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12章
聖夜を迎えよう18
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「さぁどうぞ、飲んで。今日は来てくれてありがとう」
翠が微笑みながら、日本酒のスパークリングを客人に注ぎにまわる。
最近は日本酒でも洒落たものが出ているので助かるよな。このクリスマスパーティーのコンセプトに合うものを、俺が茅ヶ崎の酒蔵に行って選んで来たので、味には自信がある。
それに……今日の翠には俺がこの冬にかけて仕上げた萌黄色の着物を着せてやった。翠の透明感ある雰囲気に良く似合っている。クリスマスカラーの緑色だが和風の色合いなので、この寺でのクリスマスパーティーにふさわしいだろう。
翠のために最高の料理と酒を用意し、自ら描いた着物を着せる。こんな至福の時は、少し前には……どんなに手を伸ばしても届かないものだった。
兄の優美な姿を、俺は今、壁にもたれてゆったりと満ち足りた気分で眺めている。翠のために皆が集まり、楽しく過ごしている光景が心地良いのだ。それだけで酔えそうだ。やはり……遠い昔の俺には、どんなに望んでも得られなかったものだから。
(おい流水さん……どこかにいるのか。それとも、もう成仏したのか。今回のこと……危機はあったがちゃんと救えたぞ。翠は今は穏やかな微笑みを浮かべている。どうだ? 安心したか)
もういないであろう故人に思わず報告したくなるほど上機嫌だった。
「翠……俺達まで招いてくれてありがとう」
達哉さんが神妙な顔をして翠に話しかけた。おいおい、まだそんな辛気臭い顔をしているのか。翠はな、繊細にそうに見えても、自分をしっかり持っているし、人の本質を見極める眼も兼ね備えているから安心しろよ。
「達哉、そんな顔するなよ。お前だって苦しかっただろう。……血が繋がった実の弟を告訴するなんて」
「……いや遅すぎたよ。お前の許しに甘えてアイツをあんな男にしたのは俺の責任でもあるから、本来ならばこんな場所に来られる立場ではないのに……俺は結局また翠に甘えているんだな」
「達哉……」
翠が達哉さんの肩にポンっと優しく手を置いた。
「大丈夫だよ。なぁ僕とお前は親友だよな。違うのか」
翠があまりに優美な表情を見せるもんだから、ギョッとした。
おっ、おい、兄さん! その顔はやめろ! 達哉さんが変な気を起こすだろう。まったくあの人は無自覚にそんな優しい笑みを振りまくなと叫びたくなる程、明るい澄んだ笑顔だった。
「翠……お前って奴は……変わらないな。本当にいつも……ありがとうな」
昔だったらこんな光景を見てしまったら、もっと手が震え動揺していただろう。中学生だった俺が、いつも前を歩く高校生の兄たちの仲良さげな様子を羨ましく思っていたのを思い出す。嫉妬したことも、恨んだことも……本当に当時の俺は葛藤しもがいていた。
翠の心も肉体も手に入れた今だから、こんな風にゆったりと辺りを見渡せているのだろう。
それにしても月影寺にはいい男が多いよな。男だけのパーティーなんて、傍からみたら異様だろうが、こんなにも華やかで賑やかな場はそうないだろう。それというのも、翠だけでなく洋くんと涼くんが更なる華を添えてくれているからだ。
さてと……薙……お前はどうなるんだろうな?
その若かりし頃の翠とそっくりな顔をしながら、性格は彩乃さん似でさっぱり負けず嫌い。そこにあの事件を経験したことによって翠に似た思慮深さを兼ね揃えて……これは将来が楽しみだ。
お前はいずれ……女と寝るのか。
それとも男を抱くのか、抱かれるのか……
今はまだあどけなく友人の拓人くんと隅でゲームに興じているが、薙の将来は未知数だ。
「流、息子のことを、そんな変な眼で見てはいけないよ」
気が付けば一通り挨拶の終わった、翠が俺の傍にやってきた。
「はは、翠のこと考えていたんだ。楽しいか」
「うん。こんな風に僕の一声に皆が集まってくれるなんて、すごく嬉しいよ。その……僕はあまりこういうのに慣れていないが、上手く立ち回れているだろうか」
健気なことを言う兄……翠。
本当に参るよな。翠はいつだって長兄らしく振舞い、そして一歩引いたところにいた。
「そうだな、これ以上目立っては困る」
「流……」
そんな可愛い兄にそっと囁くのが、恋人の俺の役目だろう。
今日はクリスマスイブで、明日はクリスマスなんだ。
俺達が結ばれて迎える……初めてのクリスマス。
「なぁパーティーがお開きになったら、俺だけの翠になってくれよ」
「なっ……」
翠の頬がみるみる朱色へと染まっていく。
萌黄色の着物に映える頬の色だ。
翠が微笑みながら、日本酒のスパークリングを客人に注ぎにまわる。
最近は日本酒でも洒落たものが出ているので助かるよな。このクリスマスパーティーのコンセプトに合うものを、俺が茅ヶ崎の酒蔵に行って選んで来たので、味には自信がある。
それに……今日の翠には俺がこの冬にかけて仕上げた萌黄色の着物を着せてやった。翠の透明感ある雰囲気に良く似合っている。クリスマスカラーの緑色だが和風の色合いなので、この寺でのクリスマスパーティーにふさわしいだろう。
翠のために最高の料理と酒を用意し、自ら描いた着物を着せる。こんな至福の時は、少し前には……どんなに手を伸ばしても届かないものだった。
兄の優美な姿を、俺は今、壁にもたれてゆったりと満ち足りた気分で眺めている。翠のために皆が集まり、楽しく過ごしている光景が心地良いのだ。それだけで酔えそうだ。やはり……遠い昔の俺には、どんなに望んでも得られなかったものだから。
(おい流水さん……どこかにいるのか。それとも、もう成仏したのか。今回のこと……危機はあったがちゃんと救えたぞ。翠は今は穏やかな微笑みを浮かべている。どうだ? 安心したか)
もういないであろう故人に思わず報告したくなるほど上機嫌だった。
「翠……俺達まで招いてくれてありがとう」
達哉さんが神妙な顔をして翠に話しかけた。おいおい、まだそんな辛気臭い顔をしているのか。翠はな、繊細にそうに見えても、自分をしっかり持っているし、人の本質を見極める眼も兼ね備えているから安心しろよ。
「達哉、そんな顔するなよ。お前だって苦しかっただろう。……血が繋がった実の弟を告訴するなんて」
「……いや遅すぎたよ。お前の許しに甘えてアイツをあんな男にしたのは俺の責任でもあるから、本来ならばこんな場所に来られる立場ではないのに……俺は結局また翠に甘えているんだな」
「達哉……」
翠が達哉さんの肩にポンっと優しく手を置いた。
「大丈夫だよ。なぁ僕とお前は親友だよな。違うのか」
翠があまりに優美な表情を見せるもんだから、ギョッとした。
おっ、おい、兄さん! その顔はやめろ! 達哉さんが変な気を起こすだろう。まったくあの人は無自覚にそんな優しい笑みを振りまくなと叫びたくなる程、明るい澄んだ笑顔だった。
「翠……お前って奴は……変わらないな。本当にいつも……ありがとうな」
昔だったらこんな光景を見てしまったら、もっと手が震え動揺していただろう。中学生だった俺が、いつも前を歩く高校生の兄たちの仲良さげな様子を羨ましく思っていたのを思い出す。嫉妬したことも、恨んだことも……本当に当時の俺は葛藤しもがいていた。
翠の心も肉体も手に入れた今だから、こんな風にゆったりと辺りを見渡せているのだろう。
それにしても月影寺にはいい男が多いよな。男だけのパーティーなんて、傍からみたら異様だろうが、こんなにも華やかで賑やかな場はそうないだろう。それというのも、翠だけでなく洋くんと涼くんが更なる華を添えてくれているからだ。
さてと……薙……お前はどうなるんだろうな?
その若かりし頃の翠とそっくりな顔をしながら、性格は彩乃さん似でさっぱり負けず嫌い。そこにあの事件を経験したことによって翠に似た思慮深さを兼ね揃えて……これは将来が楽しみだ。
お前はいずれ……女と寝るのか。
それとも男を抱くのか、抱かれるのか……
今はまだあどけなく友人の拓人くんと隅でゲームに興じているが、薙の将来は未知数だ。
「流、息子のことを、そんな変な眼で見てはいけないよ」
気が付けば一通り挨拶の終わった、翠が俺の傍にやってきた。
「はは、翠のこと考えていたんだ。楽しいか」
「うん。こんな風に僕の一声に皆が集まってくれるなんて、すごく嬉しいよ。その……僕はあまりこういうのに慣れていないが、上手く立ち回れているだろうか」
健気なことを言う兄……翠。
本当に参るよな。翠はいつだって長兄らしく振舞い、そして一歩引いたところにいた。
「そうだな、これ以上目立っては困る」
「流……」
そんな可愛い兄にそっと囁くのが、恋人の俺の役目だろう。
今日はクリスマスイブで、明日はクリスマスなんだ。
俺達が結ばれて迎える……初めてのクリスマス。
「なぁパーティーがお開きになったら、俺だけの翠になってくれよ」
「なっ……」
翠の頬がみるみる朱色へと染まっていく。
萌黄色の着物に映える頬の色だ。
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