には元々兄弟がいないから最初は少し羨ましく遠く感じたりもしたが、そんなことは忘れてしまうほど、翠さんも流さんも、俺のことを、まるで四人目の兄弟のように可愛がってくれた。
お重を開けてみると、色とりどりの正月料理が美しく盛り付けられていた。真っ先に目に飛び込んできたのは、自然な色合いの栗きんとんだ。
「あっ、栗きんとん!」
「ははっ、洋は相変わらず、これが好物か」
「まぁね」
「ほら、こうやって昔、食べさせたよな」
そう言いながら丈が栗きんとんを指に少し取り、俺の唇に撫でるようにつけてきた。
「あっ」
「懐かしいだろう。甘いか」
あの当時のまだ付き合いはじめて、抱かれて間もない頃を思い出すと胸の奥がキュンと疼いた。
「……甘い」
「もっと甘いものがあるぞ」
「なに?」
そう聞くと丈が俺の顎を掴み上を向かせ、唇を啄んだ。
「はぁ……駄目だな。すぐ脱線したくなる」
「もう、とにかく早く食べよう!」
俺だって欲しくなる。
大晦日は、深夜過ぎまで寺の手伝いに奔走し、それどころではなかったからね。
****
栗きんとんのついた洋の唇は甘くて美味しかった。洋の顔のパーツはどれも信じがたい程、美しく整っていたが、このキュッと引き締まった口角のぷるっとした唇の形が特に好きだ。
「おいっ、丈は油断すると、すぐに俺を……食べる」
拗ねたような言い方をする洋が、年よりずっと幼く見えて可愛かった。
それから二人で年末の歌番組の録画を観ながら、おせちを食べた。笑ったり感動したりと、久しぶりに和やかな時間をゆったりと過ごした。
「洋、食後はコーヒーにするか。それとも日本茶でもいれようか」
「あっ、それなら流さんがクリスマスプレゼントにくれたお抹茶を飲んでみないか。せっかく正月なのだから」
「でも道具がないぞ。抹茶を点てるには『茶せん』が必要だろう。茶室まで取りにいかないと」
「あぁ、それなら大丈夫。ちょうど電動のを持っている」
「電動?」
「うん、取ってくるね」
確かに『電動茶せん』という類のものがあるとは聞いたことがあるが、なんで洋がそんなものを持っているのか不思議だった。とりあえず代用でカフェオレカップに抹茶をいれ、お湯を沸かした。
洋は自分のデスクからラッピングに包まれたままの箱を持ってきた。
「ん? それは確か。……クリスマスイブの朝ここにやってきた涼くんがくれたものだな。 そういえば何をもらったか聞いてなかったが」
「そう涼からのクリスマスプレゼントだよ。面白いもの選んだよな。流さんの抹茶とセットなのかな」
まさか……それは……その……まさかなのか。洋の方は何も疑問に思っていないらしく、微笑みながら私に中身を見せてくれた。
「ほら、これ。箱に抹茶を点てている絵があって、電動って書いてあるだろ」
「……」
「……本当に、そう思っているのか」
「何で?」
まったく天然なのか。小首を傾げ不思議そうに私を見つめる洋のことを、今すぐに押し倒したくなってしまうだろう。
「よくここを読んでみろ」
「なに?」
「まったく涼くんも、こんなものを洋に送るとは……安志くんの教育もどうなっているんだか」
「なんのことだ? えっと……」
洋がじっと箱を見つめ小さな文字を辿って、途端に顔を赤くした。
……
まるで茶せんのようなイメージの繊細な凹凸のプリーツ状の先端のスティックタイプ。パートナーやご自身の大切な部分にあてがったり、なぞったりして多彩な刺激を味わえます。防水設計なのでお風呂でもどうぞ。
……
「あ? え……えーー! なんで涼がこんなものを俺に? あの子はまったく……!」
洋の驚きの矛先は、涼くんへと向かっているようだ。やはり本物の天然なのか。
まぁ待て。洋はこういう物とは無縁の世界に生きて来たのだから無理もない。
高校時代から同性から痴漢にあったり性欲の対象になってしまった悲しい経験によって、性行為自体に嫌悪感を持っていたのだから、当然だろう。私も洋相手にこの手の玩具を使ったことはなかったので、何も知らなかったのだ。そう思うとつい開拓してみたくもなるな。
「洋は、本当に可愛いな」
だが……そんな洋をここまで感じる躰にしたのは、私自身だ。私のこの手だという自負もある。
「洋は使ってみたいのか」
「いっ、いらない」
耳まで真っ赤じゃないか。
なんだ。やっぱり意識してたのか。
箱から出してみると、これはまぁ……成程、確かに洋が間違うのも無理もない。
コーヒーの電動泡立てマシーンがあるのだから、抹茶用だと誤解したのも無理もない程、実に精巧に茶せんを模していた。試しに手にとってスイッチをいれると、ブルブルと妖しい振動を繰り返し出した。先端はふにゃりと柔らかかった。
「わっ……」
洋は初めて見るそれに目が釘付けだ。少しの興味と少しの怯えの狭間にいる洋が愛おしすぎて、ふと意地悪な心が湧いてきてしまう。
「そうだな」
幼い頃から自分を出すのが苦手だった丈は、ずっとお兄さんたち達と上手くいってなかった。だがこの寺に俺と一緒に住むようになり、ずっと関係が良くなったと嬉しそうに話してくれた。だからこんな風なお兄さんからの気遣いが、嬉しいようだ。
俺には元々兄弟がいないから最初は少し羨ましく遠く感じたりもしたが、そんなことは忘れてしまうほど、翠さんも流さんも、俺のことを、まるで四人目の兄弟のように可愛がってくれた。
お重を開けてみると、色とりどりの正月料理が美しく盛り付けられていた。真っ先に目に飛び込んできたのは、自然な色合いの栗きんとんだ。
「あっ、栗きんとん!」
「ははっ、洋は相変わらず、これが好物か」
「まぁね」
「ほら、こうやって昔、食べさせたよな」
そう言いながら丈が栗きんとんを指に少し取り、俺の唇に撫でるようにつけてきた。
「あっ」
「懐かしいだろう。甘いか」
あの当時のまだ付き合いはじめて、抱かれて間もない頃を思い出すと胸の奥がキュンと疼いた。
「……甘い」
「もっと甘いものがあるぞ」
「なに?」
そう聞くと丈が俺の顎を掴み上を向かせ、唇を啄んだ。
「はぁ……駄目だな。すぐ脱線したくなる」
「もう、とにかく早く食べよう!」
俺だって欲しくなる。
大晦日は、深夜過ぎまで寺の手伝いに奔走し、それどころではなかったからね。
****
栗きんとんのついた洋の唇は甘くて美味しかった。洋の顔のパーツはどれも信じがたい程、美しく整っていたが、このキュッと引き締まった口角のぷるっとした唇の形が特に好きだ。
「おいっ、丈は油断すると、すぐに俺を……食べる」
拗ねたような言い方をする洋が、年よりずっと幼く見えて可愛かった。
それから二人で年末の歌番組の録画を観ながら、おせちを食べた。笑ったり感動したりと、久しぶりに和やかな時間をゆったりと過ごした。
「洋、食後はコーヒーにするか。それとも日本茶でもいれようか」
「あっ、それなら流さんがクリスマスプレゼントにくれたお抹茶を飲んでみないか。せっかく正月なのだから」
「でも道具がないぞ。抹茶を点てるには『茶せん』が必要だろう。茶室まで取りにいかないと」
「あぁ、それなら大丈夫。ちょうど電動のを持っている」
「電動?」
「うん、取ってくるね」
確かに『電動茶せん』という類のものがあるとは聞いたことがあるが、なんで洋がそんなものを持っているのか不思議だった。とりあえず代用でカフェオレカップに抹茶をいれ、お湯を沸かした。
洋は自分のデスクからラッピングに包まれたままの箱を持ってきた。
「ん? それは確か。……クリスマスイブの朝ここにやってきた涼くんがくれたものだな。 そういえば何をもらったか聞いてなかったが」
「そう涼からのクリスマスプレゼントだよ。面白いもの選んだよな。流さんの抹茶とセットなのかな」
まさか……それは……その……まさかなのか。洋の方は何も疑問に思っていないらしく、微笑みながら私に中身を見せてくれた。
「ほら、これ。箱に抹茶を点てている絵があって、電動って書いてあるだろ」
「……」
「……本当に、そう思っているのか」
「何で?」
まったく天然なのか。小首を傾げ不思議そうに私を見つめる洋のことを、今すぐに押し倒したくなってしまうだろう。
「よくここを読んでみろ」
「なに?」
「まったく涼くんも、こんなものを洋に送るとは……安志くんの教育もどうなっているんだか」
「なんのことだ? えっと……」
洋がじっと箱を見つめ小さな文字を辿って、途端に顔を赤くした。
……
まるで茶せんのようなイメージの繊細な凹凸のプリーツ状の先端のスティックタイプ。パートナーやご自身の大切な部分にあてがったり、なぞったりして多彩な刺激を味わえます。防水設計なのでお風呂でもどうぞ。
……
「あ? え……えーー! なんで涼がこんなものを俺に? あの子はまったく……!」
洋の驚きの矛先は、涼くんへと向かっているようだ。やはり本物の天然なのか。
まぁ待て。洋はこういう物とは無縁の世界に生きて来たのだから無理もない。
高校時代から同性から痴漢にあったり性欲の対象になってしまった悲しい経験によって、性行為自体に嫌悪感を持っていたのだから、当然だろう。私も洋相手にこの手の玩具を使ったことはなかったので、何も知らなかったのだ。そう思うとつい開拓してみたくもなるな。
「洋は、本当に可愛いな」
だが……そんな洋をここまで感じる躰にしたのは、私自身だ。私のこの手だという自負もある。
「洋は使ってみたいのか」
「いっ、いらない」
耳まで真っ赤じゃないか。
なんだ。やっぱり意識してたのか。
箱から出してみると、これはまぁ……成程、確かに洋が間違うのも無理もない。
コーヒーの電動泡立てマシーンがあるのだから、抹茶用だと誤解したのも無理もない程、実に精巧に茶せんを模していた。試しに手にとってスイッチをいれると、ブルブルと妖しい振動を繰り返し出した。先端はふにゃりと柔らかかった。
「わっ……」
洋は初めて見るそれに目が釘付けだ。少しの興味と少しの怯えの狭間にいる洋が愛おしすぎて、ふと意地悪な心が湧いてきてしまう。
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